【第4話④】紹介状は油のにおい
はぐらかされた。
こいつは、肝心なところでいつもこうだ。
何か知っているくせに、全部は言わない。
こっちが自分の足で踏み込むまで、半歩先でにやにやしている。
メロンはベンチから立ち上がった。
「言っとくが、そこは紹介状がねぇと、一見さんお断りだからな。なくすなよ?」
「ああ」
「じゃ、アタシは仕事に戻るからよ。……たぶん」
「たぶんって……」
「ま、気が向いたら、いこい亭にも顔出すさ。お前のぼっち卒業を、見物してやってもいいしな」
「見世物じゃないんだが」
「ひひっ。じゃあな、ぼっち卒業候補」
「候補にするな」
メロンはひらひらと手を振ると、エプロンドレスの裾をひるがえして、軽い足取りで広場を駆けていった。
……走っていった方向が、いこい亭とは、見事に真逆な気がするのは気のせいだろうか。
まあ、見なかったことにしておこう。
深追いしても、どうせはぐらかされる。
ひとり残された俺は、手のなかのくしゃくしゃの紹介状を、そっと広げてみた。
『紹介状
いこい亭 受付へ
この者、ああああを、中に通してやってくれ。
ぼっちで、ちょっとかわいそうなヤツだから、ヨロシク♪
メロンちゃんより』
「……悪口じゃねぇか」
これを、受付に見せるのか。
俺が。
自分の手で。
「かわいそうなヤツです」と、自己申告しながら。
もはや羞恥プレイの域である。
だが、これがないと門前払いらしい。
……と、そのとき。
ふと、鼻先を、油とソースのにおいがかすめた。
「……あいつ、串焼き食いながら書いたな?」
よく見れば、文字のあちこちに、茶色いシミが散っている。
間違いない。
特製ダレだ。
なんなら、今日のダレかもしれない。
ため息を、ひとつ。
それでも俺は、その油じみた羊皮紙を、ていねいに折りたたんで、懐にしまった。
さんざん悪態をつきながら。
口の周りをダレまみれにしながら。
それでも数か月、俺の大事なものを黙って守ってくれていたやつの、紹介状だ。
粗末に扱う理由なんて、ひとつもなかった。
「……いこい亭、か」
顔を上げる。
衰弱事件の調査。
汚染値のやっかいな管理。
そして、医者にも分からないという、神サマのクソ仕様。
――その全部が、同じ一軒の店の先で、俺を待っている。




