【第7話①】いこい亭の女将
店内は、外から想像していた「キャバクラ」とも「メイド喫茶」とも、違った。
磨き込まれた木のカウンター。棚にずらりと並ぶ、琥珀色の小瓶。天井から下がる行灯が、橙色の柔らかな光を落としている。和とも洋ともつかない、不思議に落ち着く空間だ。
そして、カウンターの内側。
紫紺の髪を結い上げ、藍の着物に臙脂の前掛けを締めた女が、帳面を片手に立っていた。切れ長の、琥珀色の瞳。口元には、柔らかな笑み。
だが――その目の奥は、笑っていない。
「いらっしゃい」
声をかけられて、俺は反射的に横を向いた。
……いない。
「メロン?」
さっきまで半歩前にいたはずの緑髪が、跡形もなく消えていた。のれんの外にも、店内にも、影も形もない。
入口まで付き合うって言ったじゃないか。入口だよ。ここ、入口だよ。
置いてくな。
「ふふ。あの子なら、もういないよ。……あの子は、店の中には、あまり入りたがらないからねぇ」
その声には、からかいとも、呆れともつかない響きがあった。
入りたがらない。働いている店に。
メロンの出勤率の低さは、ただの怠慢だと思っていた。
「……へえ。メロンの、紹介状ね」
女将の視線が、俺の手の中の、しわくちゃの羊皮紙に落ちる。
「……まったく。紹介状なんて、もっと早く渡せばよかったものを」
「え?」
「こっちの話さ」
女将は、何でもないことのように笑った。
「あんた、ただの冷やかしって顔じゃ、ないね。……まあいいさ。ここは『いこい亭』。とりあえず、座りな」
カウンターの席を、すっと手で示される。俺は逆らえず、言われるまま、腰を下ろした。
座ってから、気づいた。
店の奥も、他の客の顔ぶれも、ろくに確かめないまま座らされている。入店から着席まで、視線の行き先を、全部この女に決められていた。
【システムメッセージ】
ああああは、『いこい亭』の女将・キリカと、向かい合って座った。
柔らかな笑顔とは裏腹に、その目は、こちらの腹の内まで覗き込んでいるようだった……。
状況説明が、いちいち怖いんだよ。
ウィンドウは何も答えず、薄く消えた。逃げたな。




