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勇者ですけど、魔王討伐前にいい宿探します。  作者: あなき


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鉄鳴亭

第三章


魔王城。


玉座の間。


「……ルフト村周辺の夜狼が壊滅しました」


リゼが報告書を読む。


ヴァルドは頬杖をついたままだった。


「勇者か?」


「はい。被害なしでの討伐とのことです」


部屋の隅で、

ガルドが笑う。


巨大な槍を肩へ担いでいた。


「へぇ。やるじゃねぇか」


セレスは資料を見ている。


「討伐時間が異常に短いみたいですね」


「勇者ならそんなもんだろ」


ガルドは気にしていない。


だがセレスは止まらない。


「いえ、おかしいです」


空気が少し変わる。


リゼが紙をめくる。


「現地証言では、“気づいたら終わっていた”と」


ガルドが笑う。


「なんだそりゃ」


「使用武器不明。魔法使用記録なし。斬撃痕も確認されず」


ヴァルドが少しだけ顔を上げた。


「……ならどうやって殺した」


数秒。


セレスは静かに答える。


「現在、諜報を追加で回しています」


ガルドがニヤつく。


「お前また勝手に動いてんな」


「念のためです」


冷静だった。


リゼが少し困った顔で続きを読む。


「なお、村側証言によると」


嫌な間。


「勇者本人は“温泉の途中だったので早く終わらせたかった”とのことです」


沈黙。


ガルドが吹き出した。


「ははっ!! なんだそりゃ!!」


ヴァルドも少しだけ笑う。


「変な勇者だな」


だが。


セレスだけは笑わなかった。


資料の一文を見ている。


《戦闘詳細:不明》


そこだけが、

妙に引っかかっていた。


朝。


ルフト村は静かだった。


窓の外では風が鳴っている。


レインは目を開けた。


数秒。


静かさを確認するみたいに、

そのまま天井を見る。


「……いい....」


小さく呟く。


その時。


コンコン。


「朝食できてますよー」


クラリスの声だった。


レインは少しだけ残念そうに立ち上がった。


一階食堂。


朝の日差しが窓から入っている。


焼き立てのパン。


卵料理。


野菜スープ。


小さな焼き魚。


湯気が立っていた。


ミリアが席へ座る。


「朝からいい匂いですねー」


クラリスも少し表情を緩める。


「いい朝食ですね」


女将は嬉しそうに笑った。


「皆さんのおかげで安心して料理できましたからねぇ」


レインはスープを飲む。


数秒。


「……朝食も良いですね」


「気に入りすぎじゃないですか?」


クラリスが言う。


レインはパンを見る。


「焼き立てです」


「分かりますけど」


「重要です」


真顔だった。


ミリアは魚を食べながら頷く。


「なんか落ち着きますねー」


窓の外では、

静かな風が鳴っている。


昨日みたいな騒がしさはどこにもない。


レインは少し周囲を見る。


「……静かです」


「そこ本当に重要なんですね……」


クラリスが苦笑した。


その時。


村長がやってくる。


「本当にありがとうございました」


深々と頭を下げた。


「おかげで村も助かりました」


クラリスが慌てる。


「頭を上げてください」


「いえ、本当に……」


村長は少し笑った。


「また近くを通ることがあれば、ぜひ寄ってください」


その瞬間。


レインが顔を上げた。


「また泊まれますか?」


「気に入りすぎですよ!?」


クラリスの声が響く。


女将だけ少し嬉しそうだった。


出発は昼前になった。


宿の前には、

村人たちが集まっている。


「ありがとうございましたー!」


「お気をつけて!」


ミリアも軽く手を振った。


クラリスは少し真面目な顔で礼を返す。


その横で。


レインだけが宿を見ていた。


「……」


「何見てるんですか」


「覚えてます」


「宿を?」


「はい」


真面目だった。


女将が少し笑う。


「またいつでも来てくださいねぇ」


レインは小さく頷いた。


「……また来ます」


クラリスが止まる。


「帰る前提なんですね」


「良い宿でした」


即答だった。


そのまま三人はルフト村を後にした。


街道。


山道を抜けると、

少しずつ景色が変わっていった。


荷車が増える。


商人も多い。


道幅も広くなっていた。


鉄材を積んだ馬車が何台も通り過ぎていく。


ミリアが眺める。


「なんか人増えましたねー」


「グランディアが近いですからね」


クラリスが地図を見ながら答える。


「鍛冶と魔導機関で有名な工業都市です」


「魔導機関?」


「簡単に言えば、大きな機械ですね」


「へぇー」


ミリアはあまり分かってなさそうだった。


レインが聞く。


「宿は?」


「まずそこなんですか!?」


クラリスが即座に反応する。


「グランディアは大都市ですから、宿も多いですよ」


「静かですか?」


「工業都市に何期待してるんですか」


その時だった。


遠くから低い音が響く。


ゴォォォ……


地面が少し震えた。


ミリアが止まる。


「……なんですかこれ」


クラリスが顔を上げる。


「来ましたね」


次の瞬間。


巨大な列車が鉄橋を走り抜けた。


白い蒸気。


轟音。


長い車体。


鉄の塊が山の向こうを駆けていく。


ミリアが目を丸くした。


「おぉー……」


クラリスは少し得意げだった。


「魔導列車です」


レインも静かに見ている。


列車は轟音を残し、

遠くへ消えていった。


数秒後。


レインがぽつりと言う。


「……うるさそうですね」


「感想そこですか!?」


クラリスが叫ぶ。


ミリアは少し笑った。


「でも速そうですねー」


「王都からグランディアまで数日短縮できるらしいですよ」


「へぇー」


クラリスは少し説明を続ける。


「最近は寝台列車なんかも増えてるそうです」


「寝ながら移動できるんですか⁉」


レインが初めて少し食いついた。


「え、はい」


クラリスが止まる。


「個室付きの高級列車とかもあるらしいですけど……」


沈黙。


レインが遠くの線路を見る。


「……すごいですね」


「ちょっと興味出てません?」


「別に」


少し間があった。


夕方頃。


ベルクへ到着する。


グランディア前の中継街だった。


宿場町。


商人が多い。


人通りも多い。


だが、

ルフト村ほど落ち着いてもいなかった。


「今日はここで一泊ですね」


クラリスが言う。


宿はすぐ見つかった。


《鉄鳴亭》


三階建て。


悪くはない。


本当に、

悪くはなかった。


部屋へ入った瞬間。


レインが少し止まる。


「……?」


クラリスが振り返る。


「どうしました?」


「少し狭いですね」


「普通ですよ」


確かに普通だった。


ベッドもある。


机もある。


掃除もされている。


問題はない。


ただ。


ルフト村のあとだと、

少しだけ窮屈に感じた。


ミリアはベッドへ倒れ込む。


「んー……なんか硬いですねー」


「ですよね」


レインが頷く。


「乗らないでください」


クラリスがため息を吐いた。


窓の外では、

遠くの蒸気音が小さく響いている。


シューッ……という音が、

一定間隔で鳴っていた。


レインは少し耳を澄ませる。


「……静かではないですね」


「工業街近いですから」


「気になります」


「気にしすぎです」


その後。


夕食。


肉料理だった。


味は悪くない。


ただ。


「……少し冷めてますね」


「もうレビュー始まった!?」


「スープも普通です」


「普通なら良いじゃないですか!」


ミリアはパンを食べながら言う。


「でもルフト村のご飯おいしかったですねー」


「比較するな!」


レインは少しだけ考える。


「……良い宿のあとだから、悪く感じますね」


クラリスが頭を抱えた。


「もう基準がおかしくなってるんですよ……」


窓の外で、

また蒸気音が鳴った。


シューッ……


レインは静かに天井を見る。


「……悪くはないです」


「なんでそんな微妙な評価なんですか」


「普通です」


それが一番困る感想だった。


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