カラオケボックスの薄暗がりと、膝の上の甘い報酬
後夜祭のあの熱狂的な旋風が走り抜けた後、二年B班の打ち上げは駅前のカラオケボックスへと舞台を移していた。
大部屋のドアを開けると、ミラーボールのカラフルな光がぐるぐると回り、大スピーカーからはアニソンやポップスが爆音で流れている。クラスの連中はドリンクバーで取ってきたジュースを手に、完全に羽を伸ばしてバカ騒ぎしていた。
「おい真名! 藍庭! お前らもなんか歌えよー!」
「後夜祭のあのキス見せつけられた後じゃ、何歌っても霞むけどなー!」
木村たちがマイクを手にからかってくるが、俺――真名依真は適当に手を振ってあしらい、部屋の最も奥――スピーカーの影になり、廊下からも見えにくい暗がりのソファへと向かった。
その隣には、すっかり縮こまった藍庭鷗賀が、俺の服の裾をギュッと掴んだままピタリとくっついて歩いてくる。
後夜祭で全校生徒の前で『服従の告白』をさせられ、さらに大勢の目の前で深いキスを交わされた余韻が、まだ彼女の全身を支配しているらしい。制服の隙間から覗くうなじや耳の裏まで、真っ赤に熟した熟柿のように色づいていた。
「……いつま、みんな見てるよ……。私、もう恥ずかしくて顔があげられない……っ」
ドサリと奥のソファに腰を下ろすと、鷗賀は逃げ込むように俺の肩に顔を押し付けてきた。
爆音のBGMとミラーボールの光が交錯する中、俺たちの座るコーナーだけは、まるで外界から遮断された『濃密な密室』のような雰囲気が漂っている。
「何言分だ。あんなに堂々と『いつまだけのもの』って全校生徒の前で宣言したんだ。今更恥ずかしがっても遅いんだよ」
俺は冷酷な笑みを浮かべると、彼女の細い腰に手を回し、引き寄せた。
そして、彼女の体を強引に持ち上げ――俺の膝の上に、正面から跨がせるような形でドサリと乗せた。
「ひゃうんっ!? ――い、いつま!? 何するの……っ!?」
突然の体勢の変化に、鷗賀の碧緑色の瞳が恐怖と羞恥で大きく見開かれる。
俺の太ももの上に、彼女の柔らかいお尻と太ももがすっぽりと乗っかっている状態だ。彼女の制服のスカートが捲れ上がり、白い肌と絶対領域が俺の目の前で無防備に晒される。
「おい、離れて……っ! ここ、クラスのみんながいるんだよ!? 誰か振り向いたらどうするの……っ!」
鷗賀はパニックになり、俺の胸を両手でポカポカと弱々しく叩いて逃げようとする。
だが、俺は彼女の腰を両腕でガッチリとホールドし、逃げ道を完全に塞いだ。
「振り向いたら見せつけてやればいいだろ。それに、この暗がりと爆音だ。前でマイク握って騒いでる奴らが、後ろの俺たちに気づくわけない」
俺は彼女の耳元に顔を近づけ、重く熱い吐息を滑り込ませた。
「それとも何だ? お前は今日、俺のために一生懸命メイド服着て、フォークダンスで全校生徒の前で俺のものだって証明したんだろ。……文化祭、よく頑張ったな」
「っ……いつ、ま……?」
俺の突然の労いの言葉に、鷗賀の抵抗の手がピタリと止まった。
「頑張ったお前に、ご褒美をやるって言ってるんだよ。……『彼女』としての、特別なご褒美をな」
俺は膝の上の彼女の顎をクイッと持ち上げ、ミラーボールの光が届かない影の中で、彼女の熟れた唇へと自分の唇を重ねた。
「んむ……っ!? ――ん、ふあ……っ……!」
大音量の音楽にかき消される、小さな甘い喘ぎ声。
包廂の喧騒のすぐ後ろで繰り広げられる、背徳的な秘密のキス。お互いの舌が絡み合い、彼女の口内から溢れる甘い吐息が、俺の理性をどこまでも狂わせていく。
鷗賀の身体が甘く震え、彼女の両腕はいつの間にか俺の首の後ろへと回されていた。
『誰かに見られるかもしれない』という極限の緊張感が、彼女の感性を異常なほど研ぎ澄ませているらしく、彼女は俺の唇を貪るように、激しくキスに応えてきた。
「んむ……っ、はぁ……ん、いつま……っ、もっと……っ」
唇を離すと、鷗賀は完全に理性を溶かされた表情で、熱い吐息を漏らしながら俺を見つめていた。
もう、クラスの奴らの視線なんて、彼女の頭の中には一粒も残っていない。ここにいるのは、俺の膝の上で、俺の熱に完全に依存しきった一人の恋する少女だけだ。
「……どうだ? 膝の上の居心地は」
「……サイコー……だけど、胸が苦しくて、壊れそう……っ」
鷗賀は俺の首に抱きついたまま、俺の胸元に顔を埋めてハァハァと息を整えていた。
彼女の細い指が、俺の服の布地をギュッと握りしめる。その強さは、二度とこの場所から離れたくないという、彼女の無意識の答えそのものだった。
「文化祭が終わっても、お前は一生俺の膝の上から降りられないからな、おうか」
「……うん……降りない……いつまが降りていいよって言っても、絶対に離れないから……っ」
俺はクラスメイトたちの歓声と爆音に包まれたカラオケボックスの暗がりで、俺の膝の上で完全に屈服した愛おしい恋人を、誰の目からも隠すように、さらに強く、深く抱きしめ続けるのだった。




