【第4話③】がめつい恩人の正体
「……なんだよ」
「お前の顔色が悪くなるたびに、強引に連れ回して、腕組んで歩いて、たっかい飯を奢らせてたのは、どこのどいつだと思ってんだ?」
「……」
俺は、口に運びかけた水を、そっと置いた。
心当たりが、ありすぎた。
絶妙なタイミングでふらりと現れる緑髪。
ろくに用件も言わないまま、するりと腕に絡みついてくる。
買い食い。
食べ歩き。
「今日はあっちの店」
「あっちの屋台」
そうやって振り回されて、そのたびに財布が軽くなった。
どれも、こっちが少しくたびれている日ばかりだったことに、今さら気づく。
あれが、全部――俺の汚染値の、管理。
「メロン……お前、俺のために、ずっと……」
「そうだぞ。もっと感謝しろ。――で、おかわり、いいか? 大事なモノを守ってもらった恩人サマに、それくらい、安いもんだろ?」
「…………」
いい話が、五秒で終わった。
……まあ、八割くらいは、普通に本人の欲望だった気もするが。
「……その、なんだ。ありがとうな」
「んが?」
「聞こえてただろ。二回は言わん」
メロンは一瞬きょとんとして、それから「ひひっ」と笑った。
串を持つ手が、ほんの一拍だけ止まっていた。
見たが、言わないでおく。
この手の指摘は、三倍の請求になって返ってくる。
注文という名の借金契約を終えて、噴水前のベンチへ戻った。
財布には、もともと残り少なかった小銭と、例の石ころが入っている。
そして未来の四百ゼククは、受け取る前から消えた。
「……お前だけだよ、俺の味方は」
石ころは、当然、何も言わない。
ただ、握ると、相変わらず、ほんのり手になじむ。
メロンは定位置にどっかり腰を下ろし、食後の休憩態勢に入った。
「ひひっ。そんな死んだ顔すんなって。尊厳拾いしたんだ、安いもんだろ?」
「拾った尊厳の代金が、全財産なんだけどな」
「等価交換ってやつだな」
「錬金術に俺の尊厳を巻き込むな」
メロンは笑って、それから頬杖をついて、横目でこっちを見た。
「まぁ、これで当分は、再登録の心配はねぇだろ。……だけどよ」
声の調子が、少しだけ落ちる。
「アタシだって、いつもお前のそばにいるわけじゃねぇ。何日か目を離しただけで、今日みたいに手遅れ寸前だ」
「うっ……」
「ぼっちのお前には、アタシ以外の安全弁が要るんだよ。……しかたねぇ。とっておきの場所を、紹介してやる」
メロンはふところから、くしゃくしゃの羊皮紙を引っぱり出すと、俺の胸にぐいっと押し付けた。
【システムメッセージ】
ああああは『いこい亭の紹介状』を手に入れた!
半透明のウィンドウが、いつもより少しだけ、はっきり見えた気がした。
「いこい亭……?」
「表通りの飲食店だ。アタシの職場、っつうことになってる」
「……お前、本当にそこで働いてたのか」
「『たまには』顔を出してる。……うちはな、ただの飲食店じゃねぇんだよ」
メロンは頬杖をついたまま、にやりと笑った。
「この街で、神様公認で、汚染値ってやつを安全に下げられる、お助け施設も兼ねてんのさ。教会よりよっぽど、人を救ってるぜ? ……男の尊厳って意味でも、な」
「そんな大事な施設だったのか、あそこ……」
「で、だ。例の衰弱事件、調べてんだろ? だったらなおさら、まずはそこに顔を出しときな」
「……いこい亭に?」
「汚染値絡みの施設にはな。汚染値絡みの客と、汚染値絡みの噂が、勝手に集まってくる。担ぎ込まれた男の話もな。バラバラに見える点と点も、あそこで噂を拾ってきゃ、そのうち線になるさ」
「……なるほど。それに、さっき広場ではぐらかした、事件と神サマのクソ仕様の関係も――」
「さあな。そういうのは、自分の足で確かめるもんだ」
メロンは、緑の瞳を一瞬だけ、ここではないどこか遠くへ向けて――それから、にっと、サメみたいな歯を見せて笑った。
「――まあ、せいぜい、がんばりな!」




