期末テスト最終日、歪んだ褒美と解き放たれる完全な占有
キーンコーンカーンコーン――。
期末テスト最終日、最後の課目を告げる終了チャイムが校舎内に響き渡った。「答案用紙を後ろから集めてください」という試験監督の声を背景に、教室内には安堵と解放感の溜息が広がっていく。
しかし、最前列の席に座る藍庭鷗賀だけは、安堵する余裕など微塵もなかった。彼女の指先はシャープペンシルを握りしめたまま微かに震えており、制服のブラウスの第一ボタンまでしっかりと留められた首元からは、尋常ではない熱気が立ち上っていた。
(……ふぅ……っ、なんとか……全部書けた……。でも、テスト中もずっと首筋が熱くて熱くて……昨日いつまに図書室で噛まれたところが……うずいて集中するのが大変だったよぉ……っ)
鷗賀はそっと右手の指先で首元を確かめる。ブラウスの布地越しに触れる皮膚は激しく脈打っており、真名依真によって刻み込まれた紫赤色の強烈な咬み痕が、今もなお彼女の神経を麻痺させるように甘い痛みを送り続けていた。『俺の体温と、この痛みを思い出しながらペンを動かせ』――テスト中、脳裏で何度も再生された彼の冷徹で甘美な声に、鷗賀の心臓は今も早鐘を打ち続けている。
テスト用紙が回収され、解散の号令がかかると同時に、教室の生徒たちは一斉に席を立ち、部活動やテスト後の打ち上げの話題で盛り上がり始めた。昨日図書室で依真に威圧された陸上部の男子生徒も、遠くから気まずそうに一度だけ鷗賀の様子を伺った後、逃げるように教室を去っていった。
「……おうか」
低い、鼓膜を直接揺らすような声。振り向くよりも早く、後方から歩み寄ってきた依真が、鷗賀の机の横にすっと立った。彼の漆黒の瞳は、まるで外界の騒音など存在しないかのように、一直線に鷗賀だけを捉えている。
「い、いつま……っ。お疲れ様……」
「口を開くな。余計な雑音に意識を割く必要はない。……帰るぞ」
依真は短く言い放つと、鷗賀の返事を待たずに彼女の細い手首を掴んだ。その力強さは拒絶を許さず、周囲の生徒たちの視線も意に介さず、彼は鷗賀を引いて一刻も早く校舎を抜け出した。
冬の冷たい風が頬を刺す帰り道。夕闇が急速に街を包み込んでいく中、二人は並んで歩く。いや、正確には依真が鷗賀の手首を片時も離さず、自分の歩幅に合わせて強引に引き寄せていた。
「あのね……いつま……っ。私、明日の英語も……今日の数学も、いつまに教えてもらったところ、ちゃんと出来たと思うよ……?」
見上げるようにして小声で問いかける鷗賀。依真は視線を前に向けたまま、冷ややかに応えた。
「当然だ。俺が叩き込んだ知識でお前が点数を取れないわけがない。だが……お前が褒美を求めていいかどうかは、採点結果ではなく今夜のお前の態度で決まる」
「えっ……こ、今夜の態度……?」
「昨日の図書室での無防備な醜態、忘れたとは言わせない。他の男に触れられそうになり、甘い声を漏らした罪は重い。……テストが終わったからといって、解放されると思うなよ」
依真の指が手首から滑り落ち、彼女の手の甲を強く握りつぶすように力を込めた。その冷徹な言葉に、鷗賀の背筋を甘い戦慄が駆け抜ける。
やがて、静まり返った真名家のアパートへと到着する。玄関のドアが閉まり、カチリと鍵が施錠された瞬間――空間の空気が一変した。
照明も点けられない暗闇の中、バッグが床に落ちる乾いた音と同時に、鷗賀の身体は壁際へと押し付けられた。突如背中に伝わる冷たい壁の感触と、目の前を覆い尽くす依真の巨大な影。
「ん……っ!? い、いつま……っ、電気も点けないで――」
「黙れと言ったはずだ」
依真の両腕が鷗賀の左右の壁を突き、逃げ場を完全に見失わせる。暗闇の中で怪しく光る彼の瞳が、至近距離から鷗賀を見下ろしていた。依真の長い指先が、鷗賀の制服の襟元に掛かり、ボタンを上からひとつ、ふたつと、迷いなく外していく。
「ひゃっ……! んぁ……いつま、待って……っ! まだテストが終わったばっかりで……頭がぼーっとするよぉ……っ!」
「ぼーっとする頭に、誰の刻印が残っているのかを刻み直してやる。テスト期間中、俺の指導を素直に受け抜いたことへの『褒美』であり……同時に、昨日他の男を近づけた『お仕置き』だ」
押し開かれたブラウス。露出した白い鎖骨と、昨日よりもさらに赤紫に腫れ上がった吸い痕。依真はその傷痕を愛おしむように、しかし乱暴に親指で強く押し潰した。
「あうぅぅっ……っ!? い、痛い……っ、いつま、そこ強く押さないでぇ……っ!」
「痛みを感じろ。痛みが引くたびに、お前は俺以外の世界に目を向けようとする。なら、消えない痛みを刻み続けるまでだ」
依真の唇が降りてくる。逃げようと頭を振る鷗賀の顎を片手で強固に固定し、彼はむき出しになった彼女の首筋、一番柔らかい脈打つ部分へと、躊躇なく再び牙を立てた。
「んぁぁぁぁっ……っ!! ――――っつ……!!」
暗く静かな部屋に、鷗賀の押し殺した悲鳴と甘い喘ぎが響き渡る。依真は彼女の皮膚を強く吸い上げ、噛みつき、己の体温と唾液と執着を、逃れられない毒のように彼女の全身へと注ぎ込んでいく。
テストが終わった解放感も、明日の不安も、すべてが依真の激しい情念の中に溶けて消えていく。壁に押し付けられたまま、鷗賀は震える腕を伸ばし、自分を支配し尽くそうとする依真の背中に、すがりつくようにしがみつくことしか出来なかった――。




