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第38話 時間。

「いいですか?殿下。婚約者候補が並びますので、その中から一人選んで、ダンスを踊ってくださいね?それで決まりです。簡単でしょう?」


このところフワフワしているフリッツは忙しいらしく、用件だけ言って名簿を置くと、そそくさと帰っていった。どうも…もうすぐ結婚するらしい。早いな…。

お相手は…フリッツ曰く、僕の婚約者選定中に見つけた特別な女の子らしい。しかも、その場でプロポーズしたらしい。羨ましい。


僕が王太子でなんかなかったなら、どのタイミングだろうか?


瀕死のモニカを見た時?一緒に竜を見た時?路地裏で初めてキスをした時?…いや、居酒屋で、腕相撲しているモニカを見た時かもな。

…まあ、できなかったけど。


しかも、ほとんどは僕ではなくて、エリクじゃないか。


もうすぐ12月の大舞踏会だというのに、僕は誰も選べそうにない。いっそ…誰でもいいか?




エリクがモニカから今年のお誕生祝に貰ったのは、やはり力作だった。大きな竜のぬいぐるみ。その竜は、とても穏やかな顔をしていた。


「エリク君、私、国元に帰ることになってね。」

「どうしても、帰るのか?」

「うん。元々、早く帰って来て、嫁に行けと言われてたしね」


久しぶりに来た焼け跡の公園は、もうすっかりここにバラックがあったとは思えないほど綺麗に整備されていた。子供たちがボールで遊んでいる向こうを、犬の散歩の人が通る。10月。いいお天気だった。


ついさっき、二人で馬に乗ってモニカを抱きしめていたのに。

ベンチで隣に座るモニカを遠く感じる。


「僕のファーストキスの責任は取らないの?」


「…ごめんね」


自分でも嫌な言い方だと思う。ここまでモニカとはいろいろ話してもみたが…国元に帰るというモニカをどうやっても引き留めれなかった。



お茶会での護衛が最後になった。終わるとすぐに、モニカは辞表を出して、国元に帰った。




スキップするように去っていくフリッツ。

そんな難しいことじゃなかったのか?


そうか、そんな遠回しに言わないで、モニカと一緒に生きていきたいのだと…正直に、短く言えばよかったのか。もう少し待ってほしいと。


エリクの時もエリーアスの時も、モニカが好きだった。

騙すつもりなど最初からなかった。僕がエリクでいるときの朗らかなモニカの笑顔が大好きだった。

ただ…もう少し時間が欲しかった。母を王位に戻し、正常な形にしたかっただけなんだ。


もちろん、王太子の権限でモニカを縛り付けることも、婚約することも出来たんだろうけど…モニカを婚約者にするのをおばあ様が頑なに拒んだ。何度も何度も、何度も話に行ったが。…だからモニカに、好きだとも伝えていない。護衛騎士をやめないように、と言うのが精いっぱいだった。


「王位につく者に、愛などいらない」


…百年加護が続くのに、そこに愛がないのか。


…長いな。



ぬいぐるみの竜の頭を撫でながら、エリーアスは窓の外を眺める。


今にも雪に変わりそうな、冷たい雨が降っていた。




*****


フリッツは王太后陛下に最終選考に残った名簿を持って行った。

もちろん、俺と結婚が決まったレベッカは辞退になっている。


ぱらぱらと名簿をめくっていった陛下が、最後のページで手を止める。


…まあ、正直なところ…俺も命懸けだ。

この方の逆鱗に触れたら、何も残らないだろう。ごめんね、レベッカ。


そんなことが脳裏を横切る。


「…この子は?きちんと実技試験は受けたの?最後のお茶会にも出たのかしら?」

「はい。もちろんです」


陛下の執務用の机の前に立って、フリッツはしれっと平静を装う。

「…そう…じゃあ、何も問題はないわね。」

そう言って、陛下が名簿を閉じる。フリッツがほんの少しほっとしたその後、陛下がフリッツを見て微笑んだ。


「私ね…ラルフからもマテーウスからも手紙をもらったのよ。イルマにも小言を言われたわ。」


すっ、と…フリッツの背中に嫌な汗が流れる。

…まあ、俺は状況を報告しただけだ。

背筋を伸ばして、陛下を見る。


「私は…ブリア国が好きです。エリーアス殿下のことも好きです。それだけです」


俺の発言に、はははっ、と声をあげて陛下が笑った。


「さすがに古狸が選んだだけあって、子狸なのねえ。…フリッツ、これからもエリーアスを支えていってあげて頂戴。よろしく頼むわね」


「え?あ、はい。もちろんです、陛下。」


フリッツは陛下に頭を下げながら、安堵の息を吐いた。


「でも、あの子は来るかしら?」


「…来てほしいんですけどね…。」


こればっかりは…俺にはここまでしか段取りができない。










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