十一月の冷雨、下校途中の雨宿りと相合い傘の密約
十一月中旬。文化祭のあでやかな熱気がすっかり嘘のように冷めやり、北風とともに冬の足音が確実に近づく放課後。どんよりとした鉛色の空からは、みぞれ交じりの冷たい秋雨がパラパラと降り始め、アスファルトを黒く濡らして下校する生徒たちの足を早めさせていた。
陸上部の厳しい冬季補強トレーニングを終えたばかりの藍庭鷗賀は、予期せぬ雨にたたられ、折りたたみ傘も持ってきていなかった。彼女は校門前の古びたバス停の小さな屋根の下で、寒そうに細い腕を固く抱え、吐く息を白く染めながら途方に暮れていた。
走高跳の練習で汗をかいた後の身体は、容赦なく体温を奪われていく。濡れた黒髪の毛先と、寒さで薄く桃色に強張った唇が痛々しく震えていた。その卓越したスタイルと美貌ゆえに、周りを通り過ぎる他校の男子生徒たちが「あの子、困ってるぞ」「傘、入れてあげようか?」と色めき立ち、声をかけようと機会を伺っていた。
だが、その不躾な視線が彼女に届く直前――俺、真名依真が大きな黒い開いた傘を手に、彼らの視線を力ずくで遮るように立ち塞がった。
「……邪魔だ。お前たちの汚い視線を向けるな。消えろ」
俺の底冷えする低音の威圧に気圧され、男子生徒たちは青ざめて逃げるように走り去った。俺はそのまま黒い傘を低く差し出し、屋根の下で怯えるように小さくなっていた鷗賀の首根っこを強引に引き寄せて、一本の傘の下へと力任せに引き入れた。
「ひゃ……っ!? ――い、いつま……っ!?」
黒い傘の布地に包まれた、わずか数十センチの密閉空間。外の冷たいみぞれと叩きつける風を遮るように、俺の体温と独特の匂いが一瞬にして彼女の全身を包み込んだ。
「間抜けな顔で立っているから、雑虫が寄ってくるんだ、おうか」
「ご、ごめんなさい……っ! 傘を忘れちゃって……でも、誰からの誘いも断って、ずっといつまが来てくれるのを待ってたんだよ……っ! 本当だよ……っ!」
言葉の途中で彼女の聲は震えていた。俺は返事をすることなく、彼女の冷え切った細い手首を強い力で掴むと、バス停の裏手にひっそりと佇む、シャッターの降りた古い商店街のアーケードの陰へと彼女を引きずり込んだ。人通りの完全に途絶えた、暗く湿った雨宿りの死角。
大きめの黒傘を二人の頭上に斜めに傾け、外からの視線と雨滴を完全にシャットアウトした状態で、俺は彼女の華奢な腰を引き寄せ、冷たくなった彼女の耳元に唇を寄せた。
「寒そうだな。体じゅうがガクガクと震えているぞ」
「ん……っ、すごく……すごく寒かった……っ。ポイント、いつまがこうして迎えに来てくれたから……もう寒くないよ……っ」
「なら、もっと温めてやる。……ただし、俺の体温はお前を二度と放さないための熱だ。覚悟しろ」
俺は彼女の厚手の制服コートの前ボタンを強引に外すと、冷え切ったブラウスの上から彼女の細い腰のくびれを強く引き寄せ、己の体温を直接彼女の皮膚へと染み込ませていった。冷たくなっていた彼女の肌が、俺の手のひらがもたらす熱を受け止め、瞬く間に赤く熱を帯びていく。
「はぁぁんっ……っ!? ――や、いつま……手、すごく熱い……っ! 体の深いところまでじんじん痺れて……頭がおかしくなりそう……っ!」
「おかしくなればいい。お前の頭の中も、呼吸も、思考も……すべての感覚を俺の熱と鎖で塗り潰してやる」
俺は彼女の小さく震える顎を指先で強く掬い上げると、みぞれの音に包まれた傘の暗がりの中で、寒さで白くなっていた彼女の唇を容赦なく自分の唇で強く奪い去った。
「んむ……っ!? ――ん、はぁ……んぅ……っ! いつ……ま……っ!」
冷たい雨の匂いと、二人の激しく熱い吐息が交差する。鷗賀は自分の細い腕を俺の首元に必死に巻き付け、寒さと背徳の快感に全身を震わせながら、狂おしいほど深くキスの応答を返してきた。彼女の碧緑色の瞳には、俺以外の一切を拒絶する強い狂気が宿っていた。
「ん……っ! 私……いつまの傘の下以外……どこにも行きたくない……っ! 光のある場所なんていらないから……ずっと、ずっとこうして私を縛って温めて……っ!」
「あぁ、逃がさない。お前がどんなに遠くへ走っていこうとしても、この傘と俺の鎖で一生閉じ込めてやる」
降り続く冬の雨の中、相合い傘の小さな暗闇の中で深く交わされた執着と支配の密約。二人は雨音を聞きながら、互いの熱を泥沼のように貪り合い、二度と戻れない愛の深淵へと堕ちていくのだった。




