雨の土曜日、図書室の奥と二人だけの閲覧室
十月中旬の土曜日。朝から途切れなく降り続く秋雨が、静まり返った校舎の窓ガラスを打ち叩き、冷たい水滴の筋を幾本も描いていた。
休日開館の学校図書室。雨の音だけが湿った空気の中に低く響くこの場所には、図書委員の当番である私――真名依真の他に、人の気配は一切なかった。
カチャリ、と重い木製の扉が開く音がした。雨合羽を脱ぎ、少し湿った制服のスカートの裾を気にしながら入ってきたのは、藍庭鷗賀だった。
「……いつま。誰も……いないの?」
雨の日にわざわざ部活のオフを狙って呼び出した私に、鷗賀は濡れたポニーテールを揺らしながら小さく声をかけた。碧緑色の瞳には、これから何が起きるのかを察しているような、微かな震えと期待が混ざり合っている。
「あぁ。こんな豪雨の土曜日にわざわざ図書館に来る物好きはいない。今日は終日、俺たちだけの貸し切りだ」
俺はカウンターから立ち上がると、図書室の最奥――鍵のかかる旧資料閲覧室の扉を開け、彼女の細い手首を掴んで室内へと引き入れた。
ガチャリ。施錠の音が狭い空間に響き渡る。壁一面を埋め尽くす古い革装本の匂いと、雨の日の湿気が満ちた、完璧な密室空間。
「ひゃ……っ! いつま、そんなに急に引っ張らないで……っ」
俺は彼女を巨大な本棚の木製背板へと強引に押し付けた。ドサドサと古書がかすかに揺れる音が周囲に響く。
「先週の屋上でのお仕置き……まだ反省が足りないようだな、おうか」
「え……っ!? 嘘……っ、私、今週はいつまの言った通り、男子生徒とは一切話さないように気を付けてたよ……っ! 新聞部の取材も全部断ったのに……っ!」
「知っている。だが、お前が陸上部の練習中に見せるあの躍動感と、汗ばんだ肌……それ自体が他人の視線を誘惑しているんだ。お前が存在しているだけで、俺の胸の奥の檻が壊れそうになる」
俺の理不尽極まる独占欲の言葉に、鷗賀はキュッと唇を噛み締め、涙目で俺の制服の襟元を見つめた。
「そんなの……私のせいじゃないよぅ……っ。打破……いつまがそうやって嫉妬してくれるの、本当はすごく嬉しい……っ」
俺は彼女の濡れた髪をかき分け、耳元で低く呟きながら、制服のブラウスの隙間から滑り込ませた手で彼女の冷えたお腹と腰のくびれを強く撫で上げた。
「くぅん……っ!? ――や、そこ……冷たい……っ、んぁっ!」
「静かにしろ。声が漏れたら、外の廊下に響くぞ」
「ん……っ、だって……いつまの手が……熱くて……っ!」
薄暗い本棚の陰、雨音に包まれた禁忌の閲覧室。誰にも見られない安全な檻の中で、鷗賀の身体は俺の指先一つで甘く熱くしびれていく。全校生徒の憧れである跳高のチャンピオンが、俺の足元で指一本動かせずに喘いでいるのだ。
「お前の心も、その記録も、身体のすべて……俺の許可なく誰にも見せるな。お前は俺だけの小鳥だ」
「うん……っ、私、いつまだけの小鳥だよ……っ! だから……もっと強く抱きしめて……っ!」
自ら支配を乞う彼女の顎をすくい上げ、俺は熟した果実のような彼女の唇を深く、深く貪り尽くした。
「んむ……っ!? ――ん、はぁ……んぅ……っ!」
外の雨音は強まるばかり。しかし、この密室の中で交わされる二人の熱い吐息と深い愛の刻印は、誰に邪魔されることもなく、どこまでも深く深淵へと沈んでいくのだった。




