夏終のグラウンド、マットの上の指導と密やかな刻印
八月下旬。長かった夏休みも終盤を迎え、秋の気配がほんのわずかに混ざり始めたものの、照りつける陽射しは未だに焦げるような熱を孕んでいた。
午前七時。開校前の静まり返った私立校のグラウンド。
誰もいない広大なトラックの隅で、乾いた踏み切り音が響いていた。
「――っ、はぁ……っ! よい、しょ……っ!」
背退び(フォスベリー・フロップ)の美しいアーチを描き、空中でしなる少女の身体。
藍庭鷗賀が、バーを軽々とクリアし、厚手の跳躍用マットの上へと背中から落ちる。
秋の新人戦に向けた、自主的な早朝特訓。
今日の彼女は、学校指定の最もタイトで露出度の高い、紺色と白の陸上セパレートウェアを身に纏っていた。
引き締まった腹筋、走ることで鍛え上げられた太もも、そして汗でほんのりと濡れて肌に張り付く生地のライン。彼女が跳躍するたびに、その健康美と妖艶さが太陽の光の下で露わになる。
「ふぅ……っ! いつま、今の跳躍……どうだった……!?」
マットの上で起き上がり、額の汗を小さく拭いながら、碧緑色の瞳を輝かせてこちらを見つめてくる鷗賀。
俺――真名依真は、パイプ椅子に腰掛け、ストップウォッチと記録用タブレットを手に持ったまま、冷徹な視線を彼女へと向けた。
「踏み切り位置がわずかに近い。バーを超える瞬間の腰の引き上げも甘いな。これでは150センチの壁は越えられない」
「うぐっ……相変わらず厳しいなぁ……。でも、いつまがコーチを引き受けてくれてすごく嬉しいよ」
へこむどころか、嬉しそうに微笑みながらマットから降りてくる鷗賀。
彼女は俺のペットボトルの水を一口飲むと、スポーツタオルで首筋の汗を拭った。その無防備な仕草から漂う、甘い汗と制汗スプレーの香りが俺の鼻腔をくすぐる。
「……おうか。マットに戻れ」
「え……? あ、うん! もう一回跳ぶ練習……?」
「違う。『フォームの直接指導』だ」
俺はパイプ椅子から立ち上がると、誰もいないグラウンドで、彼女の手首を強引に掴んで巨大な跳躍マットの上へと押し倒した。
「ふあっ……!? ――い、いつま……っ!?」
柔らかく沈み込む青いマットの上。
倒れ込んだ鷗賀の上に覆いかぶさるようにして、俺は彼女の両手首を頭の上で片手で固定した。
「な、なに……っ? ここ、学校のグラウンドだよ……!? 誰か来ちゃったら……っ!」
「誰も来ない。早朝のこの時間にグラウンドの解錠許可を持っているのは、臨時マネージャーの俺だけだ」
俺は彼女の耳元で低く呟きながら、空いた方の手で彼女のキュッと引き締まったウエスト、そしてバーを超える際に最も重要な腰の骨のあたりを指先で強く撫で上げた。
「くぅん……っ!? ――や、そこ……くすぐったい……っ、んぁっ!」
「跳躍の瞬間、お前の背中のアーチが足りないのは、この腰の角度が固定されていないからだ。もっとしならせろ」
「し、しならせるって……っ、そんな触り方……指導じゃないよぅ……っ!」
汗ばんだ肌に触れられるたび、鷗賀の身体が甘い悲鳴とともにびくんと跳ね上がる。
セパレートウェアから露出した白いお腹が、荒い呼吸とともに激しく上下していた。太陽の光の下という、あまりにも開放的で露出された場所。誰かに見られるかもしれないという恐怖が、彼女の感覚を極限まで過敏にさせていく。
「お前は跳ぶことだけに集中しろと言ったはずだ。だが、お前が跳ぶ姿を俺以外の誰かに見せると思うと……胸の奥が苛ついて仕方がなくなる」
「いつ……ま……っ。また……嫉妬してるの……?」
「そうだ。秋の大会になれば、何百人もの観客がお前のその姿を見ることになる。だから……今のうちに、お前が誰のものなのか、この身体に深く叩き込んでおく必要がある」
俺は彼女のウェアの胸元を少しだけ押し下げ、日焼けしていない白い鎖骨のあたりへ、躊躇なく深く歯を立てて噛みついた。
「ひゃあああぁぁっ……!? ――やぁっ! 噛まないで……っ、跡が残っちゃう……っ!」
「残ればいい。大会のユニフォームを着た時、他人の目がそこに釘付けになるようにしてやる」
「ううっ……意地悪……っ、狂ってるよ、いつま……っ! んぁ……っ!」
涙目で抗議しながらも、鷗賀は俺の首に自ら腕を回し、マットの上で背中を反らせながら俺の吻を受け入れた。
青空の下、誰の目も届かない運動場の真ん中で、熱い吐息と唾液の音が重なり合っていく。
「んむ……っ!? ――ん、はぁ……んぅ……っ! いつ……ま……大好き……っ。私の身体も……跳躍も……全部いつまにあげるから……っ!」
「あぁ、お前は俺の目の届く場所でだけ、高く跳べばいい」
夏終わりの強い日差しが照りつける中、二人は青いマットの上で、永遠のように解けない支配の絆を確かめ合うのだった。




