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13/16

百花繚乱のバトンパスと、二人のウイニングラン

ついに、全校生徒が青空の下に集う『体育祭』の本番当日がやってきた。

グラウンドには色とりどりのクラスカラーのハチマキが躍り、応援団の太鼓の音が地鳴りのように響き渡っている。

我が二年のクラスは、午前中の競技で健闘し、現在総合二位。そして、泣いても笑ってもこれが最後の競技――全校が最も熱狂する『クラス対抗交際リレー』の時間がやってきた。


「いつま! 準備はいい? 絶対に一位取るよ!」


入場門の近く、アンカーの招集エリアで、藍庭鷗賀あいにわ おうかが俺の前に駆け寄ってきた。

ハチマキをきりりと額に巻き、陸上部のユニフォーム姿になった彼女は、いつにも増して凛々しく、そして眩しかった。昨日の放課後、あの夕暮れの教室で俺の胸に飛び込んできた時の、あの赤くなって泣きじゃくっていた女の子とは、まるで別人のようなエースの顔だ。


「あぁ。お前がトップで持ってくれば、俺がそのまま逃げ切ってやるよ」

「うん! いつまなら絶対にやってくれるって信じてる!」


鷗賀はニカッと太陽のような笑顔を見せ、女子のスタート位置へと向かっていった。

その背中を見送りながら、俺――真名依真まな いつまは、アンカー用の第七コースのスタートラインに立つ。


パンッーー!


ピストルの音が鳴り響き、第一走者が一斉に飛び出した。

地を揺らすような大歓声の中、バトンは次々と繋がれていく。我がクラスのランナーたちも死力を尽くし、バトンはついに、女子のアンカーである鷗賀の元へと渡った。


「藍庭!頼んだーーーっ!」

「任せてっ!!」


バトンを受け取った瞬間、鷗賀の加速は異次元だった。

さすがは陸上部のエース。長い黒髪のポニーテールを激しく揺らし、しなやかな長い足で爆発的に地面を蹴っていく。先行していた他クラスの女子ランナーを、コーナーの手前で瞬く間に抜き去り、我がクラスを堂々の一位へと押し上げた。


バックストレートを猛烈なスピードで突き進み、俺の待つ最終ストレートへと彼女が向かってくる。

その瞳は、真っ直ぐに俺だけを捉えていた。


「いつまーーーーっ!!」


彼女の叫び声が、グラウンドの喧騒を突き抜けて俺の耳に届く。

俺は前を向いたまま、左手を後ろに大きく伸ばし、走り出すタイミングを計る。

近づいてくる、彼女の激しい足音、そして、あの夏の間ずっと俺の五感を狂わせ続けた、熱い熱い青リンゴの香りが。


「いっけええええーーーっ!!」


パシィィィンッ!!!


グラウンド中央に、驚くほど綺麗で小気味の良い打撃音が響き渡った。

一ミリの狂いもない、完璧なバトンパス。

手のひらに残る彼女の手の熱さと、バトンの重みを受け取った瞬間、俺の身体の全細胞が沸騰した。


「――任せろ、おうか!」


俺は爆発的に加速した。

後ろを振り返る必要なんてない。俺の後ろには、世界で一番俺を信じてくれている少女が走っている。その事実だけで、俺の足はいくらでも軽くなった。


他クラスの男子アンカーたちが必死に追いかけてくる気配がするが、俺の視界には、ただ一本のゴールテープしか映っていなかった。

夏休みの最終日に彼女と交わした約束。

――『学校が始まろうが、何が起きようが、俺がお前以外の奴を特別にすることはない』。


その約束を、今、全校生徒の前で証明してやる。


胸を張り、俺はトップでゴールテープを駆け抜けた。


「よっしゃあああーーーっ!!!」


クラスの奴らが一斉に俺の元へと駆け寄ってくる。

だけど、人混みを押し分けて、誰よりも早く俺の胸の中に飛び込んできたのは、息をゼェゼェと切らせた鷗賀だった。


「いつま……! やった、やったよ……! 一位だよっ!」


鷗賀は周囲の目も気にせず、俺の首元に両腕を回して抱きついてきた。

「お、おい、おうか、みんな見てるって……」

「いいの! だって、約束したもん! 私、一番になったら、いつまの特別を頂戴ねって言ったもん!」


彼女の真っ赤な顔と、潤んだ瞳。

その瞬間、クラスの奴らや、グラウンドで見守っていた全校生徒の間に、波のようなざわめきが広がった。

「え……? 藍庭と真名って、あんなキャラだっけ?」

「ただの幼馴染じゃなくて、マジで付き合ってんの……?」


遠くのテントでは、陸上部の黒岩先輩が、少し苦笑いしながら俺たちの姿を見つめているのが見えた。


俺は抱きついてくる鷗賀の細い腰を、今度は俺の方からグッと引き寄せ、全校生徒に見せつけるようにして、彼女の頭を優しく撫でた。


「あぁ。約束通り、お前は俺の、世界で一番の『特別』だよ、おうか」


「……っ!」

鷗賀の顔が、クラスカラーのハチマキよりも真っ赤に染まる。

『世界で一番失いたくない人だから恋人にはなれない』という彼女の可愛い言い訳は、この大歓声のグラウンドの中で、完全に、実質的な『公開告白』へと書き換えられてしまったのだ。


俺たちはクラスの奴らに揉みくちゃにされながらも、繋いだ手だけは最後まで離さず、二人の勝利の余韻に浸り続けていた。

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