こたつの中の密約と、熱を帯びた爪先
放課後の部活動が終わる頃、冬の空からは小さな白い粉雪が舞い散り始めていた。
校門の前で待ち合わせていた俺――真名依真と、陸上部の自主練を終えたばかりの藍庭鷗賀は、凍えるような寒さから逃げるようにして、俺のマンションの部屋へと足早に向かった。
「……はぁ、サムサム……っ! 今日の練習、風が強くて本当に死ぬかと思ったよ……っ」
鍵を開けて部屋に入るなり、鷗賀は玄関でローファーを脱ぎ捨て、つま先をモジモジと擦り合わせながらリビングへと駆け込んできた。
寒さのせいで鼻の頭と両頬を真っ赤に染めた彼女は、リビングの中央に鎮座する『こたつ』を見るや否や、吸い寄せられるようにその中へと滑り込んだ。
「ふあぁぁ……生き返る……。こたつって、どうしてこんなに人をダメにするんだろう……」
上掛けの布団を胸元まで引き上げ、幸せそうに目を細める鷗賀。
俺はキッチンで温かいココアを二つ淹れ、トレーに乗せてリビングへと戻ってきた。こたつの向かい側に腰を下ろし、湯気の立つマグカップを彼女の前に置く。
「はい、ココア」
「わぁ、ありがとう、いつま! いただきます……んむ、あたたかい……」
両手でマグカップを包み込み、フーフーと息を吹きかけながら一口ずつ啜る鷗賀。
そのポニーテールから覗く首筋や、制服のカーディガンの胸元が、部屋の暖房とこたつの熱気によってほんのりとピンク色に色づいていく。
「……で? 授業中のあの紙條の約束、忘れてないだろうな」
俺はココアを一口口に含むと、冷ややかな視線で彼女を射抜いた。
「うぐっ……っ! こ、ココア飲んでる時にその話する……?」
鷗賀はマグカップを抱えたまま、気まずそうに視線を泳がせた。
「『部活が終わったら俺の家に来い』って言ったろ。お前は授業中、俺の手を振り払おうとした。そのお仕置きと、お前のその無防備な身体への復習の時間だ」
「む、無防備って何よ……っ。私、ちゃんとお洋服着てるもん……っ」
「着てればいいって問題じゃない。お前は今日、陸上部で他校の男子選手と一緒に走ってたろ。俺は校舎の窓から全部見てたんだよ」
「っ――!?」
鷗賀の碧緑色の瞳が、驚愕で大きく見開かれた。
「だ、だから言ったじゃん! あれは合同練習のメニューの確認で、私はただメニュー通りに走ってただけで……っ」
「理由なんて聞いてない。俺以外の男の視線にその脚を晒して、楽しそうに息を弾ませてたことが気に入らないんだよ」
俺はマグカップをテーブルに置くと、こたつの中で長めの大腿を静かに伸ばした。
厚手のこたつ布団に覆われた、完全な暗闇の密室。その中で、俺のローファーを脱いだ足のつま先が、向かい側に座る鷗賀のタイツに包まれた足首へと静かに触れた。
「ひゃうんっ!? ――い、いつま……っ!?」
突然の暗闇からの愛撫に、鷗賀の身体が跳ね上がるように強張った。
「動くな。……陸上部で死ぬほど走ってきたんだろ。脚、疲れてんじゃないのか?」
「つ、疲れてるけど……っ、こたつの中で足触らないでよ……っ。なんか、変な感じがする……っ」
「変な感じ? ただのマッサージだよ。……ほら、力を抜け」
俺はこたつの中で、彼女の細い足首を俺の両足で挟み込み、そのままゆっくりと逃げられないように固定した。
そして、俺の手をこたつの敷布団の下へと滑り込ませた。
暗闇の中で、俺の手のひらが彼女の柔らかく引き締まったふくらはぎを包み込む。
冬用の黒い厚手タイツ越しでも分かる、彼女の肉体のなめらかな熱さと、鍛え上げられた筋肉の弾力。俺の指先が、足首から膝の裏、そして禁断の太ももの境界線へと、じわじわと圧力をかけながら登っていく。
「んあ……っ!? ――や、いつま……それ、マッサージじゃない……っ!」
鷗賀は顔を真っ赤にして、テーブルの上に伏せるようにして喘ぎ声を殺した。
こたつの上では、ただ二人がココアを飲んで静かに話しているように見えて、布団の下では生々しい指先の情事が繰り広げられている。この異常な温度差が、彼女の羞恥心を極限まで煽り立てていた。
「何が違うんだ? お前の脚の疲れをとってやってるんだぞ。……ほら、ここ、すごく凝ってる」
俺の親指が、彼女の太ももの内側の柔らかい肉をぐっと押し込む。
「ひゃいっ……んぅ……っ! あ、だめ……そこ、すっごくくすぐったい……ていうか、熱い……っ!」
鷗賀の指先が、こたつの上掛け布団をぎゅっと握りしめる。
彼女の碧緑色の瞳は潤み、息は荒くなり、その熟したイチゴのような唇からは、抑えきれない甘い吐息が零れ落ちていた。
「いつまの……いじわる……っ。こんなの、絶対にお仕置きだよぉ……っ」
「お仕置きだって言ったろ。お前が俺の檻から出ようとするからだ。……なぁ、おうか。お前のこの綺麗な脚は、誰のために走るためにあるんだ?」
「ひぅ……っ、いつま……いつまのため……っ。私、いつまに見てもらうためだけに……走ってるのに……っ」
「なら、他の男にその脚を見せるな。お前の走る姿も、疲れて甘える姿も、全部俺だけのものだ」
俺はこたつの中で彼女の太ももをさらに強く引き寄せると、同時に身体を乗り出し、こたつのテーブル越しに彼女の顎を指先で強く掬い上げた。
「んむ……っ!?」
逃げ場を失った彼女の唇に、俺の唇を容赦なく叩きつける。
「んぅ……っ! ――ん、はぁ……っ、いつ……ま……っ!」
こたつの中の脚の愛撫と、こたつの上の激しい深吻。
上下からの挟み撃ちに、鷗賀の理性は完全に崩壊した。彼女はテーブルの上に身を乗り出し、俺の制服の襟元に必死にしがみつきながら、俺の舌を受け入れ、狂ったように吻を返し始めてきた。
お互いの熱い吐息が、冬の冷たい空気を溶かしていく。
こたつの下で絡み合う二人の足と指先。外では白く冷たい雪が静かに降り積もっていたが、この部屋の、こたつの中だけは、世界のどこよりも濃厚で狂おしい愛の密室へと変貌していた。
「んむ……っ、はぁ……っ、いつま……大好き……っ。私を……いつまの足元から、一生離さないで……っ」
「あぁ、離さない。お前が泣いて許しを請うても、一生俺のこたつの中から出してやらないからな」
もうすぐ、寒くて甘いバレンタインがやってくる。
だけど、そんな世間のイベントなんて関係なく、俺たちはこの暗く温かい密室の中で、お互いの存在をどこまでも深く、深く刻み込み続けるのだった。




