表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼっち勇者『ああああ』は、今日も誤爆で彼女が増える ~イチャイチャ必須の異世界で、俺の財布だけが死んでいく~  作者: あいうえお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/29

【第2話①】道に落ちていたワイバーンの鱗

 そういえば、この白ヒゲと太鼓腹には、初めて会った時から妙な既視感があった。


 元のゲームの名前入力画面。酒場のカウンターで、キーボードへ向かっていたドット絵のおっさん。


 似ているといえば、似ている。


 だが、粗いドット絵だ。白ヒゲ、鎧、出た腹。冒険者ギルドの親父を描けば、だいたいそんな姿になるのだろう。


 そう思って、深く考えないことにした。


「カタカタカタカタ……ッターン!」


「……」


 薄暗い、木造りの酒場。


 壁には紋章入りの旗と、交差した剣。掲示板には羊皮紙の依頼書がびっしりと貼られ、昼間からエールを呷る冒険者たちがいる。


 どこからどう見ても、冒険者ギルド。


 そこに、場違いな高速タイピング音が響いていた。


「おい、親父。この世界、剣と魔法のファンタジーだよな」


「そうだな」


「なんでパソコンのキーボード叩いてんだよ」


 カウンター越しに、今日で百回目のツッコミを入れる。


 同じ問答を百回やっている時点で、おかしいのはたぶん俺のほうだ。


「あぁ? 冒険者のデータ管理に決まってんだろ」


「データ管理」


「受注履歴、討伐数、報酬、ランク。全部クラウドにバックアップしてんだよ」


「クラウド」


「うりゃ、会心のッターン!」


 人差し指を高々と振り上げ、エンターキーに全力で叩きつける。


 バァンッ!


 カウンターが震え、ジョッキが跳ね、隣の席の冒険者が肩をびくつかせた。


 キーボードは、無傷である。


 ミスリル製だからだ。


 伝説の鉱石の使い道として、あまりにも間違っている。


 だが、もう驚かない。


 教会の懺悔室には、なぜか「録音中」の札まで貼られている。


 この世界は剣と魔法の王道ファンタジーの顔をして、ところどころに現代文明めいた何かが混ざっている。


 ツッコめば負け。


 飲み込んで、日々を回す。


 数か月の経験が、俺にその処世術を叩き込んだ。


 ギルドマスターがキーボードを叩いているあいだ、俺は自分の財布を開いた。


 銅貨が数枚。


 以上。


 ……以上、である。


 寂しすぎる中身の隅で、先日、川辺で拾ったまんまるい石ころが、ころりと音を立てた。


 手のひらに収まるくらいの、妙にすべすべした石だ。値打ちなんてなさそうだが、握ると、なぜか少しだけ手になじむ。

石ころを拾ったあたりから、システム表示が前より読みやすい。


 気のせいだ。


 そういうことにしておく。


 深く考えると、だいたい面倒事として確定するのが、この世界の仕様だ。


 財布が銅貨数枚なのには、事情がある。請けているのが、荷運びに水汲み、たまにゴブリン三匹程度の、安い雑用ばかりだからだ。


 安いが、それでいい。


 この世界の「勇者」は、希望の星であると同時に、極上の獲物だ。王国は外交カードに、教会は広告塔に、貴族は派閥の旗印にしたがる。組織に担がれて笑顔で手を振る人生など、想像しただけで蕁麻疹が出る。


 だから、力は使わない。逃げ道を一本だけ残して追い込み、講習で習ったとおりに処理する。段取りさえ組めば、危ないことは何もない。


 ……戦略としては、完璧なのだ。


 問題は、規格外のスペックというやつが、派手な戦場より地味な日常でこそボロを出す、ということくらいで。


「で、今日の納品はそれだけか?」


 ギルドマスターの声で、意識が戻る。


「あぁ、隣町からの護衛帰りに片づけた、ゴブリン三体ぶんの討伐証明と――」


 俺は使い古した革袋を、カウンターの上で逆さにした。


 討伐の証であるゴブリンの耳が、ぽとぽとと転がり出る。


 その最後に。


 こつん、と。


 青灰色の大きな鱗が、硬い音を立てて落ちた。


「…………」


「…………」


 ……なぜ、それが出てくる。


 慌てて袋の中を覗き込み、原因を見つけた。


 内側に縫いつけてあった隠し袋。


 その底が、ぱっくりと裂けている。


 鱗を入れたのは、俺だ。


 あの崖の一件で、爆風に剥がれた一枚を拾った。出所を説明できない以上、この街では換金できない。それでも本当に食う金が尽きたときの、最後の保険として持ち歩いていた。宿に置いて盗まれ、勝手に流通すれば、辿られるのは俺のほうだからだ。


 その最後の保険が、破れた縫い目から討伐証明の側へ滑り落ちていたらしい。


 石橋を叩く男が、足元の袋の穴だけ見落としていた格好である。


 白ヒゲをたくわえた鎧姿の男が、鱗をつまみ上げた。


 腹の肉は鎧の隙間から堂々とはみ出しているが、その肩と腕は、現役のそれだ。


 ランプの灯りに透かすと、ぎらり、と青灰の光が走る。


「ああああ。これは、ワイバーンの鱗だな」


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ