第27話 客。
イルマさんがイザベル様に用意した客間に入る。4階の廊下の突き当りの部屋。
かなりの広さがあり、調度品も気品がある。
本当に殿下の寝室の続き部屋を使うのかと思ったが、違ったようだ。
「イザベル様のお召し物はこちらで手入れさせていただきます。お着替えは用意してございますので。では、ごゆっくりお休みください」
イルマさんにそう言われて素直に寝ようとしているイザベル様。お疲れなのかもしれない。
「さて、モニカちゃん。いい?殿下の命令だとか、親が死んだとか、幽霊が出たとか、火事になったとか…一番多いのは護衛の交代、ね?何を言われても鍵を開けたりしないでね?」
主寝室のドアを閉めて、イルマさんが私に小声で話す。
「…はい」
「鍵は予備の鍵も必ず締めてね。ドアの前には護衛騎士が立つけど、油断しないようにね?」
「はい」
「笛は持った?何かあったら、迷わず吹きなさい。」
イルマさんが出て行ってから、緊張の中モニカは一晩中起きていた。
白々と夜が明ける頃、ようやく生きた心地がした。
イルマさんがやって来て、手際よくイザベル様のお着替えをさせる。こちらで用意したドレスのようだ。
3階にある殿下の執務室にお着替えの済んだイザベル様をつれて行ってから、モニカは自分の入浴と着替えの時間を貰う。
モニカが着替えて戻ると、いつものメンバーが殿下の執務室に集まっていた。
イルマさんを手伝って、お茶を出す。
「イザベル王女に国元から付いてきた側近たちを信用していいのかどうか分からない。」
迎賓館に戻るというイザベル様に、殿下が反対した。
「まあ、殿下と一晩、甘い夜を過ごしたってことで…迎賓館に帰るわ。長くなると、側近たちが騒ぎ出して厄介だし。この噂で少なくとも半年は殺されないでしょ?」
「いや、しかし…」
「いろいろ言ったけど、私のことは気にしないで。ただ…国民を戦争に巻き込むことは避けてほしいの。それだけ言いに来たのよ。一方的なお願いでごめんなさいね。」
「……」
割と…すっきりした顔でイザベル様が明るく告げる。
話に信ぴょう性を持たせるために、モニカが王女の護衛として付き従った。モニカの緑色のリボンは、王太子であるエリーアスの親衛隊である証だ。
そうたいした距離でもないが、馬車が用意された。
迎賓館に着くと、迎賓館付きの近衛騎士が出迎えた。久しぶりに見るドナシアンもいる。
モニカは王女の手を取って、そのまま王女のために用意された部屋に入る。
「もう、エリーアスが私を離してくれなくって…」
と、ソファーに座った王女が、かいがいしく世話をする自分の侍女にのろけている。
モニカは部屋の隅に立っていたが…王女の側近たちの視線が痛い。ちらちらと、覗き見るような…。まあ、半信半疑なのかもしれないが、王城で起こったことは何一つ漏れていないはずだ。本来なら、慶事、だ。もっと喜ぼうよ?とも思ったが…その瞳は冷ややかだ。
***
ドナシアンは今日も朝練に出ていた。
モニカの姿は最近は見ていない。同僚相手に稽古をしていると、見知った女に声を掛けられた。
「あら、ドナシアン?今はフルールのお客様が来ていて忙しいんじゃないの?」
「…ああ」
シャンタルは毎度のことだが、男性騎士に囲まれていたが、僕を見つけて声をかけてきた。ドナシアンは汗を手の甲で拭う。
「昨晩は、フルール国の王女殿下は王城にご宿泊された」
「へえええ。私、港までイリア国の要人を迎えに行ってて知らなかったわ。ついに?」
「…ついに?」
「あら、やだ。あの王女殿下がエリーアス殿下にご執心って、有名じゃないの?知らなかったの?うふふっ」
「……」
「私がいない間に、そんな面白いことがあったんだぁ。へえええ。」
くすくすと笑いながら、取り巻きに囲まれてシャンタルが帰っていく。
(まるで騎士に守られたお姫様みたいなやつだな)
去っていくシャンタルを見送って、模擬刀を握りなおしたドナシアンは稽古を続けた。
自慢じゃないが、ほぼ毎日稽古はしている。
春よりも筋肉も付いた。動きも良くなったと先輩に褒められた。
今なら、モニカに勝てるかもしれない。あの、エリクというやつにも。
今度こそ勝って…。
パーン、と打ち合っていた同僚の剣を弾き飛ばす。相手の首筋に剣を突き立てる。
「おいおい、ドナシアン。顔が怖いよ?」
倒れこんだ同僚が、苦笑いをしていた。




