第2話 朝練。
「モニカ、今度は僕とだ」
モニカに声をかけてきた同期のドナシアンが剣を構える。近衛師団の朝練だが、使っているのはもちろん模擬刀だ。2メートル近くあるかという一つ上の大男の先輩と打ち合っていたモニカは、まだ汗ひとつかいていない。
…こいつはなんだって私にこうも絡むのだろうな?
出来れば先輩方と打ち合った方が面白そうだと思っていた。ドナシアンとなんか騎士養成学校時代散々打ち合ってきたし…。モニカはそう思ったが、まあ、構える。
こいつの剣筋は綺麗だ。幼いころからきちんと”正しい”稽古をつけてもらってきた、いわゆる正統派。一つ年上。長い金髪を緩く縛って、貴公子然、とした男。実際お坊ちゃまらしい。私の様に山育ちのひたすら実践型のタイプとは相いれないものがあって、許せないのかもしれない。私に勝てないのが。
ドナシアンが振り下ろした剣をあしらって、右に流す。
いつも言うが、力が入り過ぎだ。先日の飲み屋での…私に腕相撲に負けたことを根に持っているのかもしれないな。
「力が入り過ぎだ。それから、もう少し踏み込め」
挑発したつもりではなかったが…奴の顔色が変わった。
やみくもに突っ込んでくる。学校時代、入学当時より格段に重くなった一撃。
…男の子はみんなそうだな…いずれ私は力で押し負けるようになる。
そう思いながらモニカがドナシアンを交わしながらくるりと回り込んで彼の膝の後ろにけりを入れる。
転がったドナシアンに手を貸して立たせながら…視線を感じて振り返る。
視線を感じた方角で第三師団の制服を着た男の子が打ち合いを始めていた。
モニカは…一瞬で目が離せなくなる。
「…モニカ?」
打ち合っている相手は第一師団の上官らしいが…その男の子の構えが…独特だった。だらんと下げた右手。そんなんじゃ筋が全く読めないな。そう思いながら眺めていた。基本、きちんと構えないと…振り込まれた時、そこまで持っていくまでの時間が足りなくならないか?まあ、何秒、ぐらいだが、それが命取りになる。まさか、全くの素人、ってわけではあるまい。
そう思って見ていると、自分よりだいぶ大きな男から振り下ろされた剣を難なく払っっている。見たところ意外なことにその大男の方が攻めあぐねているような…。
(…まあ、あれじゃあ私でも迷うな。)
「モニカ!」
いいところでドナシアンが私の肩を掴んで揺する。
「ん?」
視線をドナシアンから先ほどの男の子に戻した時には、勝負がついていたようだ。
膝をついた大男を起こしているところだった。
(…いいところを見逃してしまった。)
その子は対戦相手に一礼すると、茶色の肩ぐらいまでの髪を揺らして駆けて行ってしまった。今度手合わせしてみたい。
「モニカ?」
「ん?なんだ?ドナシアン、まだいたのか?」
私と同じ年ぐらいだろうか?遠目だったので詳しくはわからないが、制服からしたら第三師団の新入団員には違いない。…と、言うことは平民か?騎士学校にはいなかったから、どこかの領の私軍からの推薦か?
モニカは久しぶりにワクワクした気分で、もう一度挑んできたドナシアンを叩きのめした。




