【第3話①】広場担当警備員は今日もサボる
中央広場。
露店の呼び込み。串焼きの煙。吟遊詩人の調子っぱずれな弾き語り。
真ん中にはでかい噴水があり、その縁をぐるりと囲むように、青いベンチが並んでいる。
噂も依頼も面倒事も、だいたいこの広場から転がり出てくる。
さて、と足を止めかけて、内心で舌打ちした。
また脳内に、薄い半透明のウィンドウが立ち上がりかけている。
『話す』 『移動する』 『休む』
……選択肢を浮かべるな、俺。
完全に、この世界に毒されている。
ためしに、心の中で呼びかけてみる。
こんにちは、システム君。
――レディです。
「…………」
「聞こえた気がした」ではない。
前より少し、はっきり聞こえた。
財布の中の石ころが頭をよぎったが、深追いはしない。
探すまでもなかった。
噴水前のベンチ。
緑の髪に、ぴんと尖った長い耳。
当人は堂々と足を組んで、日向ぼっこの真っ最中だった。
手にはかじりかけの丸パン。
隣には『メロン印のおやつパン』の紙袋が一枚。
……自宅か、ここは。
「よー、ああああ。元気にしてたか? 久しぶりじゃねえか」
向こうが先に気づいて、ひらひらと手を振ってきた。
にっと笑った口元から、サメみたいなギザ歯が覗く。
「……またサボってるのか、メロン」
「人聞きの悪いこと言うなよ。アタシはサボってるんじゃない。広場の平和を見張る、由緒正しき『広場担当警備員』。れっきとした任務中だ」
「そんな役職は存在しない。お前の雇い主、さっき血相変えて探してたぞ」
「げっ。マジか」
「嘘だ」
「……チッ。小賢しい嘘をつくようになったじゃねえか。広場の隅で行き倒れてた、初心者マーク付きのお前は、もういないんだなあ。あーあー、かなしいよぉ」
「行き倒れてない。座り込んでいただけだ」
「同じだよ。それを拾ってやった恩人に向かって、口の減らねえやつだ」
メロンは舌打ちして、どっこいしょ、とやけに年季の入った掛け声で背筋を伸ばした。
見た目はエルフの娘。
中身はこれである。
一応、表通りの『いこい亭』とかいう高そうな店のメイドらしいが、働いている姿は一度も見たことがない。
「で? 今日はなんの用だ。アタシの麗しい顔を拝みに来たってんなら、鑑賞料としてそこの屋台で串焼きでも奢れよ」
「奢るか。誰のせいで万年金欠だと思ってるんだ」
「なんだよ、薄情なやつだな。じゃあ慰謝料だ。そこの屋台のメロンパン、一個ちょうだい」
「もう食ってるだろ。その手に持ってるやつは何だ」
「ん? これはツケだ」
「誰の」
「お前の。アタシ専属の、歩くサイフ様のな」
視線を感じて振り向くと、屋台のおっちゃんが、こっちに向かって両手を合わせて拝んでいた。
……あとで払いに行くか。
泣きながら。
突っ込みどころは多いが、いちいち拾っていたら日が暮れる。
俺は懐から、依頼内容の書かれた紙を取り出した。
「仕事だ。情報収集。『謎の衰弱事件』――若い男が次々倒れてる、って噂。知ってるか」
依頼書を見た瞬間、尖った耳の先が、ぴくりと跳ねた。
だが、顔に驚きはない。
怯えもない。
あるのは「ああ、アレね」とでも言いたげな、気の抜けた表情だった。
「なんだ、そんなことか」




