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第5話 麦藁帽子。

「もーちゃん?」


と、エリクの呼ぶ方に目を向けると、先ほどから教会の前にある掲示板を眺めていたエリクが私のことを見ていた。


…エリクも飴が欲しかったのかしら?


「おねえちゃん、また来てねぇ!」

と言いながら、子供たちが教会に入っていく。作業奉仕をして、小遣いをもらえるらしい。


ぽんぽんっ、とモニカが自分が座った隣の場所を叩くと、しぶしぶエリクが腰を下ろした。

(この子…せっかく第三近衛師団に入団できたのに、北部農業開拓団に入るつもりなのかしら?いや…もともとこの貧民街の出身なのかしら?あれ?ラルフさんと同郷って聞いた気が…。)


そんなことを考えながら、隣に座ったエリクの口に、飴玉を押し込んでやる。

ブドウ味だった。なかなか美味しいでしょ?


「んぐっ…どう思う?」

口の中で飴玉を転がしながら、エリクが話しにくそうに話す。

「どう、って?この内容?結構いい条件だと思うけど…」

二人で並んで座って、とてもデカい看板を眺める。


「けど?」

「さっきの子供たちと家族は、東部から出てきていて、で、お家は皆小さな農家だったらしいのよ。こんなに立派な立て看板を立てても…字が読めないんじゃない?」


「…え?…」


(あら?意外でもないはずよネ?平民のほとんどは字が読めないわ。そう言えば…エリクは難なく読めたわけね?努力家なのね。すごいわ。)


「この看板を建てたばかりの時、教会のシスターが読んでくれたらしいけど…条件が良すぎて、大人たちは罠だと騒いだらしいわ。仕事がしたいと申し出た途端、東部に送り返されるんだろうって。…子供たちが言ってたわ。」

「……」

飴玉を口で転がしながら、エリクが何やら考えているようだ。


「どちらにしても、子供たちの生活環境としてはあんまりよくないわよね?やり手だって噂の王太子殿下の力量に、期待するしかないかな?この看板も殿下が建てたんでしょう?」

「……」

「聞いた?まだ14歳なのに、体調の悪い女王陛下に代わって政務のほとんどを担っていらっしゃるんですって」


「いや…15歳だ…。」


「ん?」


***


エリクとはお昼ご飯を割り勘で食べて…エリクはご馳走すると言い張ったけど、そんなわけにもいかないから、ちゃんと払った。きっと給金だってお家に仕送りしているに違いない。真面目そうな子だし。

私は特にお金を使う予定もないしね。


私は下町の食堂で、焼肉定食の大盛りを頼んだ。エリクの頼んだパンケーキセットを運んできた店員さんが、迷いもせずに私の前にパンケーキとミルクティーを置く。

二人で笑いながら、そっと置かれたメニューを交換した。

なかなか楽しい休日だった。


次の週も、その次の週も、休日は私は飴を買い込んであの子供たちのところにお邪魔した。「また来てね!」って言われたし。

エリクは朝練にも来ていなかった。きっと忙しいんだろう。

一人で歩いているとさすがにスリとか、怪しげな人に声を掛けられたり…下町に一人で来るたびに、3人くらい衛兵に引き渡している。


「もーちゃん、もーちゃん」と呼んでくれる子供たちとはすぐに仲良くなれた。

大人は日雇いの仕事に出かけたり、郊外に農家の手伝いに行って昼間はいないようだ。教会で小さな子供たちに持ってきた絵本を読んであげたりして過ごした。


3回目にお邪魔したときは、子供たちの小遣い稼ぎの教会の作業所にも入って手伝った。

ワインのラベル張り。

子供たちは綺麗に貼れると一枚当たり5ガルドもらえるらしい。

シスターの手伝いをして、子供たちがノリで張ったラベルが乾いたら、綺麗な布で丁寧に拭く、というのをもくもくとこなす。専用の木箱に一本ずつ入れる。

とても高価なワインらしく、シスターも子供たちも緊張してこなしていた。

私も落っことさないように、慎重に作業した。


***


「え?もーちゃん…あれからもあそこに行ってるの?一人で?」

久しぶりに従業員食堂で会ったエリクが、驚いていた。


「うん。子供たちと約束したしね。」

「……あ、あぶないでしょ?変な人とか会わなかった??」

「いたいた~。毎回3人ぐらいずつ捕まえて、衛兵に渡してるよ」

「え?……今週も行く気なの?」

「うん。暇だし」


今日のBランチは、羊肉の煮物。大盛りにしてもらって、パンも3個食べるつもりだ。エリク君は相変わらずAランチ。今日はお魚のフライだな。



今年入団の私たちは、今月いっぱいまでは研修期間としてあれこれと仕事を習い、前にエリク君が掃除してた武器庫も火薬庫も掃除した。最終配属がまだ決まらないのでどこに行っても同期のドナシアンと一緒だ。もちろん朝練も相変わらず絡んでくる。


南部のお嬢様の同期のシャンタルは、推薦と実技試験で入団した口だ。研修は一緒にやっていた。なにせ女性騎士は少ないから、いい話し相手だ。ドナシアンに絡まれないようになるべく一緒にいてもらった。


彼女は第二師団に配属されたが、騎乗隊に配属が決まったらしい。

研修期間が終わって本格的に仕事が始まると夜勤もあるから、自由な時間は無くなるらしい。

「私は可愛がってくださったおばあ様が体調が悪いから、月に一度国元に帰りたいのよねえ。だから休みをまとめて取るのに勤務を詰めてもらっているんだけど…夜勤はつらいわああ」 

シャンタルがこぼしていた。


そう聞くと…こうのんびりできるのも、今のうちだけなのかも。



「ぼ…僕も行くよ。あ、でも…日曜日…夕方なら出れるから、迎えに行くよ」

「え?忙しいんでしょ?いいよ~私も子供たちに遊んでもらっているようなもんだし。それこそエリク君も夕方一人で来たら危ないよ?」


それでも、とエリク君が言ってくれるので、前にお昼を食べた食堂で夕方落ち合うことにした。


次の日曜日、私は例によって子供たちと奉仕作業を手伝って…お昼は教会の炊き出しを頂く。さすがの私でも、お代わりはできない。水のように薄いスープと硬いパンをよく噛んで食べた。


…実は…子供たちに交じって今日はラベル張りに挑戦してみたのだが…見ていると簡単そうだったのになかなか難しかった。モニカは早々にあきらめて、瓶磨きに徹した。






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