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第19話 夏の名残。

モニカは王都に帰ってから、フリッツさんに追加で3日間の休みをもらった。


「もーちゃん、旅行先で結局仕事しちゃったんでしょ?」

そう言って。東部で起こったこともかいつまんで説明してもらった。

「秘密だよ?」

そう言って唇に人差し指を立ててフリッツさんが笑うが、危なすぎる話なので誰にも言えそうにない。東部に置いてきたラルフさんの代わりに、カミルさんというラルフさんの部下が殿下の護衛に入っている。


特にこれと言って用事もないし、エリクは東部の後片付けに駆り出されるような話だった。

自領に帰る気はない。父に、帰って来て早く嫁に行けと言われるから。まあ、3日で行って帰ってこれる距離でもないし。



モニカの休み1日目。


「さて。」


モニカはいつもと同じような格好で、布に巻いた槍を二本持って、下町の鍛冶屋に研ぎに出しに出かけた。東部は湖があるせいか涼しかったが、王都の夏はやはり暑い。

学生時代に辺境伯領から出てきて初めての夏は、このまま溶けてしまうんじゃないかと思うくらいに感じた。

「慣れないなあ…」

麦藁帽子をかぶって、歩き出す。自分の影が随分と濃い。


エリクと待ち合わせした公園の脇を過ぎる。木立の作る日陰にあるベンチを眺める。


鍛冶屋のオヤジに、

「嬢ちゃん…何を狩ってきたんだい?」

と聞かれたので、悪いドラゴンをやっつけてきたのよ?と言うと、大笑いされた。


いつも飴を買っていた駄菓子屋の前を通って、貧民街のあったあたりに足を向ける。


子供たちが駆け寄ってきた路地。

バラックも、シスターのいた小さな教会も…何にも残っていなかった。黒焦げになった地面が、ここで火事があったことを証明するぐらいだ。見晴らしがよくなったので、離宮の高い塀が見える。


迷子になるほど入り組んだ路地。エリクと走った。

くっつき合って建てられたバラック小屋。ごみ箱の後ろに隠れたな。


もっと広かった気がしたが、整地されたそこは、思ったより狭い気がした。


誰も歩いていない。暑いし。

何も遮るもののないその空間をモニカはぶらぶら歩いた。


ついこの間のことなのに、随分と昔の出来事にも思える。


教会の建っていたあたりまで歩いて、麦わら帽子のつば越しに空を仰いでみる。


雲一つない夏空が広がっている。


***


エリーアスは上がってきた報告書に目を通して、ため息をつく。


華国から来た技師でさえ、東部卿に頼まれて来た、と証言して、フルール国との関係を証明できなかった。


東部卿とその嫡男は、もう廃人寸前だ。何の証言も取れそうにない。

東部で芥子畑を管理していた役人連中も、当然のように東部卿の命令だったと口をそろえる。

逃げた愛妾は捕まっていない。


「まあ、とにかく早めに東部の領主を決めてしまわないとな。フルールに付け込まれたりしたら面倒だからなあ」


うちわであおぎながら、のんびりとマテーウス卿が言うことも、もっともだとはわかっている。

「そのまま、ラルフを領主に据えたらどう?あの子なら、難なくこなすだろう?」

それもそうだが…今一つ…。


「そうね。難なくこなすと思うわ。でもね、そうすることによって、余計フルールに狙われるかもよ?あの子は…」

おばあ様がそこまで言って、言い淀む。


「僕ならアシルさんを推しますね。かの地は、武人の方が治めやすいでしょうから。ただ、その場合、辺境伯家の力が強くなりすぎますけど。あと、軍の指揮官の後釜が必要になりますね。」

イルマが運んできた冷たいお茶を手伝って配っていたフリッツが自分の発言に考え込む。

「フリッツでは役に立たないだろうしなあ」

と、マテーウス卿がフリッツをからかって笑う。


「こんな時、モニカちゃんならどうするかなあ」

またモニカのびっくり発言を期待しているのか、マテーウス卿が風の入る窓の外を眺める。つられて目をやったエリーアス。


窓の外には、雲一つない夏空が広がっている。



***


モニカの休み2日目。


部屋を掃除して、洗濯して…シャンタンに借りたままになっていたワンピースも、エリク君に返し忘れたハンカチも洗い直した。お天気がいいので、すぐ乾きそうだ。


昼に従業員用の食堂で一人でご飯を食べていると、声を掛けられた。

「モニカ?」

トレーを持ったドナシアンが、さっさと向かい側の席に座る。

「……」

モニカはため息を咀嚼していた肉と一緒に飲み込む。


「お前、王太子付きになったんだって?」

「…ええ。」

「ふーん。まあ、お前は優秀だからな。」

「……」

…どう答えていいかわからずに黙り込む。軽い、嫌味なのかもしれない。


「俺は迎賓館付きになった。」

…まあ、何事にもそつのないドナシアン向きかもな。語学も堪能だったし。

侯爵家の子息としての教養もあるだろうし。…そんなことを思ったが、言葉にはしなかった。

沈黙の中、もくもくとご飯を食べる。


「モニカ…お前、まさかあの平民の男と、付き合っているのか?」

「……」

「俺、調べたけど、剣術は達者だがな、あいつは軍上がりの平民だぞ?お前、わかって付き合ってるのか?騙されてんじゃないのか?」

「……」


(きっとこいつの言っているあの男、は、エリク君のことだろうな…そう思ったが、それについてドナシアンと語りたいとも思わない。しかも…調べた?暇なのか?家に頼んでちょちょっと調べてもらったのか?どちらにしても、なんでそんなことを?私をわざわざバカにするためかな?)


返事をしないで黙り込んでいたら、どんっと後ろからしがみ付かれた。

「モニカ~久しぶり!」

私の真横の席に座ったのは、シャンタル。


「ああ、シャンタル、あなたに返す物があって…」

「うん。あたし、これから勤務だから、明日ならいいよ?非番だし」

「じゃあ、寮にお邪魔してもいい?」

「うん。あたしが行ってもいいけど…あんた部屋住みになったから外部の人間は入れないか。あら、ドナシアンもこれから勤務?」

「…ああ」

ドナシアンに初めて気が付いた、というようにシャンタルが彼に声をかける。

「迎賓館付きも大変そうよね。でもあんたに向いてそう。今度は国外のご令嬢にもドナシアンのファンが増えちゃうんじゃない?」

そう言ってシャンタルが、緩くカールのかかった短い金髪を揺らして、からからと笑った。


















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