テスト明けの週末、刻印の痕跡と深まる依存の迷宮
テスト明けの土曜日の朝。
遮光カーテンの隙間から差し込むかすかな冬の光が、真名依真の部屋の畳を冷たく照らしていた。廊下の向こうからは静まり返ったアパートの気配だけが漂い、世界が止まってしまったかのような静寂が部屋を支配している。
藍庭鷗賀は、厚手の布団の中でゆっくりと瞼を開けた。
目覚めた瞬間、全身を襲ったのは重く甘い倦怠感だった。昨日、期末テストが終わった直後に依真によって暗闇の部屋で壁に押し付けられ、激しく刻み込まれた『お仕置き』と『褒美』の記憶。彼女の皮膚の下には、未だに依真の体温と、歯立てられた首筋の痛みが毒のように残っていた。
(……あうぅ……身体が重くて……動かないよぉ……っ)
鷗賀がそっと寝返りを打とうとしたその時、腰に回された細く頑丈な腕が、逃げ出そうとした彼女の体を強引に引き戻した。
「……動くな。どこへ行く気だ」
耳元で響いたのは、まだ少し眠気の残る低い声。振り向くまでもなく、背後から覆いかぶさってくる熱い体温。依真は目を閉じたまま、鷗賀の華奢な肩口に顔を埋め、深々と息を吸い込んだ。彼女の肌に染みついた己の匂いを確認するように。
「い、いつま……っ。もう朝だよ……? そろそろ起きないと……」
「起きる必要がどこにある。テストも終わった。部活の練習も今日は午後からだ。……それとも、また俺の目の届かない場所へ行って、誰かに愛想を振りまきたいのか?」
「ち、違うよぉ……っ! 私、そんなことしないよ……っ」
依真の手先が、鷗賀のパジャマの胸元をすっと滑り降り、昨日彼が深く深く刻みつけた首筋から鎖骨にかけての傷痕へと触れた。爪先が少し触れただけで、鷗賀の体は「んあっ……っ!?」と小さく跳ね上がり、甘い悲鳴が喉から漏れた。
「……まだこんなに腫れているな。俺の噛み痕が、鮮やかな紫赤色でお前を染めている。……綺麗だ、おうか。この痕が存在する限り、お前が誰のものか、世界中の誰もが理解できる」
「いつま……っ、そんなの……服で隠さないと学校にも行けないよぉ……。痛いし……首が熱くてピリピリする……っ」
「痛めばいい。熱を持てばいい。その痛みが走るたびに、お前は俺の顔を思い浮かべるはずだ。お前の脳髄も、皮膚も、心臓の鼓動一つすらも、すべて俺に占有されていると思い知れ」
依真は冷徹な瞳を開くと、身じろぎもできない鷗賀の顎を指先で持ち上げ、その濡れた唇に容赦なく唇を重ねた。朝の冷たい空気の中で、二人の呼吸と体温だけが濃厚に絡み合っていく。
やがて、依真はゆっくりと体を起こすと、無言のまま部屋の角にある鏡台の前へと鷗賀を連れて行った。大きな姿見の前に座らされた鷗賀は、鏡の中に映る自分の姿を見て、息を呑んだ。
乱れた髪、赤く上気した頬――そして、パジャマの襟元から露わになっている、痛々しくも鮮烈な依真の刻印。鎖骨のすぐ上には、昨日噛みつかれた痕がはっきりと歯型となって残り、まるで逃げられない枷のように彼女の白い肌に焼き付いていた。
「……見ろ。これが昨日の成果だ」
依真は後方から鷗賀の細い肩を抱きかかえ、鏡越しに彼女の瞳をじっと見つめた。
「お前はもう、俺の手から離れて生きることはできない。人形だったお前に心を与えたのも俺なら、その体に痛みを刻みつけて人間に繋ぎ止めているのも俺だ。……そうだろ、おうか?」
「……うん……っ」
否定する言葉など、最初から持っていなかった。
怖いはずなのに。依真の執着と狂気じみた独占欲に押し潰されそうなはずなのに――鏡に映る彼の冷たく甘美な瞳に見つめられると、胸の奥がキュンと締め付けられ、自分という存在が彼のものとして満たされていくような、恐ろしいほどの快感が全身を駆け巡るのだった。
「わかればいい。……今日は一日、お前をどこへも出さない。俺の部屋で、俺の目の前で、俺のためだけに時間を使え」
依真は彼女の首筋の傷痕にそっと優しく唇を落とすと、甘い束縛の呪文を唱えるように囁いた。
「お前は俺の最高傑作で……俺だけの永遠の所有物だ、おうか」




