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ぼっち勇者『ああああ』  作者: あいうえお


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【第9話③】上手くやらなくていい

 ……何があったかは、語るまい。


 ただ、ひとつだけ。


 りんごさんは、給仕の時と、まったく同じだった。



 翌朝。


 目を覚ますと、赤い髪が、俺の胸の上でゆっくり上下していた。


 朝日が障子越しに差し込んで、部屋の中を淡いだいだいに染めている。遠くで、店の誰かがおけを洗う音がした。


 ……昨夜のことを、思い返す。


 緊張で指先が震えていたのに、りんごさんは震えながら「大丈夫ですっ」と言い張った。誰もいていないのに、言い張った。そして、その直後に自分の袖を踏んだ。


「わっ、わわっ、ご、ごめんなさいっ!」


 何度その台詞を聞いたか、数えていない。


 髪が絡む。手順を間違える。緊張のあまり息を止めて、途中で続かなくなって、慌てて吸い直す。そのたびに真っ赤になって、けれど一度もへこまずに、「つ、次こそはっ」と拳を握る。


 結局、あの子は、どこにいてもあの子だった。


 途中から、俺は妙な気持ちになっていた。


 この子は、「うまくやること」を、ひとつも自分のために望んでいない。ご指名第一号の客に、いい時間だったと思って帰ってほしい。ただ、それだけで動いている。茶をこぼしては拭き、果実の皮を剥き直し、「できましたっ」と胸を張っていた、あの顔と地続きだ。


 だから、途中で一度、手を止めた。


「……上手くやらなくていい」


「え」


「失敗しても、減点はしない。俺は、そういう客じゃない」


 りんごさんは、ぱち、と大きく瞬きをして。


 それから、みるみるうちに目を潤ませた。


「……ずるいです、それ」


 小さな声だった。


「そんなふうに言われたら、わたし……もっと、頑張っちゃいますよ」


 そうして、結局、朝まで頑張られた。


 言い方を、完全に間違えたと思う。



 胸の上で、赤い頭がもぞりと動いた。


「ふぁ……えへへ。ご指名のお仕事、はじめてでしたけど……すごく、お優しかったです……」


 ――ピロリロリーン♪


【システムメッセージ】  

 りんごが『ハーレム枠(仮)』に追加されました!  

 ※果実名の発音には、引き続きご注意ください。


 注意が、毎回毎回、なぜ事後なんだ。


 ……ん?


 そこで、ふと気づいた。


 出ない。あの、金縁きんぶちだの飾り文字だのの『END』表示が、今回は出ていない。


 メロンの時は『GAME OVER?』。みかんさんの時は、大団円みたいな顔の『みかんEND』。今回は、枠の追加だけ。


 ……表示が出たり出なかったりする条件が、まるで分からない。


 分からないものが、また一つ。棚に、載せておく。

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