第1話 シーグローヴ公爵家主催の夜会
本作マリアンデール、副題を変えて、スクウェア・エニックス様から2026/09/07発売されます!
「だいたいこの場はシーグローヴ公爵家主催の夜会ですのよ? 男爵家の、しかも元は平民出身の身分で、大きな顔でこの夜会に出席など。弁えた方がよろしいのではなくて? だいたい、そのパリュールも、ブラックウェル伯爵家の遺産ではございませんの? 先妻の子から取り上げて、そもそも、先妻の子はデビュタントしたのかしら?」
先日、春の大夜会が開催され、今宵、時間を置かずに王家に連なる公爵家であるシーグローヴ家主催の夜会が、王都のマグノリア離宮で開催されている。
その場での発言だった。
「なかなかな気炎を吐いているな」
「ビークロフト伯爵夫人ミランダ様ですわ。マリアンデール様」
元友人で現在、部下のカレンが私にこそっと囁く。
「ふむ」
「アーチデール男爵夫人は……ジャネット様は大丈夫でしょうか」
カレンは心配そうにアーチデール男爵夫人に視線を向ける。
大丈夫。
こんなことは織り込み済みだ。
そもそも、声高に義母、アーチデール男爵夫人をこき下ろしてる何某家の伯爵夫人など、今夜の夜会では邪魔でしかない。
だって、本来ならここに来ていいと主催者は思ってないのだから。
この夜会の主催者がシーグローヴ公爵家ということで、高位貴族はこぞって出席しているが、そもそも、今夜の夜会は、シーグローヴ公爵家が、下位貴族ながらも王国屈指の大財閥であるアーチデール男爵家に下請け(丸投げともいう)事案を任せる。条件はシーグローヴ派閥の連中にもちょっと協力させて――その申し出があって、根回しと顔合わせの為だけの夜会のはずだった。
だが、アーチデール家とシーグローヴ家派閥内での内々の夜会に留まらないのがこの貴族社会。
主催が王家に準ずるシーグローヴ公爵家ともなれば、何も知らないご婦人やご令嬢からは、「――何の夜会か知らないが、なんでうちに招待状がないの? ずるい。ずるい」なんて義妹のような声が四方八方からあがるわけだ。
義母であるアーチデール男爵夫人をこき下ろそうとしているご婦人も、そういった一人だろう。
「案ずるな、カレン。それで、声高にアーチデール男爵夫人を貶めるあの女の情報、わかるか?」
カレンは扇子を広げて私の耳に、騒ぎ立てている女の情報を囁く。
この夜会ではなんの関係もないのに、爵位が上というだけで、義母を貶めようとしている
ビークロフト伯爵夫人ミランダは、なんと、私に関係があった。
何の関係か。
亡き母の実家ブラックウェル伯爵家の寄子の子爵家の娘だったようだ。
亡くなった母とは縁戚。
このブラックウェル伯爵家の寄子であるブレアム子爵家は、ブラックウェル伯爵家の凋落の原因らしい。
そして彼女の実家のブレアム子爵家は、主家の足を引っ張りながら、自分はその泥船から、一足早く足抜けしようと画策するが資金繰りはうまくいくはずもなく。
自分の娘を当時高齢だったビークロフト伯爵に嫁入りさせていた。
それが今、アーチデール男爵夫人に噛みついているミランダ・ヴィ・ビークロフト伯爵夫人らしい。
自分の親世代の因果など、記憶をなくした私の知るところではないが、情報として耳に入ればまた別だ。
それに、一応亡き母の実家のことだ。
義母に任せるのは、無責任というものだろう。
「ブラックウェル伯爵家の遺産について、他家の者が口を出すのは品がないとは思われませんか?」
「はあ!?」
私の言葉に振り返るビークロフト伯爵夫人ミランダは声を上げて、私に視線を向ける。
赤味のある茶色い髪と、灰色の瞳は、ブラックウェル伯爵家縁戚を思わせる。
以前、アデライド様の祖父である、先代シーグローヴ公からは、私の祖父の話をほんの少し聞かされたことがある。
私は先々代のブラックウェル伯爵の色味が強いそうな。
多分「気性もその線かなと」老公は楽しそうに笑っていたが……。
「私の亡き母の形見、ぜひ、今夜の夜会で身に付けてほしいと義母に願ったのです。ああ、名乗らず失礼を。私――アーチデール男爵家が長女、マリアンデール・ヴィ・アーチデールと申します」
カーテシーをして見せると、ミランダ夫人と義母ジャネットを取り巻いていたご婦人方やご令嬢達の視線が一気に私に向けられる。
「似てないわね」
ビークロフト伯爵夫人は上から目線で物を言う。
爵位も年齢も上だから当然か。
そして似てないという呟きは、私の実母ブラックウェル伯爵令嬢――レジーナ・ヴィ・ブラックウェルとの面差しが似てないと言いたいのだろう。
アーチデール男爵が再婚した当初、後妻であるジャネットが王都アーチデール邸の玄関ホールに飾られていた実母の肖像画を倉庫にしまい込んだ。が、ここ最近、思うところがあって、その肖像画は現在、私の部屋に飾られている。
ピンクブロンドに緑の瞳の線の細い美少女だ。
確かに私に似ていない。
アーチデール男爵の前妻、レジーナ・ヴィ・ブラックウェルといえば、当時は妖精姫とデビュタント時にもてはやされたらしい。
「仰るとおり、私と実母は似ておりませんが――……義母と実母は似ております」
私がそう言うと、ビークロフト伯爵夫人は、「ほほほ」と高笑いをする。
色気のある妖艶なジャネットと、清楚可憐な妖精姫と謳われたレジーナとどこが似ているのだという嘲笑だ。
実母を知るご婦人達も扇子越しで「似てる?」「いいえ、似てないでしょ」などと囁き合う。
社交界では「美人ではあるが、前妻と全く似てない」「アーチデール男爵の趣味が変わった」「前妻の伯爵令嬢は、男爵位の箔付け」等々、言われ放題だが、アーチデール男爵の好みは一貫している。
グリーン・アイズがお好みなのだ。
私の実母も義母もそれは綺麗なグリーン・アイズをしている。
「父であるアーチデール男爵は、緑の瞳の女性がお好きなのです」
私がそう言うと、実母を知るご婦人達は思い出したらしく「ああ~そういえば~」な囁き声もあちこちから漏れ聞こえてくる。
「私は昨年、事故でこれまでの記憶を失いました。少しでも以前の記憶に繋がる可能性があればと思い、実母が身に付けていたこれらを義母に身に付けてほしいと願ったのですよ。実母の肖像画とそっくりの、緑の瞳を持つアーチデール男爵夫人に。残念ながら、以前の記憶はもどりませんでしたがね」
私の発言に、ご婦人方やご令嬢達は再び「ああ~そういえば~」という囁き声を漏らす。
「この春、デビュタントとなりましたし、実母の話を知る人物と出会う機会も増えるかもと思っておりました。実母の話を伺いたいものです。ビークロフト伯爵夫人は、このブラックウェル伯爵家所蔵だったパリュールにお詳しいのですか? ということは――……私の実母の話を伺えますか? 実母の実家である、今は王家に爵位を返上したブラックウェル伯爵家のことを――……」
青みがかった鋼色の瞳を、ビークロフト伯爵夫人に向ける。
「そんな昔話は、他所で聞けばいいでしょう!? たかが男爵令嬢のくせに、礼儀も弁えていないようね!」
金切り声で私にそう言い捨てるビークロフト伯爵夫人。
そうだろう、お前の実家が足を引っ張って、ブラックウェル伯爵家は没落したのだから、お前が自白することはないだろうとは思っていた。
さあどう弄ってやろうか。
「わしが、語ってもよいぞ? マリアンデール。昔話は老人の専売特許だ」
ご婦人やご令嬢達の輪を取り外せる存在感のある老紳士の声が聞こえた。
その隙を狙ってビークロフト伯爵夫人は「気分が悪いので失礼するわ」と声をあげて、その場から去っていく。
「どうだね? マリアンデール」
声をかけた老紳士は先代シーグローヴ公爵。
アデライド様のお爺様だった。
ストック現在17話分しかないんだが……私が……限界なんだ……。
筆が遅いのが悪いんだけど、なろう感想欄怖くて閉鎖してるけど、
どうか、どうか、リアクション、よろしく……おねがいします……。
追記
8/25、12:00 お昼に、2話投稿予定。




