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第6話 食堂。

エリク君と待ち合わせした下町の食堂には、私の方が先に着いたようだ。日曜日だが、エリク君は勤務が入っていたのかもしれない。忙しいようなことを言っていたし。


店の前の待合のベンチに腰かけて待っていると、例によって良からぬ連中に声を掛けられた。3人か…。相手にとって不足はないかな。そんなことを考えながら、モニカはぼーっとその男たちの話しかけてくるのを聞き流していた。

「お嬢ちゃん、ひとり?」

とか、

「これからお兄さんたちといいとこ行こうよ?」

とか?良いとこって…どのあたりかしら?


もう一人が思わせぶりに折り畳みナイフなんか出してチラチラ見せてくる。やる気満々だわね?どこからくるかな?思わず笑みがこぼれそうになって…モニカは気を引き締める。


「もーちゃん?ごめん、遅くなった!」

ああ…こういうところでこういう状況ではね…実名で呼んじゃだめよ?後腐れが生じるからね。そう思いながら、走って駆け寄ってきてくれたエリクの方を見る。


「どうしたの?この人たち、知り合い?」

「ううん。このお兄さん方が、いいところにつれて行ってくれるんだって。」

「君を?」

「そうらしいわ」

へええ、と面白そうにしているエリク。

やる?やっちゃう?モニカはエリクを見上げながら、パチパチと目配せする。


「でもとりあえず、僕と夕食にしない?」


そう言って、エリクが座っていた私の手を取って貧民街に向かって走り出す。

狭い路地を曲がって、曲がって…


「くそっ、どこ行きやがった?」

というお兄さんたちの声を、ごみ箱の陰でくすくす笑いながら二人で聞いていた。


足音が遠ざかっていったが、念のため、しゃがみこんだままもう少しいることにした。ごみ箱の陰だけど。

「今日は何してたの?」

と、エリクが聞くので、今日はいつも子供たちのやっているワインボトルのラベル張りをやったら、意外と難しくて失敗してしまった話をして笑った。

「ラベルがぐしゃっとしてしまってね…あ、ほら…こんなふうに」

モニカはスカートのポケットに突っ込んだ失敗作をエリクにみせた。よじれて切れてしまったので、思わずポケットに突っ込んで証拠隠滅したんだった。


「へえ…もーちゃんて実は不器用なんだね?」

と、笑いながら広げて見ていたエリク君の表情が変わった気がした。


「これ…貰ってもいい?」

「いいよ。捨てるつもりだったし」


…ワインのラベルを集めている人がいると聞いたことがあるけど…エリクってそういうコレクターだったのかしら?エリクがよれよれのラベルをシャツの胸ポケットに大事そうに仕舞った。


「…今日…晩御飯でもいっしょに、って思っていたけど…帰らなくちゃ。ごめんね。送っていくよ。」

陽はずい分と陰っては来たが、まだまだ今時分の夕方は明るい。まだ4時くらいだろう。帰っても、従業員食堂にも十分に間に合うし。

「いいよ。忙しいのに、迎えに来てくれてありがとうね」


先に立ち上がったエリクが手を貸してくれたので、遠慮なくお借りして立ち上がる。春先に食堂で会ったばかりの頃は私と身長がそんなに変わらなかったのに、目線がほんの少し上に見える。男の子は大きくなるのが早いからなあ…。そんなことを思った。

二人で並んでぶらぶらと歩き出した。

斜めに差し込む夕日が、エリクの眼鏡に反射している。



***


バラックだらけの路地裏に夕日が差し込む中を、モニカと並んで歩いていた。

こちらに向かって歩いてくる二人組が逆光になって、不思議な影を落とす。


急に、ぐいっとモニカに路地に引っ張り込まれる。

「え?」

よく現状がわからないが…

「しっ、声を出さないで」

惚れた腫れたの表情じゃないモニカが、俺の首に両腕を回して…頭を抑え込まれる。


(えええええっ)


「…王子の犬が…みたいだな。チッ。面倒なことになった。潮時か?」

「まあ…風の強い夜に…酔っ払いが…」

「…そのどさくさで…教会の…」


背後に二人組の男の声を聞きながら、いろんな意味でドキドキしながら、モニカに言われるがままに黙っていた。


「おいおい。こんな小汚い路地で逢引きか?平民の考えてることは理解できないね」

「くくっ。人目を避けるには、こんないいとこないさ」


俺たちの背後を通り過ぎて行った二人組が、俺たちを見て下品な笑い声をあげる。


…逢引き…ねえ…。


「え、あ、ああ…ごめんね、エリク君。まさかこんなところで第二師団の副団長に会うとは思わなくて…」

「え?ああ…」


真っ赤な顔で、モニカが一生懸命俺に謝っている。

「あの人、私が第一師団に入ったのが気に入らないみたいで、顔を合わせる度に絡んでくるのよ。親の七光りか、って、ね」

「……」


モニカは辺境伯家の末娘だったな。

叔父貴は軍の総括副司令官だし、こいつのすぐ上の兄も、軍で一師団預けられている。あの男は子爵家の三男坊で、たたき上げだが上手いこと第二近衛師団の副団長まで上り詰めた。いつも…あいつにはいろいろな噂が飛び交っているが、核心にはたどり着けない。


…一緒にいたのはまた、宰相の秘書官だな。

あいつらは遠い姻戚関係になっているらしく、堂々と二人で飲み屋にも来る。


…しかも…なんなんだ?あの会話?


「…で…事故だけど…あの…エリク君の唇を奪ってしまった責任は取るからね!!」


え?


真っ赤な顔のまま、スカートを握りしめてモニカがそう言った。












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