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マリアンデール ~記憶喪失になった令嬢はすべてを手に入れる~  作者: 翠川稜
二章

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第2話 男爵夫人の推測はあたっているかもしれない

本作マリアンデール、副題を変えて、スクウェア・エニックス様から2026/09/07発売されます!


 大物登場――本日の夜会の陰の主催者というべきか。先代公爵が私を呼び捨てにしたからなのか。ビークロフト伯爵夫人は、私に向かってきつい視線を向けてから、さっさとその場を去っていく。

 大御所登場で、分が悪くなると思って退散か。

 自分がいない場所で、あれこれ言われてもいいのか?

 ここで私と義母が主催の先代シーグローヴ公爵と話し込めば、あれこれ言わないまでも、印象は最悪だな。

 カレンの情報どおりだと、アーチデール男爵家を重用するような家ではないのは明白だから、もう少し、調べさせるか。商売敵と懇意にしている家かもしれないからな。


「ごめんなさいね、マリアンデール。ちょっと声をかけただけなのに、マグノリア離宮が会場になってしまって」


 老公の後ろからアデライド様もそうお声かけして下さった。


「盛況でなによりでございます。シーグローブ公爵家の御威光の賜物でしょう」

「そう言ってくれると、わたくしも気が休まるわ。アーチデール男爵夫人も、ごめんなさいね。内々の夜会のつもりだったのですけれど」

 アーチデール男爵夫人ジャネットはカーテシーをして言葉を返す。

「とんでもございません。アデライド様」

 その所作は、高位貴族が見ても問題ないようだ。

 義母を見て、アデライド様は微笑む。

「ねえ、お爺様。マリアンデールが言うように、アーチデール男爵夫人ジャネット様と、ブラックウェル伯爵令嬢だったレジーナ様の瞳は同じ色なの?」

「そうだな、色味はそっくりだの。とはいえ、おいぼれが斯様な美人を直視するのは眩しいのう」

「まあ、お爺様ったら!」


 アデライド様の相槌に、老公は声をあげて笑うと、周囲の空気も和やかなものに変わり、アデライド様と老公の仲良さげな空気に、他愛もない雑談が再開されていく。

 私は義母にアイコンタクトをすると、義母と共に、アデライド様と老公の後を歩き始めた。

 アデライド様のお爺様である先代シーグローヴ公爵は少々足がお悪い。

 会場の端々にゆったりとくつろげるソファも点在されているので、そこへ私達は座った。


「息子も孫婿も、かような美女に取り囲まれてるわしを見たら、驚くだろうの」

「もう、お爺様ったら」

「いやいや本当に。アーチデール男爵夫人、マリアンデールとはなさぬ仲だろうが、マリアンデールの才気煥発さは目を見張るものがある。この度の夜会は、本来ならば、シーグローヴ公爵家(うち)が請け負うはずの仕事をアーチデール男爵家に任せることにしたその根回しだ。アデライドとマリアンデールのお喋りが、わくわくするようなものだったからの」


 アーチデール男爵夫人(ジャネット)は私に視線を向ける。

 その視線は何を話してそうなったのか知りたい感じで、決して以前のような剣呑な視線ではなかった。


「この子が男の子だったらば、シーグローヴ公爵家(うち)の閥のいいところへ養子か婿として取り立てたいぐらいだ」

「アデライド様はいただけませんので?」


 私がそう言うと、老公は呵々と笑う。


「そうだの、今回の仕事が上手く運べば、相応の礼を用意するのもやぶさかではないぞ」


 私は青みがかった鋼色の瞳を老公に向けて言った。


「気合を入れましょう」


「これじゃよ。先々代のブラックウェル伯爵そのものじゃな。退屈な老人に、面白い余興を期待しているぞ、マリアンデール」


「かしこまりました」


「さて、アデライド、わしは今少し下がる。後は頼むぞ。挨拶には戻る」


 アデライド様は背後に視線を向けて、数名の紳士達がアデライド様の祖父、先代シーグローブ公の側にきてエスコートする。

 女好きだと思わせるような冗談を飛ばしながらも、そこは王家に連なる高位貴族、老公を取り囲んだ紳士達は招待客に見せた護衛達に他ならない。

 老公を見送って、アデライド様は私達に向き直った。


「改めて、ごめんなさいね、アーチデール男爵夫人。マリアンデールも」

「とんでもございませんわ。これぐらいの大きな夜会だと、あれぐらいの発言をする方はいるとは思っておりましたから」


 男爵夫人の受け答えも、グレンダが厳しく再教育した成果が夜会に出席するたびに現れているな。


「想定通りだっただろう? 男爵夫人。ブラックウェル伯爵家のパリュールは、当時の王家から下賜された国宝だ。下位貴族が身に付けていれば、目利きのいい者はああ発言する」


 私の発言に男爵夫人は頷く。

 私の記憶が失われる前――、これを私からとりあげた義母と義妹だったが、これぐらいの宝飾品になると、小さな夜会では顰蹙を買うし、この規模の夜会でしか映えない。

 取り上げた当時、王家主催の春と秋の大夜会に身に付けようとしたのだろう。

 先程のような私のフォローなく実行していたら、高位貴族のご婦人達のやっかみが大変だったはずだ。


 アーチデール男爵夫人として再教育が完了した義母は、このパリュールを身に付けたら、こうなると想像ができるようになった。

 だから――正当なブラックウェル伯爵家の血統の私にパリュールを返した。

 だが、今回の夜会には身に付けるようにと私が彼女に渡したのだ。


「だが、これで炙り出しができたな」


 私の言葉に男爵夫人は頷く。


「ビークロフト伯爵夫人のご実家は、ブラックウェル伯爵家の寄子だったのでしょう?」


 男爵夫人の言葉に、私は頷く。


「男爵夫人は、研究しているな。驚いた」

「あら、だって旦那様の商売敵もこの夜会には招かれてしまうって、そう言ったのマリアンデールでしょう? これでも最近はちゃんと調べてるのよ?」


 私が驚いたように男爵夫人を見ると、男爵夫人は得意げに微笑む。

 アーチデール男爵家は、このブリタリウス王国王都では知らない者はいない大財閥だ。

 爵位は低いが、唸るほどの財力はある。

 だが、一強というわけではない。

 当然、商売敵もいる。


「ビークロフト伯爵夫人は、元々、ブレアム子爵家のご令嬢だったのよね。マリアンデールのお母様と年齢は同じ。多分、あれはコンプレックスばりばりに拗らせてるわ」

「レジーナに?」

「ええ、そうよ。きっと社交デビューも一緒だったはずよ。妖精姫と言われた当時のレジーナ様に傅くのを良しとしなかったんじゃないかしら?」

「何故そう思う?」

「女の勘よ。なんでもかんでも持ってる主家のお嬢様、レジーナ様は病弱で、だけどたった一回か二回の夜会で、紳士の注目を集めてもてはやされてる様子を見てきたのだもの、面白くなかったでしょうね」


 経験者は語るか。


「実家は主家を巻き込むような借金にまみれて、自分は一回りの上の伯爵家に行くことになったのも、レジーナ様からの対抗心じゃないかしら? 結婚すれば同じ伯爵家の嫁だもの。そしてレジーナ様は下位貴族である旦那様との結婚で溜飲を下げた――はずだった……でも、ビークロフト伯爵家よりも、資産なら、アーチデール家は上ですもの。旦那様は当時は若かったし、新進気鋭の財閥総帥でしょ? ブラックウェル伯爵家が持ち直したのも、旦那様の財力がものを言った感があったでしょうよ。結局、ブラックウェル伯爵家は当主の方がなくなって、爵位を王家に返上したけれどね。レジーナ様とブラックウェル伯爵家のご当主が生きていたら、伯爵位を旦那様が継承している可能性もあったと、わたくしは思うのよ?」


「これから男爵夫人が頑張れば、爵位はあがるさ。アーチデール男爵なら」


 私がそう言うと、義母はあでやかに微笑んだ。

 男爵夫人の推測は当たっているかもしれないな。




ちょいとスクロールすると、マリアンデール1巻書影、貼ってるので見れます。

3話は明日12:00公開

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2026/9/7 SQEXノベル様より書籍化されます。よろしくお願いします! マリアンデール1巻書影
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