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第21話 ワイン。(と、すこしおまけ。)

「お前は時々、思い切ったことを言うな?」


イルマの代わりに俺にお茶を出してくれていたモニカに、エリーアスが言った。

「え?いえ…思ったことを言って見ろ、と言ってくださったので」


おばあ様が短い避暑から戻られると同時に、フリッツとアベルはマテーウス卿の養子になった。叙任と同時に領地が与えられたマテーウス卿は東部に向かった。貴族院からの反対は出なかった。


引継ぎで引っ張って行かれたフリッツの代わりに、ラルフが帰って来るまで、おばあ様から母上の秘書官を貸していただいている。護衛はラルフの部下のカミルが控えている。それと、モニカ。


もう秋になったが、フルール国との国境はまだ閉ざしている。

道路が土砂崩れになって、と、通行止めの理由をフルールに伝えてある。ワインを輸出したいフルールがごねているようだ。

あとは、マテーウス卿が上手くやるだろう。



北部の開拓団は、大量の土砂の石や木の根を何とかどかすところまでは進んだらしい。土砂の量が多すぎて、村民の救助に行っていた軍もあきらめたような場所。慰霊のためにほんとうに小さい教会が建てられて、貧民街にいたシスターがそこを守っている。

「傾斜、か…」

北部からの報告書を読んでいたエリーアスがつぶやく。どうも、小麦畑にするには傾斜がきつすぎるらしい。


「傾斜なあ…。葡萄でも作るか?」


「あら。いいですね?フルールから大量にワインを買わずに済みますものね?」

夕方になって風が涼しくなってきたから、窓を閉めていたモニカが、カーテンを閉めながら同意してくれた。


「苗木は…どうする?」

「イリアに頼めばいいんじゃないでしょうか?」


…なるほど。その手があったか。おばあ様に頼んで、イリアと交渉してもらおう。ついでに、イリアワインも多めに輸入するようにしようか…。


「ブリアの王都の人たちは、フルールワインがお好きなようですが、イリアワインもあっさりしていて美味しいですよ?」


…こいつの自領はイリアとの国境沿いだものな。


「そうか。なあ、モニカ、落ち着いたらイリアワインでも飲むか?」

「…殿下と、ですか?…いいですよ。」


心底嫌そうな顔で、モニカが振り返った。



*****


10月になるころ、ラルフがようやく帰ってきた。

しばらく休暇を取らせて、今は東部地区の報告書を書かせている。


ラルフの見慣れた茶色の髪も随分伸びた気がする。


「問題はですね…護送車に乗せた領主たちのうめき声を聞いてしまった領民たちが怖がって、あの湖周辺に住み着きたがらないんです。村二つ分もの民も土地を離れていますしね。耕地が荒れてしまうので…どうにかしたいんですがね」

「ああ。なるほどな」


その前には変死体が流れ着いているし、荒れ果てた廃村はあるし…いまだに兵士がうろうろしているとなったら…な。気味悪がって住まないか。


「なあ?モニカ。どうしたらいいと思う?」

マテーウス卿の真似をしたわけじゃないが、エリーアスが黙々と仕事をしているモニカに聞く。


「え?」


ラルフの書類を手伝っていたモニカが、僕の質問に迷惑そうな顔をする。なぜ?マテーウス卿が聞くと、すんなり答える癖に。


「ああ。僕からも頼むよ。何かいい手はないかな、もーちゃん?」

ラルフがそう言うと、モニカが手を止めて、うーんと考え始めた。


「では…今すぐ殿下がご自分で使えるお小遣いは、どのくらいありますか?」

「え?ああ…このくらい?」

指を一本立ててみせる。

「100万ガルドですか…」


いや…桁が違うぞ?


「ラルフさん。スヴェン湖で竜を生け捕りにした人に、王子が100万ガルドの懸賞金を出すと宣伝したらどうでしょう?」

「生け捕り?」

「そうです。神聖な竜なので、傷をつけないこと。鱗を取れたら10万ガルド。どうでしょう?住み着く人には廃屋と農地をプレゼント。森の木は伐り放題。あたりですかね?」

驚いた顔をしていたラルフが、悪乗りして来た。


「ふーん。じゃあついでに、竜の毒花を見つけたら1万ガルド。かな?」

「いいですね?湖の奥の村は、竜の祟りで焼き尽くされてしまったというお話付きで」

「そっか。冒険者とかが来るかな?」

「国中から来ますね!家族ぐるみ移住歓迎にしましょう。」

「そう言えばさ、役人どもが近隣の住民を脅すために、ドラゴンの頭の切り抜きを舟に括りつけてたなあ。もういっそ…怖いもの見たさの観光でもいいか?」

「いいですね。ラルフさん!」


…僕もその会話に入れてほしい。




*****

*****


これは後日談だが。


ノリノリでモニカの提案を受け入れたマテーウス卿が大々的に宣伝をした結果、国の内外から懸賞金欲しさに人がスヴェン湖に集まった。興味本位の人はそれより多かっただろう。

100万ガルドでワインを一本買うやつもいたが、庶民の100万ガルドはかなりの大金だ。それこそ、夢を見るほどの。


今では、大きなハリボテの竜の頭を付けた遊覧船がスヴェン湖をめぐり、湖畔にはホテルも建てられた。


スッシーとニックネームをつけてもらった幻の竜。


お土産物屋では、スッシークッキーだの、スッシー饅頭だのが売られ、地元民が作ったスッシーキーホルダーやぬいぐるみもとてもよく売れているらしい。


観光の人も多いし、魚釣りの人もたくさん来るようになった。釣った魚は、近くのレストランがから揚げにしてくれる。


今でもまだ竜の生け捕りの夢をあきらめていない人も多く、スッシー資料館や美術館も出来た。想像で描いたんだろう、湖面を泳ぐ竜や、いかにもドラゴンというのが森を歩き回っている絵。かつての冒険者が、館内を案内してくれる。



あの朝、僕とモニカが見た竜を、次に誰かが見るのはまだまだ先のようだ。


あと…90年後ぐらい?


ちなみにあれから10年たったが、マテーウス卿はまだ元気だ。










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