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第20話 アイロン。

「あんた、まだドナシアンに絡まれてんのね?」


次の日、モニカが私の寮の部屋にいつかのワンピースを返しに来た。シャンタルは部屋に一つしかない椅子をモニカに勧めると自分はベッドに胡坐をかいて座った。

「まあ…好きな子をいじめたくなる、子供みたいなもんね。あんたも、適当にあしらっておけばいいのに」

「…はあ?」

「あらまあ。自覚なしか。ドナシアンって、あんたのことが好きすぎよね?」

「いや…嫌っているの間違いだろう」

眉間に深いしわを寄せながら、本当に嫌そうな顔でモニカが答える。


モニカが右手首をさすっている。…二人とも、お子様かよ?そうは思ったが、あまりにもモニカが嫌そうなので話題を変える。


「ワンピース、モニカにあげても良かったのに。似合ってたし。」

そう言うと、モニカが、これを着て出かけたときドナシアンとあった事件を教えてくれた。シャンタルは口には出さなかったが、激しく同情した。

(ドナシアン…どんだけ不器用なのよ?投げ飛ばされてどうする?)


「まあ。いいか…で、どうなの?王太子付きの勤務は?」

「いや。あんまり話せることはないかな」


まあ、そうでしょうね。


この子がまだ信用されていないのか、理由はわからないが…この子に人が付けられている。護衛の護衛、ってことはないだろうから、なにか…あるのかな?昨日食堂でも、私が声を掛けなければ、その人が2人の間に割って入っていただろう。さすがに今日、女子寮には入り込んではいないようだが。


そんなことを考えながら、シャンタルが探りを入れる。


「で?王太子殿下って、やっぱり噂通りに天使みたいにはかなげなの?体弱いって本当?綿菓子みたいな銀髪なの?」

「え?ああ、お綺麗な人だよ。」

「いやーん。私も王太子付きが良かったな!それでもって、恋に落ちたりして!」

「…いや、そんな小説みたいにはいかないでしょ?」

「あたし、何ならあのラルフ様でもいいなあ。モニカはどう?ラルフ様も強いよ?」

「あはははっ、シャンタルったら」


そう言って、モニカがやっと笑った。


昨日、モニカにアイロンを貸してほしいと頼まれていたので、熾火をもらって用意しておいた。私が貸してあったワンピースにアイロンがけしようとしたので、それは遠慮しておいた。普段着のようなものだし。


モニカが当て布をして、ハンカチに丁寧にアイロンをかけるのを眺める。


「そういうシャンタルは?おばあ様のお見舞いは良いの?帰るのに、休みはまとめてとってたんでしょ?」

「ああ…先月亡くなってね。と、いってもほら私は養女だから、生家のおばあ様…ってことにしてたけど実はばあやね。大事にしてもらっていたから」

「まあ…そうだったの」

「生家でも、親にはたいして大事にされて無かったから。あははっ。養女に入った先でも、近衛になったら王族とでも縁ができるとか?夢みたいなこと考えてるのよ?そうじゃなくてもいい相手を探して来いって感じ?」


「あ…ごめんね…。ばあやさん、残念だったわね」


申し訳なさそうな顔をして、モニカがアイロンを台に戻す。


この子は…辺境伯家のお嬢さんて言うからどんなものかと思っていたけど、剣の腕はあるけど、素直過ぎるわねぇ…やっていけるのかしら?


モニカが丁寧にハンカチを畳むのを胡坐をかいた膝の上に頬杖をついて眺める。


「そのハンカチって、あんたの彼氏のやつ?…エリク、だったわよね?第3師団の?」

「彼氏じゃないけど…そうよ」


ふーん。



*****


「ねえねえ、モニカちゃんはどう思う?」


久しぶりに殿下の執務室に立つ少女にマテーウスは次の東部卿にアシルはどうかと聞いてみた。実力もあるし、ましてやこの子の叔父貴である。乗って来るだろうなあ、と思っていたが…。


「確かに武人の方が治めるにはいい場所ではございますが…叔父貴では無理だと思います。オイリー家の力が強くなりすぎて、バランスが取れません。ましてや、爵位を持たなかった者がいきなり…褒賞としてでも侯爵家は大きすぎます。他の家門の顰蹙を買いそうですよね?」

「うむ。そうかあ。いい考えかと思ったんだけどなあ」


この子は身びいき、ってことをしないのか?

マテーウスは髭を撫でる。


「じゃあ、例えば?君ならだれを推す?」

「そうですね…」


この子の次の発言を待って、皆静かになる。


しばらく考えて…ニッコリ笑ったモニカは、

「そうですね。宮廷伯爵家のマテーウス宰相殿なら、適任かと」


そう答えた。真顔で聞いていたフリッツが、飲みかけた紅茶を吹いている。

黙って聞いていた殿下のうつむいた肩が揺れている。


(…こりゃあ一本取られたわ。)


マテーウスもつられて笑いだす。


「あっはっは!そうかあ。私かあ」


実際、どこかの領主を動かすにしても、領主や嫡男が今回の”幸せワイン”の中毒者もいる。今、廃嫡したり、新しい領主を立てたりしているところがあるこのブリア国内は、正常な状態とは程遠い。早めに規制して、被害者が思ったより少なかったからいいようなものの。


マテーウスは、ダラダラとこぼしてしまった紅茶を拭いているフリッツを振り返って、見る。


「フリッツ、お前さん、私の養子になれ。宮中伯家をやろう。それから、アベルも養子に取る。アベルを連れて私が東部に行こう。いいですな?殿下?」

「マテーウス卿…」

「まあ私もあと10年ぐらいは生きてるでしょう。その間に、アベルを一人前に育てますよ。」


「……おばあ様は?賛成なさるかな?」


殿下が頬杖をついて私を見る。


「あまり、選択肢も、時間もないんですよ。急いで体制を整えなければなりませんしなあ。」


フリッツが、目を真ん丸にして私を見ている。

どちらにしろ、結婚しなかった私は、フリッツを養子に取るつもりだった。こいつは…気が付いていなかったのか?


「まあ、マテーウス卿。急に息子が二人も出来て、ようございましたね?」

お茶を入れ直していたイルマが、にっこりと笑った。




















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