【第3話③】ぼっち勇者と汚染値
「……どういうことだ。詳しい説明を求める」
声だけは冷静を装ったが、内心はまったく落ち着いていない。
「ほとんど文字通りの意味だっつの。一回しか言わねえからな、よーく聞けよ」
メロンが人差し指を立てた。
「この世界の男はな、定期的に女とイチャイチャして、体に溜まる『汚染値』ってのを下げなきゃいけねえんだ。手を繋ぐ、抱きしめる、キスする――触れ合いが濃いほど、よく下がる」
「……下げないと、どうなる」
「溜まるほど、体が重くなる。だるくなる。で、限界を超えたら――アレがドカン。もれなく女の子デビューだ」
体が重くなる。だるくなる。
……おい。
待て。
あの立ちくらみを、俺はずっと、崖で放った魔法の反動だと考えていた。原因の見当がついている気でいた。だから、無理を避けて、様子を見て、それで済むと思っていた。
嫌な符合が、頭の中でかちりと音を立てる。
――違ったのか。
最初から、まるごと。
「……つまり、性別が男じゃなくなる、ということか」
「正確には、女の子として再登録される」
「正確に言われたほうが嫌なんだが」
「ちなみに、女のほうも汚染値を浴びすぎると、理性を失って魔物化するらしいぜ」
「……どっちに転んでも地獄じゃないか。考えたやつ、正気か」
言いかけて、白いトーガと筋肉と獣耳が脳裏をよぎった。
「……いや。正気じゃないやつに、心当たりがあったな」
「アホで理不尽だから神サマなんだよ」
「名言風に締めるな」
ツッコミに、いつもの勢いが乗らない。情報収集に来ただけのはずが、俺はいま、この世界の根幹に関わるクソ仕様を、串焼きの煙の中で聞かされている。
「……いや、待て」
俺は半歩、後ずさった。
「お前、俺をからかってるだろ。そんな話、ギルドの初心者講習で一度も聞いてないぞ。宿の注意書きにも、どこにも書いてなかった」
「常識すぎて、誰もわざわざ口にしねえんだよ。お前、『息は吸え』って講習で習ったか?」
「息と同列なのか、イチャイチャが」
「この世界じゃな」
「……よし、分かった。いったん帰って、寝て、全部なかったことにする」
現実逃避だという自覚はある。が、情報を持ち帰って整理し直すのも、慎重派の立派な戦略だ。
踵を返しかけた俺の袖を、メロンの手がむんずと掴んだ。
「デコ」
「は?」
「デコ。噴水で見てみな。危険域のサイン、もうばっちり出てるぜ」
言われるまま、噴水に歩み寄って、水面を覗き込んだ。
揺れる水鏡の中、見慣れた自分の顔があって――その額に、赤い『M』のような紋様が、うっすらと浮かび上がっていた。
手のひらで拭った。
消えない。
水が揺れて、紋様が歪んで、また同じ形に戻った。




