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ぼっち勇者『ああああ』は、今日も誤爆で彼女が増える ~イチャイチャ必須の異世界で、俺の財布だけが死んでいく~  作者: あいうえお


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【第6話①】普通の力で、普通に運ぶ

 今度こそ、いこい亭へ。


 ――そう意気込んで、宿屋を出て十歩。俺は立ち止まった。


 財布を開く。見る。閉じる。もう一度、開く。


 中身は、石ころが一個。


「……おい、メロン」


「なんだよ」


「昨日の記念パーティーで、俺の金、ほとんど使い切ったよな」


「使い切ったんじゃねぇ。幸せな形に変換したんだ」


「財布の死体を美談にするな!」


 素寒貧で神様公認の店に乗り込めないことは、先日、のれんの前で身に染みて確認済みである。


「……まず、日銭だな」


「ん。彼氏が働き者なのは、いいことだぜ」


「誰のせいだと思ってるんだ。お前は手伝うんだよな?」


「あん? アタシは広場担当警備員だぞ。持ち場を離れるわけにはいかねぇだろ」


「都合のいい時だけ職務に忠実になるな」


「ひひっ。飯時には呼べよ」


「呼ばなくても来るだろ、お前は」


 メロンはひらひらと手を振って、広場のほうへ戻っていった。


 手伝う気は、一ミリもないらしい。



 午前は、市場の荷運びだった。


「今日は荷馬車ごと持つなよ。運ぶのは中身だけだ」


「……分かってます」


 顔を合わせるなり、親方に釘を刺された。前回の一件は、まだ忘れてもらえていないらしい。


 言われたとおり、酒樽や穀物袋を、一つずつ抱えて往復する。これはこれで、案外難しい。力を入れすぎれば樽の箍が軋むし、抜きすぎれば指先で樽が踊る。


 「普通の力で、普通に運ぶ」という、ただそれだけのことに、俺は午前中いっぱいの神経を使った。


 勇者スペックというのは、便利なようでいて、日常にはまるで向いていない。


 昼は、井戸さらい。ついでに頼まれて、柵から逃げた豚を一匹、捕まえた。


 そして、井戸端というのは、この街でいちばん噂の集まる場所でもある。


 衰弱事件の情報収集依頼を、俺は忘れたわけではない。財布の都合でいこい亭には踏み込めないが、耳だけなら、タダで使える。


「そういえば、また倒れたんだってねぇ。若い男が」


「今度は東の路地だろう? 前は市場の裏だったのに」


「傷ひとつなかったって話じゃないか。財布も、手つかずだったって。怖いねぇ」


 泥をさらう俺の頭上で、おばちゃんたちが勝手に情報を交換してくれた。


 もはや聞き込みというより、浴び込みである。


 だが、拾えたのは、親父から聞いた話の裏づけだけだった。


 倒れる。傷はない。財布も無事。


 それ以上へ進む糸が、一本もない。

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