【第2話②】黄金鎧の受付嬢は燃えやすい
「……いや、それはたぶん、突然変異のでかいトカゲの」
「Eランクが、討伐推奨Cランクの素材を、ゴブリンの耳に紛れさせて持ってくるか?」
「……道に、落ちてました」
「ワイバーンが、道に鱗を落とすか」
「最近のワイバーンは落とすんですよ。脱皮的な感じで」
我ながら、苦しい。
カウンターの向こうで、キーボードの音が止んだ。白ヒゲの奥の目が、ほんの少しだけ鋭くなる。
――まずい。
怪しまれた。
勇者バレは、命の危機ではない。もっとまずい。自由の危機だ。
ここで詰問されたら、「道で拾った」の嘘がどこまでもつか分からない。最悪、鱗は手放す。財布は痛いが、身元よりは安い。安くはないが、安いと思い込む。
俺は最悪の事態を想定して、心臓を冷やした。
――が。
「Eランクってことにしておくには、ちょいと惜しい男だよなぁ、お前は」
「……は?」
「実はな、うちの娘がそろそろ、こう……身を固めてもいい年でなぁ」
話の角度が、九十度ずれた。
「いや、そういう話では――」
「カリン! ちょっと来い、カリン!」
奥の受付に向かって、ギルドマスターが野太い声を張り上げる。
ぱたぱた、と小走りの足音。
出てきたのは、黄金の鎧をまとった受付嬢だった。
柔らかな栗色の髪を後ろでまとめ、書類を胸に抱えている。鎧のきらびやかさに反して表情は生真面目で、どこか育ちの良さがにじんでいた。
ギルドマスターの娘。受付嬢カリン。
……受付嬢が、黄金鎧。
この世界の職業分類は、本当にどうなっているんだ。
「もう、お父さん。業務中に大声を出さないでって――」
言いかけた彼女と、目が合った。
ぼっ。
彼女の手にしていた受付札が、発火した。
「ひゃっ、ち、ちが、これは、その、魔力の調子が、ちょっと――」
慌てて札を振り回し、火を消す。焦げ臭い煙が、ギルドの天井へのぼっていった。
「……受付札が燃えるの、初めて見たぞ」
「気にすんな。あいつ、魔力の制御がまだ甘くてな。照れると暴発するんだ」
「情報量が多いんだよ、親父」
照れると燃える受付嬢。剣と魔法の世界は、燃えるところまで自由だ。
とにかく、丸く収まった……ような気は、まるでしない。
が、少なくとも「お前、勇者だろ」とは追及されずに済んだ。代わりに婿候補みたいな目で見られた気がするが、あれはギルドマスターの気の迷いだろう。
そういうことにしておく。
「で、この鱗は?」
「お前が『道で拾った』で通すなら、出所不明の素材だ。換金はできねぇ。こいつはギルドで預かる」
「……ですよね」
言われるまでもない。分かっていて、隠していたのだ。
財布の安全か。身元の安全か。天秤は最初から、傾いていた。
カリンが焦げた札を脇に置き、代わりに新しい用紙を取り出した。
「では、預かり品として登録しますね。……あの、ああああさん」
「ん?」
「保管期限は一年です。それまでに出所を証明できれば、いつでもお返しできますので」
規則どおりの説明だった。ただ、最後の一言だけが、わずかに丁寧すぎた気がする。
確かめようと顔を上げかけて、やめた。目が合うと、今度は書類ごと燃える気がしたからだ。俺は黙って、受領のサインだけを書いた。
と、ギルドマスターの声から、さっきまでの軽い調子が消えた。
「ああああ。お前、最近の街の噂、知ってるか」
「噂?」
「ここ半月でな。若い男が、ばたばた倒れてる」




