第12話 就職説明会。
ラルフさんに言われて、寮を引き上げて荷物を持ってくる。大した荷物はない。
今度は部屋住みになるようだ。何もかも急展開だ。
案内された部屋は、今までいた部屋に比べると格段に広い。家具もある。
「え?もーちゃん、ドレスとかは?衣装箪笥に入れていいんだよ?」
部屋を見に来てくれたラルフさんが、私の荷物の少なさに驚いている。
「ええ…まあ…」
とうやむやな返事をしておく。もとより、そんなものはない。
さっさと普段着に着替えて、使用人用の通路から外に出る。
まだ昼前だが…なんだか今日は一日、長くなりそうだ。
いつもエリクと待ち合わせしていた公園に行くと、やはり普段着を着たエリクが待っていた。
「急にラルフさんに呼ばれてね」
歩きながら、エリクが話す。
「今日の夕方、貧民街のみんなに就職説明会があるんだって?」
「そうなの。急だけど…皆来てくれるかしら?」
「そりゃあ、離宮に呼ばれて、食事つきならみんな来るだろう?」
(…あら?ラルフさんはずい分細かく説明したのね?)
急に立ち止まったエリクが、私の右手を見ている。
「あ、ああ。やっぱり少し跡が残っちゃって。痛みはないわ。後でハンカチ返すね?」
そう言ったが…エリクの眉間にしわが寄っているのがわかる。
まくっていたシャツの袖口を下ろして、大丈夫よ?と声をかける。
いつもの駄菓子屋に寄って、今日は焼き菓子を買う。
貧民街に入ると、もーちゃんだあ!という声がして、子供たちがわらわらと集まってきた。みんなと話しながら、教会に着く。
「さて!今日はみんなに大事な話があるのよ?」
なに?なに?と子供たちが興味津々だ。
「今日のお菓子は、焼き菓子よ!」
きゃっきゃ言いながら、みんなでお菓子を頬張る。
「それにね、今日の晩御飯はね?みんなにこれ以上美味しいものを王子様のおばあ様がご馳走してくれるんですって!みんなのお母さんもお父さんもおばあちゃんもお爺ちゃんもよ?」
「えーお城に行けるの?」
「王子様のおばあ様のお城ね?でも広くてきれいよ?」
「知ってる~見たことある!高い塀があるんだよね?」
***
子供たちをモニカに任せて、シスターと話しに行く。
モニカが焼き菓子を持たせてくれた。お昼の支度をしていたシスターは甘いものに目がないらしく、喜んでくれた。
「今晩、離宮を解放して、この地区のみんなに就職説明会をするらしいんですよ?」
と、お茶を飲みながらシスターと話す。預かってきた、と、王城からの書簡を渡した。
「まあ、あの看板の?」
「そうなんです。皆さん、東部に送り返されるんじゃないかと心配してますよね?そんなことはないと、王太后陛下自ら説明されたいと言うことらしいんですよ?」
「まあ。王太后陛下自ら!!」
「軍の就職説明会もありますのでね。皆さんに来ていただきたいと、離宮で夕食を振る舞って下さるらしい。」
「まあ!じゃあ、私たち、離宮に入れるんですか?」
年配のシスターが乙女の様に頬を染める。
「ええ…中庭になるとは思いますが。」
「まあまあ。こんな機会は生きているうちにもう無いでしょうからね!」
「…シスターから、住民の皆さんに説明していただけますか?お年寄りも漏れなく来てほしいと。」
「任せて下さい。必ず一人残さずお伺いしますわ!」
***
その夕方から、ぞろぞろと人々が離宮の庭に集まった。
子供も、大人も、お年寄りも。シスターがバラックを一軒一軒回って、出かけるのを渋っている人を引っ張り出してくれたらしい。
「離宮に行ったり、王太后陛下を見れるなんて、もう一生無いわよ!!」
と、言って。
モニカが子供たちに宣伝したのも良かった。子供に手を引かれるように、親もお年寄りたちも来た。
軍がテントを張って、ものすごく大きな鍋で炊き出し訓練さながらにご馳走を作って待っていた。希望者には離宮の従業員用の大浴場を解放していて、皆久々に湯も浴びた。
驚いたことに…おばあ様が城下の古着屋を買い占めて、着替えも靴も用意してあった。皆、好きな服を選んで着替えている。脱いだ服は…残念だが焚き付けぐらいにしかならなそうだが、不満の声は上がらなかった。
頃合いを見計らって、おばあ様が2階のバルコニーに立った。
良く通る声で、2年半前に北部で起きた大地震による山岳崩壊で山麓の村が3つも押しつぶされてしまったことの説明があった。
「この国を助けると思って、北部開拓団に入っていただけないか」
と頭を下げると、歓声が上がった。
次に、軍を代表してアシルが立って、今回の様に軍の調理をする係や、若者なら兵士にもなれると勧誘していた。
北部に行くことを決めた人たちが、名簿に書き込まれていく。
明朝には軍用の大きな荷馬車が出る手配になっている。
軍の受付にもちらほらと、入団希望者が訪れている。
子供たちはお腹いっぱいご飯を食べた後、お菓子を振る舞われている。
盛り上がっていた頃…外が明るくなった。
「火事だ!!」
一度ついた火は、風にあおられて、ほぼほぼモニカが予想した通りに燃え広がった。
ざわざわと集まった人たちの間に動揺が走る。
控えていた軍の一師団が消火に走っていく。
騎乗隊が駆けつけて、離宮の門が閉ざされて…
物凄くいいタイミングで、通用門から第二師団の副師団長が酔っ払いを一人引きずって入って来て、叫ぶ。
「この男が酔って火をつけたようです!!」
さすがだ。今日は離宮におばあ様が来ていることを知って、真っ先に離宮に放火犯を連れてくるなんて…ほんと、さすがとしか言いようがないな。自己アピールがこんな時もできるなんてな。…エリーアスは心底感心した。
「みなさん。優秀な騎士が放火犯を捕まえてくれました!皆さんが災害に会わなかったことを神と王太后陛下に感謝いたしましょう!」
ナイスだ!シスター!
僕はモニカと大きな鍋からお玉でスープを掬いながら…心の中で親指を立てた。




