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第3話 エリク君。

「やあ、もーちゃん、久しぶりだね?」


お昼の込み合った食堂で声をかけてくれたのは、久しぶりに会ったエリク君。相変わらず茶色の前髪が長い。いつか切ってあげようとモニカはいつも会う度思う。彼の眼は直射日光に弱いらしく色付きの眼鏡をかけていると本人に聞いた。


Aランチのトレーを持ったエリク君とBランチ大盛りのトレーを持った私と空いている席を探す。Aランチはお魚メニュー。Bランチはガッツリ系の肉である。



2か月ほど前に、お昼の食堂で人ごみに押されて食事にありつけそうになかったエリク君に荒波に立ち向かう方法を教えたのは私だ。一目見て、あの時の茶髪の男の子だと気が付いた。並んでみると身長も私より少し大きいぐらい。


(へえ…剣は強そうだったけど、人ごみには弱いんだな)


おろおろしていたその子の手を取って、人波に切り込んで行って、忙しそうな食堂のおばちゃんに聞こえるように叫ぶ。

「おばちゃーん!Bランチねえ!大盛り!」

「え、Aランチ普通で…」

「はいよ~」


次に開いている席を狙う方法。昼休みはイモ洗いのごとく混んでいるから座るところを探すのも一苦労だ。穴場は…おえらさんのおじ様の席には誰も近づこうとしないので、意外と空いているし、意外なほど快く相席を許してくれる。


「ここいいですか?」

「なんだ、モーか?いいぞ」

うちの叔父貴だった。父のすぐ下の弟にあたる。軍の副司令官をやっている。席が空いてるはずだ…顔怖いし。


「エリク君、ここ座ろう!」

「うん。」

「え?…エリク?……お前たち知り合いか?」

叔父貴はエリク君を知っている様だった。第三近衛師団は軍属から上がってくる子も多いからなのか。エリク君はペコリと頭を下げて、ご飯を食べ始めた。意外と気にしない、大物なのかもしれない。いや…貴族社会のなんかメンドクサイものを知らないからか?


***


今日も並んで座って…至福の昼ごはんである。

残念なことに…私はご飯をたくさん食べるのだが、食べるのが人より遅い。よく噛んで食べるからだと思う。よく噛めって、母親に教わったから。

兄たちはまるで流し込むようにご飯を食べていたから、いつも後れを取った。

これでも頑張って、騎士養成学校の頃はほんの少し早くなった。


エリク君は細マッチョのくせにご飯を食べるのは早い。いつも私の食べ終わるのを待っている間、お茶とデザートを取りに行ってくれる。いいやつだ。今日は紅茶と小さな焼き菓子。


「エリク君は?今は何やってるの?」

「ああ、え、と今週は書庫の片づけ」

「フーン」


近衛騎士団には騎士養成学校上がりじゃない子がたまにいる。

各領主の推薦だったり、軍から推薦で上がってくる子もいる。推薦状を持って入団試験を受ける。

エリク君は軍上がりらしい。第3近衛師団は平民がほとんどだ。平民は近衛では苦労するものだと聞いたことはあるが、エリク君は書庫の片づけやら、武器庫の点検や…この前は火薬庫の掃除をしていると言っていた。まあ、大事な仕事には違いはないが…。


「女性騎士の人って、髪が短い人が多いけど、もーちゃんは切らないの?」

食後の紅茶を飲みながら、エリク君が聞いてきた。私は父親似の黒髪を邪魔にならないように高いところで一本に結んでいる。

「ああ…小さい頃兄上達の短い髪形に憧れて、ハサミで自分で切ったら…母親に死ぬほど叱られて…それから切っていないんだ。うちは父親より母親が怖いから。」

「うふふふふっ」

エリク君は笑った顔もかわいらしい。前髪邪魔だけど。


エリク君は朝練にもたまにしか来ない。

たまにエリーアス殿下の護衛騎士のラルフさんと来ている。聞いたら、同郷らしい。

そう言われたら、髪色も似ている。


私は念願かなって何度かエリク君と手合わせしてもらったが…この子がやっぱりすごく強い。

自分で言うのもなんだが、騎士養成学校(実技)首席卒業で、メスゴリラとまで評された私が、勝てない。(まあ、おかげで親の七光り疑惑は払拭されたが)


「…どこからでもいいよ?」

と、言葉は優しいのだが、スキがない。踏み込めない。だらりんと右手で構えた剣。筋が全然見えない。たいして力を入れていないように見えて、振りこんだ剣を払われたときに、立っているのがやっとだ。細いその体のどこにそんな力があるのだろう?と、いうか、力の問題じゃないのか?タイミング?


だから、朝練にエリク君が来ている時はいつも、手合わせをお願いするようになった。ドナシアンがまとわりついてきて邪魔だったけど。

エリク君がラルフさんと打ち合っているところも見学したが、いい勝負だった。私はひそかにエリク君を尊敬している。


…食堂では注文できないくらい弱っちかったくせにな。


「ねえ、もーちゃん、僕、今度の日曜日に下町に出かけるんだけど…一緒に行かない?」

「え?あ?いいよ」

エリク君をぼんやり眺めながらお茶を飲んでいたらいきなりそんなことを言われた。








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