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魔王、ついに「静寂の犯人」を突き止める――パジャマ姿の終焉と、コタツの誘惑


 隠れ家を包む【終焉の安眠結界】は、今や王国のあらゆる干渉を跳ね返す「絶対零度の静寂」を維持していた。


 三つの巨大なミノムシ(自走式・着るこたつ)が連結し、リビングをゆったりと滑走する。その光景は、もはや神話というよりは、巨大な芋虫が部屋を占拠しているシュールな現代アートに近い。


「……あー。……最高。……最近、世界が静かすぎて、自分の鼓動の音すら心地よい音に聞こえる……」

 エルンストは、魔法のレイジー・ハンドにポテトチップスを一枚ずつ、最適なリズムで口に運ばせていた。

「……ですね、エルンスト様。……アイリス様、そちらの連結部分、温度下がってませんか? ……魔力が漏れてますよ」


「……不覚。……あまりの心地よさに、魔力回路まで『おやすみ』と言い始めました……。……すぐ再点火します……」


 アイリス団長は、もはや鉄の鎧をどこへやったのか。シルクのパジャマの上から「着るこたつ」を羽織り、頬を赤らめて夢心地だった。


 だがその時、隠れ家の中心に、どす黒い「空間の亀裂」が走った。

「……何事だ。……我の『魔界の寝室』にまで、この忌々しいほど心地よい安眠の波動を送り込んできたのは、どこのどいつだ……!?」


 現れたのは、かつてエルンストが十代の全てを捧げて封印したはずの存在。

 魔族の頂点、魔王ゼノン。

 だが、その姿は禍々しい鎧姿ではなく、これまた「使い古したスウェット」のような寝巻姿だった。手には、寝る前に読もうとしていたらしい『魔界の月刊・侵略計画(休刊号)』が握られている。


「……魔王……。……うるさいよ。……せっかく今、メルティが一番いい感じの温度に調整してくれたのに、空間の亀裂から隙間風が入るじゃないか……」


 エルンストは、ミノムシの中から片目だけを出し、不機嫌そうに魔王を睨んだ。

「……エルンスト、貴様かっ! 封印されてから数百年、ようやく深い眠りにつこうとしていたのに……。……ここ最近、この隠れ家から漏れ出す『極上の二度寝魔力』が魔界まで届き、魔族たちがみんな『あー、侵略とかダルい。寝ようぜ』と職場放棄を始めたのだぞ! おかげで我が魔界は、現在、深刻な人手不足(ニート化)だ!」


「……それはいいことだね。……魔王、君も働きすぎだよ。……世界を滅ぼすとか、そんなカロリーの高いこと考えてるから、そんなに目つきが悪くなるんだ」

「ふざけるな! 私は魔王だぞ! 恐怖と絶望を……。……ん? ……なんだ、その、貴様が包まれている『茶色のモコモコした何か』は……。……妙に、その、暖かそうではないか……」


 魔王の鼻が、ヒクヒクと動いた。

 そこには、エルンスト特製の「着るこたつ」から漂う、干したての布団の香りと、高級バニラアイスの甘い匂い、そして「一生ここから出なくていい」という、全生物を堕落させる悪魔の波動が充満していた。


「……気になる? ……これね、最新の『移動式・魔王城』だよ。……一歩も動かずに、全てを支配できる(という気分になれる)呪具。……魔王なら、これくらい着こなせないとね」


 エルンストは、面倒くさそうに指をパチンと鳴らした。

 瞬間、魔王の足元に、漆黒のベルベット生地で作られた【自走式・着るこたつ(魔王専用・極暖モデル)】が召喚された。

「……はっ、馬鹿め! このような布きれ一枚で、我が暗黒の魂が――……ほ、ほう。……この、内側の起毛……。……この、腰回りを優しく包み込む、低反発の魔力クッション……。……それに、この『ポテトチップス専用ホルダー』……だと……?」


 十分後。

 隠れ家のリビングには、四つのミノムシが連結し、巨大な「安眠のチェーン」となって床をスィーッ……と滑走していた。

「……エルンスト。……貴様、天才か。……この『着るこたつ』があれば、魔界の玉座に座る必要すらないな……」


「……でしょ。……魔王、そこの角、曲がるから。……重心、右に置いて。……連結解除(脱退)は禁止だよ」

「……分かっている。……全軍に命じよう。……今日から、世界征服は『中止』だ。……代わりに、この『コンソメ味の食料』を全土に配備しろ……」


 王宮に届いた報告書には、もはや震えの止まらない文字でこう記された。

『究極の緊急事態! エルンスト様の隠れ家に、魔王が出現! ……しかし、戦闘の気配なし。……それどころか、魔王すらもエルンスト様の「安眠の波動」に呑み込まれ、共に廊下を滑走している模様! ……もはや世界は、戦う相手を失いました! 平和すぎて、怖いです!』


 伝説の魔導師、聖女、女騎士団長、そして魔王。

 世界のバランスを司る四人が、一つのコタツで連結し、今日も「概念としての仕事(絶対的な静止)」を全うするために、廊下を無音で滑り続けていく。


 人類の歴史上、これほどまでにダサく、そしてこれほどまでに平和な時代は、かつて存在しなかったのである。



 

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