第25話 シンシアは茶会の主役になった
シンシアは私の近くに来て、私をエスコートしたコールリッジ伯爵令息に、礼儀正しくカーテシーをする。
「ご紹介いたします。コールリッジ様。私の義妹、シンシア・ヴィ・アーチデールです。来る秋の大夜会で社交デビューをします。本日はバクスター公爵夫人のお心遣いでこの茶会に参加しております。貴族学院の2年に在籍です」
「アーネスト・ヴィ・コールリッジです。シンシア嬢。アーチデール男爵家は美人姉妹ですね」
「シンシア・ヴィ・アーチデールと申します」
シンシアはコールリッジ伯爵令息を見て笑顔を見せる。
そんなシンシアのあとを追って、令嬢と令息達がこちらのテーブルへと移動してきた。
人気者だなシンシア。
「お義姉様とお話をしたいと仰られる方々が多くて、探しておりました」
「それは意外」
「もう~マリアンデールお義姉様の、サロンに皆様大注目なの。お話していた方々の、お母様達だけでなく、私と同じ、デビュタントの方も利用されたいって」
「半年は予約が埋まっていて、キャンセル待ち状態と伝えてほしい」
私とシンシアがそんな会話を交わしていると、シンシアを追いかけてきた令息達は、コールリッジ伯爵令息に声をかける。
「アーネスト」
「隅に置けないとはこのことだな」
「ちゃっかりご令嬢といい雰囲気になってるとは」
そう言いながらも、彼等は私と親しそうに話すシンシアにちらちらと視線を向けている。
わかりやすくて、口角が自然と上がる。
「バクスター公爵夫人のお茶会は無礼講というわけではないぞ、ご令嬢達に自己紹介もしないで話しかけたら、次回、このお茶会の招待はなくなるぞ」
コールリッジ伯爵令息が彼等を窘める。
その言葉を聞いて、彼等は私に自己紹介を始めた。
シンシアとその他の令嬢とはもうすでに先ほどの歓談で自己紹介済みなのだろう。
ひととおり、自己紹介が終わったところで私も自己紹介をする。
「アーチデール男爵家長女、マリアンデール・ヴィ・アーチデールです」
その瞬間、令息達の表情が変わる。
ああ、これが、例の――と、言葉にしなくても表情がそう言っている。そして同時に、今年の春社交デビューした令嬢を前にする態度ではなく、少し年上の実業家を前にした態度に変化した。
令息達の中の一人は、弟がアーチデール傘下の会社に就職したらしく、「弟がお世話になっております!」と深々と頭を下げる。
きっと彼が嫡男だから、弟は軍に入ることなく、アーチデール傘下企業の就職を希望したのだろう。
貴族女性に、財産はない。
家と家の政略の道具だから。
でも私は違う。
多分この令息達の中で爵位を継いでいる令息でない限り、個人資産は私が上だろう。
成金男爵の娘と影で言われようとも、実情、私自身が事業家なのだ。
そしてそれはすでに社交界においても認識されている。
私の顧客が、上位貴族の奥方や令嬢だから。
彼女達が目を輝かせて私が提供する商品に興味を持って手に入れたいと願うなら、紳士ならばそれを叶えるのが甲斐性というもの。
その商品を取り扱うのが、この私だ。
「うわ、もう、びっくりしたなあ、アーネスト。お前、ある意味すごい抜け駆けをしているじゃないか」
令息達の言葉に、コールリッジ伯爵令息はちょっと得意そうに笑みを浮かべるにとどめていた。
令嬢達は「あの、サロンのことについていろいろ聞きたいのですが」とおずおずと、私に話しかけてくる。
シンシアに伝えたことをそのままご令嬢達に話すと、「やっぱり利用したい」とそんな表情を浮かべていた。
出席している令嬢や令息達が、小さい輪を作って歓談している中、私とシンシアを取り囲む輪は一際大きかったと思う。
バクスター公爵夫人のお茶会としては、盛況な様子のまま、お開きになった。
◇◇◇
「どうだった? シンシア」
お開きになってそれぞれが馬車へ乗り込む待ち時間の間、シンシアに話を振ってみた。
「かっこいい~大人~マリアンデールお義姉様の前の婚約者なんて霞む~」
シンシアはお気に召したか。
シンシアの言うように、私の前の婚約者なんて霞むだろうな。
比較するのもどうかと思うが、比較対象として、近くにいた令息となればアレしかいなかったから。
今回紹介されたコールリッジ伯爵令息はまず前の婚約者とは爵位からして違う。
学生の浮ついている感じの令息を学院で見ているシンシアには、社会に出て落ち着きもあるコールリッジ伯爵令息は魅力的に映ったようだ。
軍閥の貴族だが……バクスター公爵家が推薦してくるのだから、まあ、悪くはないだろう。
グリフィスに言って詳細を調べさせるか。
「バクスター公爵夫人から紹介はされたが、詳しくは調べきっていないので、この後よく調べることにしよう。男爵と男爵夫人とも相談してみる」
「調べる……」
「貴族の結婚は政略だ。あちらもアーチデールの娘ならどちらでも構わないだろう」
「本当? だってマリアンデールお義姉様と年齢的には近いわよね?」
「お前とは五歳差になるな、範囲内ではある」
「だから落ち着いた感じなのね」
私に勧められた人物だから――自分が欲しい――これは記憶喪失前のシンシアならやりそうだ。実際、前の私の婚約者に対してもそうだった。
今は、私自身が結婚できないこと、そしてこういう他所から回ってきた話をシンシアに振ると事前に言っている為、ちゃんと調べるから待てと言われれば待てるようだ。
バクスター公爵夫人とスクワイア侯爵夫人の薦めるもう一人は、私よりもシンシアに興味があるのがはっきりとしていて、スクワイア侯爵夫人が閉会間際に、シンシアを取り囲む令息達の中にいる一人がその人物だったのを打ち明けてくれた。
――あなたに紹介しようとしたら、なんだかもうすでにシンシア嬢に入れ込んでいたのよね……。
あのシンシアを取り囲む令息達の内の一人が、私へ紹介するはずの人物だったらしい。
バクスター公爵夫人とスクワイア侯爵夫人は、私が同行させたシンシアが、ここまで人を惹きつける令嬢だったという予測がとれなかったのが悔しそうではあった。
今回の茶会で、だいたいの令息達の注目と関心を惹いた令嬢は、秋の大夜会でデビューするシンシア・ヴィ・アーチデール。
参加していた保護者のご夫人達もそう見ている。
「よくやった、シンシア」
「え? 今、わたしマリアンデールお義姉様に褒められた!?」
「ま、今回は前哨戦だ」
「ぜ、ぜんしょうせん?」
「そうだとも。秋の社交シーズン、今回の茶会だけではなく、本格的なデビューをしたら、候補者などは、アーチデールが打診した以上の数で殺到する。一番――お前を大事にしてくれそうなところと、縁を結びたいと思う」
――一番、アーチデールに手を貸し、協力体制がとれそうな家との縁をむすびたい。
令嬢達を早くに帰す為、令息達の馬車待ちは後になっている。その為、一塊になって、雑談を交わしているようだが、中にはシンシアの方をちらちらと見てる令息も少なくはない。
今回の茶会の主役だな。シンシアは。
私がそう思っていると、声がかかる。
「お待たせいたしました、My Lady」
控えの間にグリフィスが私達の前に現れて、用意された馬車へとエスコートした。




