焦燥のフォークダンスと、赫き炎の誓い
文化祭の喧騒が最高潮を迎えた後、夕闇の訪れとともに校庭の中央には巨大なキャンプファイヤーが組まれた。
パチパチと音を立てて夜空へ舞い上がる火の粉と、赤々と燃え盛る炎。その周囲を、興奮冷めやらぬ生徒たちが取り囲んでいる。
後夜祭。そして、そのクライマックスを飾るフォークダンス。
『この火の前で手を繋いで踊った男女は、一生結ばれる』
そんな、ありきたりで、だけど高校生たちにとっては絶対的な意味を持つ都市伝説のせいで、校庭の空気は異様な熱を帯びていた。
「おい、見ろよ……陸上部の藍庭だろ、あの可愛い子!」
「今日、女装喫茶でメイド服着てただろ? マジでヤバかったよな……」
「今フリーか? 誰か誘いに行かねえの?」
ファイヤーの光に照らされたグラウンドの片隅で、藍庭鷗賀は当惑したように佇んでいた。
さすがにあの黒レースのメイド服からは着替えていたが、今はいつも通りの制服姿。しかし、昼間の余韻のせいか、放たれた黒髪が炎の光に揺れて、いつも以上の少女らしい色気を放っている。そのせいで、彼女の周りには下心を隠しきれない他クラスの男子どもが、手ぐすねを引いて群がろうとしていた。
「あの、藍庭さん! もしよかったら、俺と一曲――」
「いや、俺が先だろ! 藍庭さん、俺と踊ってくれない?」
口々に手を伸ばしてくる有象無象の男子生徒たち。
鷗賀は、あの更衣室での激しい抱擁のせいでまだ微かに潤んでいる瞳を泳がせ、何度も何度も、救いを求めるように群衆の奥へと視線を巡らせていた。
「あ、あの……ごめんなさい、私、そういうのはちょっと……っ」
彼女が困惑し、後退りしたその瞬間。
ざわざわと騒がしかった男子たちの人波が、まるでモーセの海割りのように、冷徹な威圧感によって左右に引き裂かれた。
「おい……何だ、あいつ……」
「真名、依真……?」
黒い執事服のジャケットを片手で肩に引っ掛け、ネクタイを乱暴に緩めた俺――真名依真が、そこへ歩み出た。
俺の瞳には、炎の赤さすら凍りつかせるような、冷酷でドス黒い独占欲の光が宿っている。群がっていた男子どもが、そのあまりの気迫に圧されて、思わず一歩、二歩と引き下がった。
「悪ぃな、お前ら。ウチの飼い猫に気安く触ろうとしてんじゃねえよ」
俺は迷いのない足取りで鷗賀の前に立つと、怯えていた彼女の細い手首を、これ以上ないほど強引に、そして確実な力で掴み取った。
「あ……っ、いつま……!」
鷗賀の顔が一瞬で歓喜と、そして羞恥の赤へと染まる。
「真名、お前……! フォークダンスは自由だろ! 藍庭さんが嫌がってたらどうするんだよ!」
一人の男子が、嫉妬に狂った声を上げた。
俺はそいつを鼻で笑うと、掴んでいた鷗賀の手首を引き寄せ、彼女の身体を俺の胸板へと力任せに叩きつけた。
ドン、と軽い衝撃とともに、俺の執事服の胸元に彼女の柔らかい身体が完全に収まる。
「嫌がってる? 誰が、誰をだ?」
俺は鷗賀の顎をクイと持ち上げ、全校生徒の視線が集まる中で、彼女の耳元に唇を寄せた。
「おい、おうか。お前、この有象無象どもの前で、ハッキリ言ってやれよ。お前が誰のものなのか、誰に抱かれてる時が一番狂いそうになるのかをな」
「っ――!?」
あまりにも過激で、あまりにも生々しい俺の言葉に、鷗賀の身体がビクリと跳ね上がる。
彼女の碧緑色の瞳から、ぽろぽろと熱い涙が溢れ出た。恥ずかしさと、恐怖と、そして俺の圧倒的な支配にひれ伏す悦びが、彼女の理性を完全に消し去っていく。
「私は……っ、私はいつまだけのもの、だよ……っ。いつま以外の人となんて、絶対に踊らない……!」
全校生徒の前に響いた、陸上部エースの、明確な服従の告白。
周囲の男子たちが絶望と嫉妬で顔を歪める中、スピーカーからは後夜祭のフォークダンスのイントロが流れ始めた。
「よし。じゃあ、お仕置きの続きだ」
俺は彼女の腰に手を回し、もう片方の手で彼女の手のひらを強く握りしめた。指と指を深く絡める、密室での愛撫のような、生々しい恋人繋ぎ。
燃え盛る炎の前で、俺たちは踊り始めた。
ステップを踏むたびに、彼女の制服のスカートが揺れ、俺の足に擦れる。
他のペアが和気あいあいと踊る中、俺たちの空間だけは、まるで濃厚な霧が立ち込めているかのように息苦しく、熱い空気に満ちていた。
「いつま……みんな見てるよ……恥ずかしい、よ……っ」
「見せてやればいいだろ。お前が俺の所有物だってことを、全校生徒の脳裏に焼き付けてやるんだよ」
俺はダンスのターンに合わせ、彼女の身体をさらに強く引き寄せた。衣服越しに伝わる、彼女の心臓の激しい鼓動。
「んあ……っ、いつ、ま……そんなに強く抱きしめられたら、動けない……っ」
「動かなくていい。俺の腕の中で、ただ揺れてろ」
俺は彼女の耳たぶを、誰も見ていない一瞬の隙を突いて、軽く歯を立てて噛んだ。
「ひゃうんっ!?」
可愛い悲鳴が、炎の爆ぜる音にかき消される。
フォークダンスの曲が終わりを迎えるその瞬間、俺は彼女の身体を完全にホールドし、ファイヤーの赫い光に照らされながら、その赤い、甘い唇へと、吸い込まれるように自分の唇を重ねた。
「んむ……っ!? ――ん、はぁ……んぅ……っ!」
全校生徒の悲鳴とどよめきが周囲から沸き起こる。だけど、そんな雑音なんて、今の俺たちには一粒の塵ほどの価値もない。
鷗賀は驚きに目を見開いたが、すぐに諦めたように目を閉じ、俺の首に両腕を絡めて、激しく、深く、俺の舌を受け入れてきた。
炎の熱さよりも何倍も熱い、二人の特権の証明。
俺は、全校生徒の嫉妬の視線を浴びながら、俺の腕の中で完全に腰を抜かして喘ぐ専属の恋人を、さらに深く、暗い独占の奥底へと沈めていくのだった。




