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鉄壁の三連ミノムシ、隠れ家を「不可侵の終焉聖域」へとアップデートする


 隠れ家のリビングでは、現在、三つの巨大なミノムシ(自走式・着るこたつ)が円陣を組むようにして床に転がっていた。


 中心に位置するのは、自堕落の開祖エルンスト。右に元聖女メルティ。そして左には、数日前まで王国最強の槍と謳われたアイリス団長が、鉄紺色の毛布に包まれて「ふしゅー……」と幸せそうな寝息を漏らしている。


「……アイリス。……起きて。……仕事の時間だよ」

「……むにゃ。……仕事……? ……ああ、今の私の任務は、この『毛布内の温度を三十七・五度に保つ』という国家防衛任務……。……あと五分、いや五十年待ってください……」


 アイリスは、かつて戦場で放っていた鋭い殺気をどこへ捨ててきたのか、今や「茹で上がったタコ」のようにフニャフニャになっていた。

「……ダメだよ。……最近、僕が『概念としての仕事(寝ているだけ)』に就任したせいで、逆に『生ける神像を一目拝みたい』っていう不届きな観光客が増えてるんだ。……このままだと、僕たちの二度寝の静寂が、シャッター音や賽銭の音で汚されてしまう」


「……それは由々しき事態ですね、エルンスト様。……安眠を妨げる者は、たとえ国王陛下であっても、私は慈悲の心(物理)で排除しますよ」


 メルティが、ミノムシの隙間からポテトチップスを差し出しながら、冷徹な目で呟いた。

「……よし。……解決しよう。……『概念』としての仕事を完璧にするために、この隠れ家そのものを、世界から物理的に『隔離』する。……誰も来られない、誰も見られない、だけど報酬だけは勝手に振り込まれる……究極の引きこもりシステムだ」


 エルンストは、ミノムシの中から一本の指も出さず、魔力だけで空中に巨大な魔法陣を投影した。

【全自動・絶対不可侵「終焉の安眠結界エンドレス・パジャマ・ゾーン」】

 瞬間、隠れ家を包む大気が震えた。


 まず、隠れ家の周囲数キロの空間に「認識阻害」の霧が立ち込め、地図からその座標が消滅した。

 さらに、物理的な侵入を試みようとする者が結界に触れた瞬間、その者の脳内には「猛烈な睡魔」と「実家の温かい布団の記憶」が直接流し込まれ、「……あー、もう戦うのやめて、帰って寝よう……」と強制的に戦意を喪失させる精神干渉フィールドを構築したのだ。


「……ふぅ。……これでいい。……これからは、この結界そのものが『エルンストは現在、世界の静寂を維持するための高度な瞑想に入った』というメッセージを発信し続ける。……僕たちは、何もしなくていい。……ただ、この中で『存在』し続けるだけで、世界は『ああ、今日もエルンスト様が寝てくれている、平和だ』と勝手に納得するんだ」

「……流石です、エルンスト様! ……アイリス様、これでもう、あなたの部下たちが『団長を返せ!』と突撃してくることもなくなりますよ」


「……素晴らしい。……これで私は、騎士団長という重責から解き放たれ、一人の『毛布の一部』として生きていけるのですね。……エルンスト殿、感謝します。……この恩は、一生この中から出ないことでお返しします……」


 アイリスは、もはや騎士としての誇りすら「コタツの予熱」として燃やし尽くしていた。

 彼女は連結魔法を発動させ、エルンストとメルティのミノムシに自分の毛布をパイルダー・オン(合体)させた。三位一体となった「超巨大ミノムシ連結体」は、今やリビングを占拠する最強の要塞となっていた。


 数日後。王宮には、不可解な報告が届いていた。

『報告! エルンスト様の隠れ家が、地図から消失しました! 接近を試みた調査隊は全員、「布団の温もりが恋しい」と泣きながら帰還! 現場からは「究極の平和」を感じさせる神聖な波動が溢れ出しており、もはやあそこは現世ではなく、神々の寝室へと昇華された模様!』


 宰相ヴァルガンは、その報告書を拝むようにして受け取った。

「……おお、ついに。……エルンスト殿は、この世界を『安眠』によって支配されたのだな。……彼が静かに寝ておられる限り、この国に戦火が及ぶことはない。……至急、彼が夢の中で不自由しないよう、最高級の『枕(魔導具)』を予算に追加し、結界の入り口に供えてこい!」


 隠れ家の中では、三つのミノムシが連結したまま、スィーッ……と、キッチンの冷蔵庫へ向かって滑走していた。

「……メルティ。……コーラ取って。……あ、開けるのは、アイリスの『剣技(指先)』でお願い……」

「……御意。……抜刀。……シュパッ! ……はい、開きました。……これぞ、国を救うための剣技……」

「……最高だね。……じゃあ、あと五時間はアニメ見ようか……」


 伝説の魔導師、聖女、そして女騎士団長。

 王国最強の三人は、今や「概念としての仕事」を全うするため、一歩も動かずに世界を平和へと導き、そして同時に自分たちの尊厳を、コタツの熱でドロドロに溶かし続けていくのであった。


 

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