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梅雨の図書室と、書架の陰の無言の吐息

六月。降り止まない梅雨の雨が、校舎の窓ガラスを絶え間なく濡らし続けていた。

放課後の校舎はいつもより暗く、しっとりとした湿気と濡れたアスファルトの匂いが廊下に満ちている。


期中テストを数日後に控えたこの日、俺――真名依真まな いつま藍庭鷗賀あいにわ おうかは、校舎の最北端にある旧図書室へと足を運んでいた。

新館に新しい図書室が出来て以来、ここは利用する生徒もほとんどおらず、放課後はまるで時間が止まったかのような静寂に包まれる場所だった。


トントン、と雨音だけが屋根を叩く音が響く。


「……ふぅ、ここなら静かで勉強に集中できそうだね、いつま」


閲覧用の古い木製テーブルにノートと問題集を広げながら、鷗賀が小さく息を吐いた。

今日の彼女は、雨で少し湿った黒髪を後ろで緩くまとめており、制服のブラウスからはほんのりと雨の日の濡れた肌の香りが漂っていた。


「あぁ。邪魔な奴らは誰も来ない」

俺は彼女の向かい側に座り、赤ペンを指先で弄びながら、向かいの少女をじっと見つめた。


真面目に数学の問題集と向き合う鷗賀。

長くて綺麗なまつ毛が伏せられるたびに、窓からのうすら寒い光を受け、彼女の横顔が儚く浮かび上がる。だが、テスト勉強のために俺の前に座っているはずの彼女の存在そのものが、俺の支配欲を酷く刺激していた。


(……真面目に勉強なんてしてんじゃねえよ)


俺はテーブルの下で、自分の足をゆっくりと前に伸び出した。

そして、ローファーを脱いだ俺の足のつま先を、向かい側に座る鷗賀の膝にそっと触れさせた。


「っ……!?」


鷗賀の肩がビクッと跳ね上がる。

彼女は驚いて顔を上げると、図書館の静寂を気にして、声を出さずに口パクで強く訴えかけてきた。


「(な、なに……いつま? 今勉強中だよ……っ)」


俺は返事をする代わりに、ノートの端を破り、素早くシャープペンを走らせた。


『奥の歴史書の書架の裏に来い。カウント5以内だ』


小さく折った紙切れを、テーブル越しに彼女のノートの上へと滑らせる。

そこに書かれた文字を目にした瞬間、鷗賀の碧緑色の瞳が揺れた。彼女はチラリと周囲を見回したが、図書室には雨の音以外、人っ子一人いない。


「(ダメだよ……ここ図書室だし……見つかったらどうするの……っ)」

必死に首を振る鷗賀。


俺は冷酷な笑みを浮かべると、立ち上がり、迷うことなく高く聳え立つ歴史書の書架の陰へと向かった。

そして、壁と書架に挟まれた、光の届かない一番暗いスペースで足を止めた。


「1……2……3……」

俺が声に出さず唇だけでカウントを進めると、4を数える手前で、パタパタと焦った軽い足音が近づいてきた。


「っ……いつまのバカ……っ!」


書架の陰に飛び込んできた鷗賀。

俺は彼女が言葉を紡ぎ切る前に、その細い腕を掴んで壁へと押し付け、逃げ道を完全に塞いだ。


「ひゃうっ……! ――んぅ……っ!」


大声を出してはいけないという極限の緊張感から、鷗賀は自ら両手で口元を覆い、悲鳴を押し殺した。

古い紙の匂いと、雨の湿気、そして二人だけの熱い吐息が、狭い書架の空間に充満していく。


「ちゃんと来たじゃないか。偉いぞ、おうか」

「う……いつまが無理言ったからでしょ……っ。こんなところで何するつもり……?」


上目遣いで睨みつけてくる彼女。だが、その瞳は恐怖ではなく、静寂の禁忌に対する甘い快感で潤んでいた。


「なにって……決まってるだろ。勉強の『集中力』を高めてやるんだよ」


俺は彼女のスカートの裾に手を滑り込ませた。

雨で少ししっとりとした彼女の太ももの肌に、俺の手のひらの熱がダイレクトに伝わる。


「っ――!? ――や、いつま……それ、だめ……っ! 音が出ちゃう……っ!」


鷗賀は必死に首を振り、俺の胸元をポカポカと弱々しく叩いて抗議した。

ここは図書室。少しでも大きな声を出せば、図書委員や教師に気づかれるかもしれないという背徳感。その恐怖が、彼女の感性を狂おしいほどに過敏にさせていた。


「声を出さなきゃいいだけだ。……ほら、我慢してみろ」


俺の指先が、彼女の太ももの内側をゆっくりと、圧力をかけながら上へと辿っていく。


「んん――っ……! ――ふぅぅ……っ!」


鷗賀は俺の制服の襟を握りしめ、自分から俺の胸元に顔を押し付けて、甘い悲鳴を押し殺した。

彼女の身体がガタガタと甘く震え、俺の手にしがみつく指先に強い力がこもる。


「可愛い声だな。……ほら、ご褒美だ」


俺は彼女の顎を持ち上げると、声を出せない彼女の熟した唇へと、音を立てないように優しく、だけど深く自分の唇を重ねた。


「んむ……っ!? ――ん、はぁ……んぅ……っ!」


雨音だけが支配する無言の図書室での、密やかな深吻。

舌が絡み合うたびに漏れ出そうになる息を、お互いの唇で塞ぎ合いながら、二人は貪るようにキスを深めていった。


「んむ……っ、いつ……ま……大好き……っ」

口を離した瞬間に、消え入りそうな声で囁く鷗賀。


「あぁ、俺もだ。テストが終わったら、また俺の部屋でたっぷり可愛がってやるからな」


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