桜のキャンパスと、生意気な後輩への見せつけ
四月。校門から続く桜並木が満開を迎え、薄桃色の花びらが春風に乗って舞い落ちる季節。
新学期の始業式が終わり、新しく発表されたクラス分けの掲示板の前で、俺――真名依真は静かに自分の名前を探していた。
「――あっ! いつま! 見て見て、同じクラスだよ! 三年二組!」
人混みの中から、弾んだ声とともに飛び出してきたのは藍庭鷗賀だった。
ポニーテールを揺らし、新しくなった学年章を胸に付けた彼女は、まるで太陽のように眩しい笑顔で俺の腕に抱きついてきた。
「あぁ、知ってるよ。お前が俺と違うクラスになれるわけないだろ」
「もうっ、いつまはすぐそうやって威張るんだから……。でも、よかった……また一番近くで、いつまと一緒にいられる」
彼女は頬をピンク色に染めながら、俺の制服の袖を嬉しそうにぎゅっと握りしめてきた。
春の温かい日差しと、舞い散る櫻の花びら。最高の一年のスタートを切った――そう思っていた矢先のことだった。
「――藍庭先輩っ! ここにいらっしゃったんですね!」
人混みを掻き分けて走ってきたのは、今年陸上部に入部してきたばかりの一年級の男子生徒だった。
背が高く、爽やかなスポーツマンタイプのその新入生は、俺の存在など目に入っていないかのように、目を輝かせて鷗賀へと駆け寄ってきた。
「新入生歓迎の部活動紹介、先輩の跳び方すごくカッコよかったです! 俺、藍庭先輩の一メートル四十五の記録を見て、この学校の陸上部に入ろうって決めたんです! 今日の放課後の練習、指導してもらえませんか!?」
身を乗り出して鷗賀に詰め寄る後輩男子。
鷗賀は突然の熱烈なアプローチに少し驚いたように後退りしながらも、持ち前の面倒見の良さから苦笑いを浮かべた。
「えっ……あ、ありがとう。でも私、今日はクラスの委員決めがあって……」
「じゃあ、それが終わったらグラウンドで待ってます! 先輩の跳躍、もっと近くで見たいです!」
無邪気で無遠慮な崇拝の視線。
その男子生徒が鷗賀の華奢な肩に手を伸ばそうとした瞬間――俺は無言で鷗賀の腰を引き寄せ、彼女の身體を俺の後ろへと隠すように立ちはだかった。
「っ……!? あなたは……?」
後輩男子が不快そうに俺を睨みつけてくる。
「俺はこいつの『飼い主』だ。お前みたいな青臭い新入生が気安く触れていい女じゃない」
俺の冷酷で底知れない殺気に、後輩男子は気圧されたように一歩後退った。
だが、俺の支配欲はそれでは収まらなかった。
「い、いつま……みんな見てるよ……っ?」
俺の後ろで怯えるように袖を引っ張ってくる鷗賀。
俺は周囲の生徒たちの視線など完全に無視し、彼女の細い顎を指先で強引に掬い上げると、その熟したイチゴのような唇へと、全校生徒の前で容赦なく自分の唇を叩きつけた。
「んむ……っ!? ――ん、はぁ……っ!?」
桜吹雪が舞う校庭の真ん中で、激しい唾液の音が響く。
後輩男子が絶句し、周囲のクラスメイトたちから「きゃあっ!」「依真くん、やばっ……!」という悲鳴のような歓声が沸き起こる。
俺は一分近くも彼女の唇を貪り尽くすと、窒息しそうになって息を弾ませる鷗賀の腰を強く抱きしめたまま、呆然と立ち尽くす後輩男子を冷たく見下ろした。
「分かったか? こいつの記録も、走る姿も、その甘い身体も……全部俺だけのものだ。二度とお前みたいな男が近づかないように、よく覚えておけ」
「っ……くそっ……!」
後輩男子は顔を真っ赤にして、逃げるように走り去っていった。
俺の胸元で、真っ赤になった顔を隠すように埋めてくる鷗賀。
彼女は俺のシャツをぎゅっと握りしめ、恥ずかしさと甘い恍惚感に満ちた声で囁いてきた。
「……いつまのバカ……。新学期初日から、こんな派手に手を出したら……私、もう学校中で『いつまのもの』って噂されちゃうじゃん……っ」
「最初から俺のものだろ。文句があるなら、今日の放課後、俺の部屋でたっぷりお仕置きしてやる」
「うぐっ……っ、お仕置きなんて嫌だけど……でも、いつまが嫉妬してくれて……すごく嬉しかった……っ」
上目遣いで微笑む、俺の愛おしい恋人。
三年生になっても、どんな奴らが邪魔をしてこようとも、彼女が俺の檻から逃げ出すことなんて絶対にできないのだ。




