【第6話③】継続調査費
翌日は、街外れの孤児院の屋根修理だった。
報酬は雀の涙だが、目立たないという一点において、俺向きの仕事である。板の合わせ方、釘の打ち方、雨漏りの元の見つけ方。以前、大工の親方の仕事を一度見て覚えた手順だ。
力任せに済ませれば勇者スペックがバレる。地味に、手順どおり。それが、いちばん目立たない。
半日かけて屋根を直し終えて降りると、子どもたちに「また猪のお肉、持ってきて!」とせがまれた。
少し前、山の依頼のついでに、畑を荒らしていた普通の大猪を一頭仕留め、肉が余って置き場に困ったので、何度かここへ分けたことがある。それだけで、俺はどうやら「肉の人」になったらしい。
帰り際、いちばん小さいのが、木の実と色糸で編んだ小さなお守りを押しつけてきた。断れる目では、なかった。
石ころの隣に、お守り。
……財布は死んでいるのに、金にならないものばかりが、着実に増えていく。
◇
夕方前、日雇いの精算と中間報告を兼ねて、ギルドへ戻った。
受付には、黄金鎧のカリンさん。
「あっ、ああああさん! お、お疲れさまです!」
「ギルドマスターに中間報告を」
「ほ、報告! りょ、了解です!」
カリンさんが中間報告書を受け取った瞬間、その端が、ぼっ、と小さく燃えた。
「だ、大丈夫です! これはその、受付あるあるですので!」
ないと思う。少なくとも、この受付以外で見たことがない。
奥から顔を出した親父に、俺は、拾った断片を順番に並べた。
倒れた場所はバラバラだが、どの被害者も傷はなく、財布は無事であること。倒れる前、妙にぼーっとしていたという目撃談。そして――少なくとも一人は、いこい亭の帰りだったかもしれないという噂。
「――こいつは、普通じゃねぇな」
親父は机の引き出しから革袋を取り出し、中身をきっちり数えてから、カウンターに置いた。
「四百ゼクク。第一報ぶんの報酬兼、継続調査費だ。経費処理はこっちでやっとく。ただし、依頼は『継続』だ。逃げんなよ?」
「調査費を渡すついでに、逃げ道を塞がないでください」
「がっはっは! いいねぇ、責任感のある男は! なあ、カリン!」
「お、おとーさん!?」
◇
夕暮れの広場。当然のように、噴水のそばにメロンが復活していた。
「……労働が終わった瞬間に湧いてくるな」
「彼女だからな。……ん? 今日は懐が膨らんでるじゃねぇか」
「たかる気満々の鼻を利かせるな。調査費だ。ギルドから預かった経費だぞ」
「へえ? じゃあ行くか、いこい亭」
脳内に、いつものウィンドウが浮かんだ。
【選択肢】
▶いこい亭
休む
今日は、迷わなかった。
懐に調査費がある。隣にメロンがいる。街で拾える噂は、もう出がらしだ。ならば次は、店の中で聞くしかない。
「……ああ。行こう」
そう答えた瞬間、ウィンドウの端が、ほんの少しだけ明るくなった気がした。
……褒められた、か?
ウィンドウは何も言わず、なぜか満足げな気配だけ残して、すっ、と閉じた。
◇
表通りの一角。藍色ののれんに、白く『いこい亭』。軒先の行灯に、ぽつ、ぽつと火が入りはじめる時間。
「ほら行くぞ、ヘタレ。アタシが、入口まで付き合ってやる」
「……ああ」
俺は懐から、例の油じみた紹介状を取り出した。しわを伸ばし、覚悟を決め、のれんをくぐる。
からん、と扉の鈴が鳴った。
汚染値の安全弁と、衰弱事件の噂の出どころ。その両方が、この一枚の布の向こうで待っている。
――石橋は、もう叩き終えた。
あとは、渡るだけだ。




