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22.純血主義

その日、レシアはいつものように講義に参加していたが、そこで魔物討伐で一緒になった魔法使いの青年に会った。

レシアの会釈にこそ応じたものの、彼はあからさまな嫌悪を示しており、レシアのことなど視界にも入れたくない様子だった。

「どうせ俺たちのことを見下してるんだろ」

講義が終わり、レシアが護衛であるシェリス合流する前に彼は棘のある言葉を投げかけてきた。しかしレシアには意味がわからない。

「俺たち、というのはどなたのことでしょうか。それに、わたし、誰も見下したりしてません」

貴族の作法も忘れてムッとした返事を返すレシアに相手も声を荒げる。

「あんたは純血なんだろ?」

「純血?」

「両親ともに魔法使いの場合は純血だ。あんたの魔法の強さは明らかに純血だ」

その言葉にレシアは呆れた。

「別に混血でも魔法は使えますよね?それとも純血のほうが偉いとでも?」

苛立ちのこもったレシアの言葉に彼はひどく驚いたようだった。

「貴女は純血主義ではないのですか?」

「純血主義ってなんですか?」

聞きなれない言葉にレシアは彼に尋ねたが、それに答えたのは講義室に入ってきたシェリスだった。

「魔法は、魔法使い同士の間に産まれた子に継承されるべきだという考え方ですよ」

いつまでも出てこないレシアを心配したシェリスは様子を見にきて、ふたりのやり取りを耳にしたのだ。

レシアは、うーん、と唸ってから、

「確かに魔法は便利ですが、全員が全員、使えたほうがいいとは思いません、危険でもありますからね。でも限られた人だけがその恩恵を受けるというのは、さすがに賛成できかねます」

レシアの考えに彼は感嘆すると同時に周囲を見渡し、小声で言った。

「今までのご無礼をお許しください、てっきり純血主義だと思っておりましたので。ですが、レシア様のお考えは声高に発言してはなりません」

「なぜですか?」

レシアはいぶかしげに思いながらも青年のアドバイスを受け入れ、小さな声で応じた。

「純血主義を唱える者は自らも貴族である者が多く、ある程度の権力は自由にできます。それでなくても彼らは貴女とレイナート様の関係をよく思っておりません」

「関係とおっしゃいますと?」

レシアの問いに青年はきょとんとした顔をして、

「おふたりは恋人同士ですよね?」

と言った。レシアとレイナートが恋仲であることはヒュートなら誰もが知ることで、この青年もヒュートに出入りしているのならば、その噂は聞いているのだろう。

確かにそうではあるのだが、他人から改めて指摘されると恥ずかしいものがある。

レシアは熟れたイチゴのように真っ赤な顔になってしまい、仕方がないのでシェリスがそのあとを継いだ。

「えぇ、そうです。おふたりの婚約は王都へ戻ったら発表されるでしょう」

それを聞き、青年は厳しい顔で言った。

「彼らにとっては純血であることがすべてです、貴女のような強い力を持った魔法使いにはなおさらそれを求めます。魔法使いでない者の血が魔法使いの血を穢していると、彼らはそう考えているからです」

お気を付けください、と彼は言い、次の講義があるから、と立ち去った。


「なるほど、レシアさんに好意的だったのは純血主義者だったのですね。道理でレシアさんに触れたがるわけです」

言われてみると必要のない握手を求められたり、何気なく肩を叩かれたりした。

「恋を始めるにはまずスキンシップからと言いますからね」

「恋?!」

シェリスの言葉にレシアは驚いてしまう。

「だってそうでしょう?あの青年の言うことが本当なら、純血主義者のみなさんはレシアさんと恋人になろうと躍起になっているということですよ?」

「そんな!わたしは既にレイナート様とお付き合いをしています!」

「えぇそうですね、彼が護衛でなくて本当によかった。もしそうなら今頃は死体の山です」

溜息交じりのシェリスの言葉にレシアはたじろいだ。

「いくらなんでもそれは」

「いいえ。あなたがレイナートさんをどう思っているか知りませんが、彼は掌中の珠に手を出した相手を生かしておくような、そんな優しい方ではありません」

それを許したわたしも殺されるかもしれませんねぇ、とつぶやいたシェリスの手をレシアは思わず握った。

「大丈夫です、シェリス様は命に代えてもお守りします」

レシアの必死な物言いにシェリスはくすくすと笑い、

「まぁ。それは頼もしいですね」

と言った。


そんなことがあった数日後、レムズたち一行が学院に戻り、これからの予定を決めるため、レムズはレシアとシェリス、オグリアスと相談することにした。

「待ちくたびれたよ、勝手に証書授与式を済ませてしまおうかと思っていた」

オグリアスの軽口にレムズは苦い顔をする。

「これでもかなり急いで戻ってきたんですよ、転移魔法と比べられては困ります」

「でも彼女は我々の到着から三日後には学院にたどり着いたよ」

オグリアスから話を振られたシェリスは、

「馬を何頭も乗り換えて駆け付けましたからね」

と言い、ふふっと笑った。

ヒュートマスター様と比べられても困ります、とやはりレムズは口を尖らせながらも本題へと移った。

「レシア様の証書授与式では出生も明らかにする予定です」

その言葉にシェリスは、出生ですか、と疑問を投げかけ、レシアは、

「実はわたし、オグリアス様の娘なんです」

と言った。

「まぁ、それは」

驚きのあまり絶句するシェリスにレシアは、隠していてごめんなさい、と小さな声で謝罪しながらも言い訳をした。

「わたしが知ったのもアンマリー様と初めて面会した日なんです、母は父のことはなにも教えてくれなかったので」

その言葉を受けオグリアスが説明をする。

「そのようにしたのはわたしたちの意思だ。わたしはオグリアスを襲名して間もないころにヤルナガスと恋仲になった、それは許されることではなく、あのころには隠しておくことしかできなかった」

オグリアスとしての立場が安定したら発表しようと約束していたが、いざその時期になってみれば今度はヤルナガスが渋った。

彼女は治癒師として各地を巡る旅を始めていて、オグリアスの妻になったらその自由が失われることを危惧した。

オグリアスの妻という立場は一国の王妃と言っても過言ではないほどの地位となる。王妃が慈善活動のために地方を訪れることはあるが、それには大量の護衛騎士が必要となる。大勢の護衛を引き連れてまで辺境の地で病に苦しむ人々を訪問するなど、馬鹿げている。

あけすけに言うならば大所帯は金がかかるのだ。

そこでオグリアスとヤルナガスは関係を伏せたまま、それぞれの道を生きていくことにしたのだった。

もちろんヤルナガスが亡くなったとき、オグリアスはレシアを引き取ろうとした。しかし、それより早く彼女が村長と共に旅に出てしまい、以降の足取りが途絶えてしまったのだ。

レシアが山奥の村に落ち着いたことは掴んでいたが、彼女がその暮らしを望むのならば、とあえて静観してきた。

しかし、レイナートに見いだされた彼女は魔法使いとして認識されることになった。となれば、自身の娘であることを公表し、その後ろ盾になったほうがレシアの為になるだろうとオグリアスは判断したのだった。

「レシアがわたしの娘だと発表されれば、彼女の周囲が騒がしくなる。非常に残念ではあるが、学院から去ったほうが賢明だと思っている」

オグリアスの言葉にレシアは悲しげな顔をしながらもうなずいた。

学院には多くの純血主義者がいる、ヒュートに所属しているあの魔法使いの言葉通りなら、彼らは貴族に顔が利く。権力を笠に縁談を持ち込まれたら面倒だ。

レシアとオグリアスが親子であると表明すれば父親であるオグリアスの許可は必須となる。しかし彼は中立国の長である為、積極的に縁談をまとめることはもちろん、拒むこともできない。

のらりくらりとかわすのが精々。とはいえ、そういうことはオグリアスの得意分野であり大いに期待できるが、長い間ずっとというのはさすがに厳しい。

証書を受け取ったら速やかに国に帰る、そして陛下から宮廷魔術師としての任を拝命するのだ。そうなれば陛下の許可なくレシアに結婚を申し込むことはできなくなる。そして恐らく陛下はレイナート以外に許可を出すことはしないだろう。

つまり、レシアは国という大きな後ろ盾を得ることになるのだ。

オグリアスはレムズに勝手に授与式をするところだったと言ったが、本心はそうではない。証書をレシアに手渡したそのときが別れを意味している。

「レシア様の証書授与式は三日後としましょう」

レムズの言葉に一同は沈黙をもって了承を伝えた。

いつもお読みいただきありがとうございます

最後まで書きあがりましたので、ここからスピードを上げて、一日二回(11時と17時)、投稿していきます

次は夕方の17時です、よろしくお願いします

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