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すれ違う熱量と、雨の日の沈黙

ポツポツと、放課後の窓ガラスを叩く雨音が、重苦しく教室に響いていた。

文化祭が終わり、冬の足音が近づくにつれて、俺――真名依真まな いつま藍庭鷗賀あいにわ おうかの間に漂う空気は、少しずつ、だけど確実に歪み始めていた。


原因は、俺の行き過ぎた独占欲と、彼女が抱え込んだ『小さな秘密』だった。


「……なぁ、おうか。今日の放課後、陸上部の他校との合同記録会の打ち合わせ、なんで俺に黙ってたんだ?」


クラスの連中が全員下校し、薄暗くなった二年の教室。

俺は自分の席に座ったまま、カバンを抱えて立ち尽くす鷗賀を、冷ややかな視線で見上げながら問い詰めた。


「え……っ、それは……っ」

鷗賀の身体がびくりと跳ね上がる。

彼女は気まずそうに視線を泳がせ、制服のスカートの裾をぎゅっと握りしめた。


「ただの、部活の連絡だよ……。他校の男子選手も来るけど、本当にただのリレーの引き継ぎの確認で……いつまに言ったら、また怒るかなって思って……」


「怒るから隠した、か」

俺は冷笑を浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。

脚を鳴らして彼女へと一歩踏み出す。その圧迫感に、鷗賀は思わず後退りした。


「俺に黙って他の男と連絡を取り合ってたことが問題なんだよ。お前は俺の女だろ? なのに、俺に嘘をついて、俺の知らないところで他の男と笑い合ってるのか?」


「嘘なんてついてないよ! 隠してたのは悪かったと思うけど……でも、いつまは最近、ちょっと行き過ぎだよ!」


いつもなら俺の言葉にすぐに折れ、涙目になって服従する鷗賀が、珍しく強い口調で言い返してきた。

彼女の碧緑色の瞳には、悔しさと、抑え込んできたストレスの涙が溜まっている。


「私だって、陸上部のエースとして頑張りたいの! 部活の仲間と話すことすら『浮気だ』みたいに言われたら、私、どうしていいか分からなくなっちゃうよ……っ!」


「頑張るためなら、俺に隠し事をしていいわけがないだろ。お前はただ、俺の独占欲から逃げたかっただけだ」


「違う! 私はいつまのことが大好きだから……っ! だからこれ以上嫌われたくなくて……っ!」


「なら最初から俺だけに全部預けろよ!!」


俺の怒声が、雨の教室に響き渡った。

鷗賀はビクッと肩を揺らし、息を呑んだ。


今まで見せたことのない俺の本当の感情の爆発に、彼女の瞳から大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちていく。


「……もういい」

俺は吐き捨てるように言うと、彼女の横を通り抜け、カバンを掴んで教室のドアへと向かった。


「いつま……待って、いつま……っ!」

背後で鷗賀が必死に叫び、俺の服の袖を掴もうとしてきた。だけど、俺はその手を冷たく振り払ってしまった。


「お前が俺のことよりも部活や周りの目を優先するなら、しばらく一人で考えろ」


バタン、と重いドアを閉める。

廊下に残された俺の手のひらには、彼女を拒絶してしまった冷たい感触だけが重く残っていた。


それからの数日間、俺たちの間には恐ろしいほどの沈黙(冷戦)が訪れた。


毎朝一緒に登校していた道も、放課後の教室も。

鷗賀は俺と目が合ってもすぐに俯き、話しかけることすらできずにいた。クラスの奴らも「あれ……あいつら喧嘩してね?」と遠巻きに察し、教室の空気は重く冷え切っていた。


だけど、二人とも分かっていたのだ。

お互いを嫌いになったから口をきかないのではない。

愛が深すぎるからこそ、お互いの存在が大きすぎるからこそ、どう向き合えばいいのか分からなくなってしまっているのだと。


雨の日の放課後。

一人で誰もいない屋上へと続く階段の踊り場で、俺は冷たい壁に背中を預けていた。

胸の奥が、焼け付くように痛い。彼女の泣き顔が、振り払ったあの手の震えが、脳裏から離れなかった。


(俺は……何をやってるんだ)


彼女を誰よりも愛しているはずなのに。自分の手で、一番大切な彼女を傷つけてしまっている。

その時、階段の下から、小さく不器用な足音が近づいてきた。


「……いつま」


雨の光が差し込む踊り場に現れたのは、目を真っ赤に腫らし、見る影もなく塞ぎ込んだ藍庭鷗賀だった。

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