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第7話 小さなハートマーク。

(…そうか…あの取り乱し方からすると…モニカはファーストキスか?)


エリーアスは執務室の自分の机に向かったまま頬杖をつく。どぎまぎしながら顔を赤らめるモニカはなかなかかわいかった…。事故だけど。あの場合は賢明な回避方法だったけど…。


「これは!間違いないですね。品名はしょっちゅう変わりますが、いわゆる”幸せワイン”には、このラベルの隅に、小さなハートマークが必ずついているんですよ?」

僕の秘書官のフリッツがくしゃくしゃになったラベルの隅に印刷された小さなハートマークを指さして皆に説明している。


俺が持ち込んだモニカに貰ったワインのラベルを、執務室に信用できるものだけ集めて見せた。俺の護衛官と第一近衛師団の副団長を兼ねているラルフ。秘書官と侍従も兼ねているフリッツ。軍の総括副司令官のアシル。宰相のマテーウス卿。…そこにおばあ様。侍女のイルマ。


「貧民街の教会か…あんなところ誰も近寄らないものな。いいところに目を付けたな。」

「移民たちの炊き出しの費用は私があの教会に出しているのよ。疑わないで頂戴ね。私じゃないから」

おばあ様がおどけて言うので、も、もちろんです…と皆恐縮している。


「要は…手入れが入って商品が抑えられるたびに、そこに持ち込んで、ラベルをはがして張り替えていた、ってことですかね?」

アシルが腕組みしながら唸る。


「こうも長いこと規制できないとなると…やっぱり内部に情報提供者がいますよね?」

ラルフが…言いにくいことをはっきり言うと、皆押し黙った。


フリッツが思い出したように、

「あ、殿下に調べておくように言われた東部の徴税状況ですが、税率はここ5年は変わっていませんね。重税にあえいで夜逃げしたとは考えにくいかと。これは地方税務局も確認しました。部下に言って、貧民街の人間を捕まえてそこんところを聞きこみしたんですが、東部に送り返されるんじゃないかと思っているらしく…誰も答えませんでした」


「うーん。アダンのとこの末娘は優秀みたいだなあ。いい観点を持っておるわい。殿下、ああいう子をそばに置きなさい。」

…と、頓珍漢なことを言い出したのはマテーウス卿。時々ぼけたふりをしているが、真相は誰もわからない。楽しそうに白いひげを揺らして笑った。


モニカは…確かに面白い子だと思う。


「で?殿下の次のデートはいつじゃ?その教会で一本ワインをくすねていらっしゃい。中身を見て見ないことには、どうもならん」

「…デートって…」

「むふふっ。殿下、先ほどから思い出し笑いしてますよ?何かあったのかな?何かあったら、アダンが国を亡ぼすかもしれん」

「……確かに…。」

マテーウス卿の発言に辺境伯アダンの弟であるアシルが頷いている。なんなの?


「そういうマテーウス卿のところの秘書官が一枚噛んでるんですが、ご存じでしたか?」

俺が切り返すと、卿はにやりと笑った。

「今、小物を捕まえてもな…トカゲのしっぽきりになるだけだ。でも面倒だから切り離してもいいぞ?」

そう言って、ごそごそと胸元から資料を取り出して、俺に渡してきた。

「あいつらのここ数年の銀行口座の残高だ。国の給金なんかいらないほどため込みおったわい。」

皆で頭を寄せ合って、卿の出した書類を見る。

2枚目は…第二師団の副師団長名義の口座。

どちらも、王城でこつこつ一生働いても入ってこないほどの金額が書き込まれている。


「風の強い日に動きがあるらしい。どう動くのかまではわからないが、警戒してくれ。」

貧民街の路地裏で小耳にはさんだ二人の会話はすべて聞こえたわけではない。情報は足りなすぎるが、動きがあることはわかった。知っている情報を開示して、協力を仰ぐ。

「そうね。じゃあ、離宮に軍が詰めたらいかが?開放するわよ?近いし。」

「教会に物があるのがわかっているのなら、踏み込んだら?」


…夜更けまで話し合ったが、マテーウス卿がこくこくっと居眠りし出したので、解散になった。












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