第23話 バクスター公爵夫人主催のお茶会
王家主催の秋の大夜会を控え、王都に戻ってきた貴族達は、その情報の前哨戦として個人でお茶会や夜会を開く。
私はバクスター公爵夫人主催のお茶会にシンシアと共に招待された。
このお茶会は爵位の上下関係なく、ご令嬢だけではなく、年頃の令息達も参加している。
バクスター公爵夫人は、例年、こういった茶会を開催し、若い貴族の令息や令嬢の縁をそれとなく取り持つことも趣味としている節があるようだ。
本来このような形のお茶会を開くなど、高位貴族にしては珍しいとされている。
貴族の縁談といえば、当主同士相談の上、決定されるものだからだ。
が、バクスター公爵夫人自身が、元は王家の姫だから、招待された貴族家からはクレームが入ることはない。
逆に、バクスター公爵夫人の招待は光栄だと思っている。
若い貴族の令息も令嬢も、このお茶会に招待されることは公爵夫人からお声がけがあったというステータスと、従来の縁談や格式ある秋の大夜会の出会いと違って、自分達で異性との交流の時間が大幅にとれることが可能ということで、年頃の令息や令嬢達にとっては、社交シーズンでは是非招待を受けたいお茶会となっている。
バクスター公爵夫人の趣味と実益(派閥強化)を兼ね備えたイベント。
元、王家の姫はなかなか、革新的な感覚を持っているということか。
「先日、男爵と男爵夫人から見せられた婚約者候補はどうだった?」
馬車の中でシンシアにそう話しかけると、シンシアは小首を傾げて微笑む。
サマーホリデーシーズン前なら、「マリアンデールお義姉様! いきなり三人も候補者がね!」と言った具合で嬉々として話をするが、貴族令嬢らしい笑みを最初に出すあたり、ホイッスラー夫人と男爵夫人、グレンダの教育が実りつつある。
「いずれも素敵でした。でも……」
「でも?」
「なんていうか……」
「気が乗らない?」
「伯爵家の方も候補に挙がっていたのですが……」
「結婚すれば伯爵夫人だろうに」
「以前のわたしなら爵位の高さに飛びついたかもしれませんが、いろいろと考えると……」
「ほう」
「お母様もあまりいい感じではありませんでした――……あの、マリアンデールお義姉様」
「うん?」
「ちょっと猫を外しても?」
私が噴き出すように笑うと、シンシアは溜息をついた。
「ちゃんとあとで、猫をかぶるので! 候補者、みんないいんだけど! いまいちピンとこないのよ!」
「なぜだ?」
「勘! なんとなく頼りなさそうなんだもの! 特に伯爵令息の人は!」
ふうん。男爵夫人と同じ意見だな。
意外と見る目があるのか、男爵夫人からの注釈がついたか、どちらだ?
「アーチデール男爵家の利になりそうな相手だっていうのはわかるわ。でも、なんていうか、それのみで魅力がないのよね……実際にお話してないから? だから、今日のお茶会、わたしも一緒にって言われて嬉しかった! ありがとうマリアンデールお義姉様! ちょと気合いれてみたのよ、どうかしら?」
明るく華やかな秋らしいペールオレンジにオフホワイトのレースとドレープの入ったデイドレス。
アクセサリーはパールを。
今回秋の大夜会でデビュタントとなるシンシアが身に付ける宝飾品はパールに選定した。
若い社交デビューのご令嬢の清楚さを引き出すパール。
夜会にはシンシアの瞳の色のエメラルドをメインに据えたネックレスを身に付ける予定だ。
「うん。あとはさっきのような令嬢ぶりを茶会の会場で如何なく発揮してくれ」
「それはわかってる――マリアンデールお義姉様が本当は誘われていたお茶会なんでしょ?」
「そうだ。先日お前が見た婚約者候補に加えて、私に紹介される人物も、お前の候補に回すつもりだ」
「……マリアンデールお義姉様は……本当に結婚しないの?」
シンシアの隣に座るアンは「お前、どの口でそのセリフを?」と目が訴えている。
私の隣に座っているグリフィスも多分同じだろう。
私が結婚できない原因を作った本人だからな。
そんな様子を見て、他人事みたいに、可笑しさしか感じない私もどうかしているのかもしれない。
「わ。わたしが、腕を振り払わなかったら――……」
「ツマンナイ女のままだっただろうな、今の私の方が面白いだろう?」
「う、ま、まあ、そこは、否定しないわ……前よりも今の方がいい」
と言いつつも(オソロシーけど)と表情は雄弁に物語っている。
「そろそろ、到着です。My Lady」
グリフィスが窓の外の景色で、バクスター公爵邸が近づいているのを察して声をかける。
「だそうだ。シンシア、猫を被ってくれ。最初が肝心だ。バクスター公爵夫人が私にと紹介する予定は二名。いずれも伯爵令息。若手軍閥貴族の中でも出世株。今季の大夜会でデビューする令嬢達も来ている。最初は彼女達と会話を楽しむように。社交デビューしたらご夫人やご令嬢達の輪は大事だぞ。特にバクスター夫人は軍閥だから、男爵夫人を平民出と囀り私にワインをひっかけた――ビークロフト伯爵夫人の元、オトモダチも何人か混ざっているかもしれない。成金アーチデール男爵家と誹りを受けたくなければ全方位に愛想よく、深窓の令嬢らしくな」
「はい。マリアンデールお義姉様」
笑顔と大人しやかな返事は合格だな。
◇◇◇
バクスター公爵夫人はご機嫌で私とシンシアを出迎えてくれた。
スクワイア侯爵夫人も一緒だ。
「よくきてくれたわ。マリアンデール」
「お招きありがとうございます。バクスター公爵夫人。私だけでなく、義妹の出席も受け入れて下さってありがとうございます」
礼儀正しいカーテシーをしてからそう返事を返した。
「ご紹介いたします。私の義妹、アーチデール男爵家二女、シンシア・ヴィ・アーチデールです」
わたしの口上を受けてシンシアは上品にカーテシーをする。
「ご紹介にあずかりました、シンシア・ヴィ・アーチデールでございます。ご招待ありがとうございます。バクスター公爵夫人」
さあ、よく見ろ。
秋の陽光を浴びて輝く白磁の肌、エメラルドの瞳、波打つ艶やかな金髪。
アーチデールとの政略。
財力のみならず、この美貌の令嬢を射止めたいと、遠目からでも令息達がそわそわしだした。
その気配を背後からでも感じ取った両夫人は互いにアイコンタクトを交わす。
この国の、この王都の経済界、デビュタントしたばかりの私が台頭したことに、各方面からもご注進され、政略結婚によって首輪をつけようとしただろうが、うちにはもう一人いるのだ。
若い令息達の注目を一気に攫うこの娘が。
かつての私の母も、デビュタントの時、きっとこうだったのだろうなと思う。
中身は……さておきだが。
「来る秋の大夜会にて、デビュタントする私の義妹です。大夜会の雰囲気を少しでも体感させるのもいいだろうと思った男爵と私の意向を汲んで、今回のお茶会に参加をお許しいただき、ありがとうございます」
さあどうだ?
私につける首輪は、どう選ぶか。
高みの見物をさせてもらうとしようか。




