閉ざされた領地と、二人きりの呼吸音
渋谷での刺激的なデートを終え、夕暮れ時。
俺――真名依真は、自分のマンションの部屋の鍵を開けていた。そのすぐ後ろには、たくさんの買い物袋を両手に抱えた藍庭鷗賀が、どこか緊張した面持ちで立っている。
「……お邪魔します。いつまの部屋に来るの、付き合ってからは初めてだね」
「あぁ。まぁ、付き合う前からも何度も来てるだろ。何を今更緊張してんだよ」
「だって、前とは全然違うもん……っ」
鷗賀は靴を脱いでリビングに入ると、そわそわとした様子でソファーの端っこにちょこんと腰掛けた。
解いた黒髪が、夕日に照らされて綺麗なオレンジ色に透けている。セレクトショップの更衣室での、あの熱いキスの余韻がまだ残っているのか、彼女は俺と目が合うたびに、すぐにマーメイドスカートの裾を弄って視線を逸らした。
「喉乾いただろ。麦茶でいいか?」
「うん、ありがとう」
キッチンから冷えたグラスを二つ持って戻り、彼女の隣に腰を下ろす。
ドサッとソファーが沈んだ瞬間、鷗賀の肩がびくりと跳ね上がった。学校の教室とも、あの修学旅行の雑踏とも違う。ここは、完全に俺だけのテリトリーだ。親も今日は遅くまで帰ってこない。文字通りの『完全な密室』。
「ぷはぁ……生き返る。今日はいっぱい歩いたから、さすがに陸上部の私でもちょっと足にきてるかも」
「だと思ったから、ここに連れてきたんだよ。外のカフェはどこも混んでて落ち着かないしな」
俺はグラスをテーブルに置くと、少し体を傾けて、彼女の細い足首に手を伸ばした。
「え、ちょっと、いつま!?」
「動くな。マッサージしてやるよ。明日も部活の自主練あるんだろ」
俺の手のひらが、彼女の健康的ながらも柔らかいふくらはぎを包み込む。
「あぅ……っ、ん……つめたい……けど、きもちいい……」
鷗賀はシーツをギュッと握りしめ、顔を真っ赤にしながら俺の指先の動きに身を委ねていた。
だが、ただのマッサージで終わらせるつもりなんて、最初からあるはずがなかった。俺の親指は、ゆっくりと彼女の膝の裏から、マーメイドスカートの奥の、柔らかい太ももの境界線へと滑り込んでいく。
「い、いつま……それ、マッサージじゃないよ……っ」
鷗賀が潤んだ瞳で俺の手首を掴み、止めようとしてきた。その手は微かに震えている。
「じゃあ、何だと思う?」
俺はマッサージを止め、掴まれた手をそのまま引き寄せて、彼女の体をソファーの上に押し倒した。
ドサッ、と軽い音を立てて、彼女の白いチュールブラウスがソファーのクッションに沈む。
俺は彼女の体を両腕で閉じ込めるようにして、上から覆い被さった。至近距離で見つめ合う、二人の瞳。彼女の規則正しいはずの呼吸が、一瞬で熱く、乱れていくのが分かった。
「いつま……だめ、そんな目で見ないで……。頭が、おかしくなっちゃう……っ」
鷗賀は俺の胸に両手を添え、必死に理性を保とうと抵抗している。だけど、その声は甘く震えていて、拒絶の力はどこにも入っていなかった。
「もう遅いよ、おうか。お前を俺の部屋に入れた時点で、こうなることは分かってただろ」
俺は彼女の耳元に顔を近づけ、あのセレクトショップの時よりも深く、重い呪いを吹き込んだ。
「修学旅行の夜も、今日の更衣室でも、お前は俺のキスを受け入れた。もう『幼馴染だから』なんて言い訳は、この部屋のどこを探しても落ちてないぞ」
「――っ!」
鷗賀の大きな瞳から、ぽろりと一滴の涙がこぼれ落ちた。
それは恐怖ではなく、俺の圧倒的な独占欲に、彼女の心も身体も完全に屈服してしまったという、甘い降伏の証だった。
「いつまの、いじわる……。いつもそうやって、私の全部を奪っていくんだ……」
「あぁ、全部奪うよ。お前の最初から最後まで、一枚も残さず俺のものにする」
俺は彼女の涙を唇でそっと 拭うと、そのまま、開かれた彼女の熱い唇へと、吸い込まれるように自分の唇を重ねた。
「んむ……っ……!?」
静かな部屋の中に、ペチャリ、と淫らな衣服の擦れる音と、二人の息が交わる音だけが響き渡る。
ソファーの上で絡み合う二人の体温。彼女の両腕は、いつの間にか俺の背中へと回され、置いていかれないようにと必死にしがみついていた。
ただの『付き合いたて』の恋人では説明がつかないほどの、深く、濃密な独占の時間が、夕暮れの部屋を静かに満たしていく。
俺は完全に理性を溶かされた表情で喘ぐ愛おしい恋人を、暗くなり始めた部屋の中で、何度も、何度も、壊さないように激しく愛し続けるのだった。




