【第3話②】神様のクソ仕様
「そんなこと、で済む話か。被害者はひどく衰弱して、中には呼びかけにもまともに反応しなくなったやつもいるんだぞ」
「倒れた場所だけ追ってても、たぶん共通点は見つからねえぞ」
「……知ってるのか」
慎重に聞き返す。
情報通が「知っている」と言うなら、たぶん本当に知っている。
問題は、その情報がいくらに化けるか、だ。
「あのな。この世界じゃ、普通の魔物や流行り病だけ追っても、答えに辿り着けねえことがある」
メロンが、一瞬だけ宙を見た。
パンを持つ手が、止まっている。
「じゃあ、何を追えっていうんだ」
「さあな。神サマのクソ仕様が絡むと、医者に診せても分からねえことがある――ま、こっちの話だ」
「……いや、気にするだろ。今、依頼の核心っぽい単語をサラッと流したよな」
メロンは答えず、パンをひと口かじった。
こいつの口は、いったん閉じると鍵がかかる。深追いすれば、割増料金の予感しかしない。
……あとで、ちゃんと聞く。
聞くからな。
「それより、だ。――おやおや?」
案の定、メロンは強引に話をぶった切ると、ぐいと身を乗り出して、俺の顔を覗き込んできた。
ふざけた気配が、ふっと消える。
値踏みするような、妙に静かな目。
こいつは時々、こういう目をする。
「お前、隣町の護衛依頼で一週間、出っぱなしだったよな」
「ああ。今朝帰ってきた。……よく知ってるな」
「で? 向こうで女の子と、よろしくやってきたのかよ」
「は? してない」
即答だった。
我ながら悲しくなるくらいの即答だった。
一週間でやったことといえば、夜営の見張りと、壊れた車輪の修理と、依頼主の長い自慢話への相槌。
以上だ。
メロンが顔をしかめた。
信じられないものを見る目になる。
「……じゃあその間、自分で『処理』もしてねえのか」
「――っ」
俺は反射的に周囲を見回した。
串焼きの屋台。
吟遊詩人。
親子連れ。
真っ昼間の、広場のど真ん中である。
声を落とす。
落とすしかない。
「……おい。何の話をしてるんだ、こんなところで」
「バカ、自分から変な顔すんな、ヘタレ。こっちが恥ずかしいだろ」
「お前が変なことを聞くからだろ。俺は事件の情報を聞きに来たんだぞ」
抗議の声まで小声になっているのが、我ながら情けない。
ここで張り合って大声を出したら、確実に俺のほうが変質者枠だ。
撤退戦である。
声量は、下げたまま守り抜く。
「……おいおい、マジかよ」
メロンは大真面目な顔で、俺の額のあたりに視線をやった。
「お前のソレ、大丈夫か? このままだと――爆発すっぞ」
「……は?」
「だから、爆発するっつってんだよ。お前の、股間が。ドカーン、とな」
噴水の水音だけが、やけに大きく聞こえた。
爆発。
股間が。
ドカーンと。
……いや、落ち着け。
比喩だろ。
比喩であってくれ。




