【第5話③】ハーレム枠(仮)
そう、安堵しかけて――急に、自分が言ったことの全貌が、改めて見えてきた。
夜。噴水前。付き合ってくれ。大の男が。遠ざかる背中に向かって。声を、張り上げて。
「わ、忘れてくれ。今のなし。なしで」
俺は顔を覆って、ベンチに座り直そうとした。
――その襟首を、いつの間にか引き返してきていた誰かの手が、ガッ、と掴んだ。
「――あ?」
振り向くと、メロンの顔が、すぐそこにあった。
「言い逃げは、許さねぇぞ」
「え」
「今、『付き合ってくれ』って、たしかに言ったよな? 夜の、噴水の前で。言ったよな??」
「シチュエーションを復唱するな! お前、ついさっき自分で流しただろ!?」
「うるせぇ! じ、人生最大級の不意打ちだったから、処理が遅れただけだ! 取り消しは認めねぇ! 言ったな!? 言質取ったからな!?」
「お前さっき『変な気起こすな』って言ったばかりだろ!」
「記憶にねぇな!」
メロンは怒鳴りながら、俺の胸ぐらを掴み直した。
細い指のはずなのに、勇者級ステータスの俺が振りほどけない。相変わらず、この握力の理屈が分からない。
耳は真っ赤なまま。なのに口元には、見たことのないくらい凶悪な笑みが、浮かんでいく。
「ひひっ……ひーひっひっひ! ヘタレのぼっち男が、一生アタシに貢ぐって言ったんだ! 後悔しても遅いぜ? これからは毎日、朝昼晩と高級メシからのデザート食べ放題だ!」
「待て! 朝昼晩は言ってない! 俺が言ったのは汚染値の管理で――貢ぐとも言ってない!」
「さぁ、明日からはデート資金稼ぎのクエスト三昧だ! アタシが彼女として応援してやるから、あの山のワイバーンでも狩ってきな!」
「話が大きい方向にしか転がってないぞ!?」
……あと、その単語は今いちばん聞きたくなかった。鱗をギルドに預ける羽目になったのが、つい先日である。
ピロリロリン――♪
【システムメッセージ】
メロンが『ハーレム枠(仮)』に登録されました!
汚染値の調整相手が、ひとまず確保されました。
ただし、【財布の危機】が永続付与されます。
……お幸せに。
「最後の一文、明らかに感情入ってなかったか!? あと永続付与!? それデバフだろ! 解除方法は!?」
ウィンドウは、無慈悲に閉じた。都合が悪くなると、本当にすぐ逃げる。
……というか、今の効果音。
どこかで聞いた覚えがある。
百円で買った、あのタイトル画面と、同じ音だ。
◇
「仕方ねぇな。ほら、行くぞ」
メロンが、手を差し出した。
「ど、どこへ」
「記念パーティーだ。彼女になった記念。テラス席が空いてる」
「待て。今夜はもう財布が――」
抗議は、夜風と一緒に流された。
夜のテラス席。ランタンの下、メロンは頬杖をついて、心底幸せそうに笑っていた。日雇いで取り戻した金は、一時間でほぼすべて蒸発した。
「ぶはー、食った食った。彼女になって初めての飯が、一番うめぇな!」
「俺の数日分の労働が……荷運びが……薪割りが……」
うなだれた俺の視界の端で、ふと、世界が暗転した。
夜空に、金縁の装飾枠が浮かぶ。
【GAME OVER?】
メロンEND
――終わらない奢りループ――
「えっ、END!? 俺の物語、ここで終わり!? しかも『終わらない奢りループ』ってなんだ!」
慌てて表示を見直し、俺は末尾の一文字に気づいた。
……待て。
『GAME OVER?』。
『?』が、付いている。




