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第11話 朝ごはん。

イルマさんが運び込んでくれた朝ご飯を頂く。

他の侍女やメイドは部屋に入れていないようだ。なにもかもイルマさんが手際よくやっている。


王太子殿下のエリーアス様は病弱で、お部屋からほとんど出てこない、と聞いている。女王陛下の体調が芳しくなく、王配陛下と塔に閉じこもられてしまって以来、対外的なことは王太后陛下が勤めていらっしゃる。


にこにこしながらラルフさんとイルマさんが私が朝ご飯を食べるのを見ている。

緊張してそれどころじゃない、と思ったりしたが…朝ごはんが目の前に運び込まれるとお腹が鳴った。恥ずかしいが、黙々と食べる。しかも美味しい。


「殿下もねえ…これぐらい食べてくれると、食べさせがいもあるんですけどね…」

「これからは食べるんじゃないですか?もーちゃんを見ていると。美味しそうに食べますからね、お腹がすきますよね?」


お向かいの席に並んで座った二人に、なんだか…実況されているようで恥ずかしい。


「所作もお綺麗ね…十分ですわ」

「でしょう?この子の母親はレオノル侯爵家の御令嬢でしたからね。」

「あらまあ。じゃあ、この子、アダンのとこの子?うふふっ、何の心配もありませんわね?」


(なにが?でしょうか?)


ラルフさんとイルマさんが私が朝ご飯を食べるのを見ながら…ぼそぼそと話している。


「あーおはよう。客って、誰?」

奥の部屋のドアが開いて、フリフリのブラウスを着た短い銀髪の男の子が、伸びをしながら入ってきた。

「イルマ。僕にもお茶。濃い目にしてね」

はいはい、とイルマさんが立ち上がって控室に向かう。


私は口の中の物をごっくんっ、と飲み込んで…慌てて席を立ち、右手を胸に当てて、騎士の礼をする。もちろん頭は下げる。


「え?…客って…この子?」


「殿下も朝ご飯を食べてしまってください。あと…10分で会議が始まりますよ?」

「さっき終わったばかりじゃないか。せめてあと30分。」


心底眠そうな声で、殿下がささやかな反抗をしているようだが、ラルフさんには聞こえなかったようだ。


「殿下。改めて紹介いたします。第一近衛師団所属のモニカ・オレリーです。今日付けで王太子付き騎士にしておきました」

「殿下。はじめてお目にかかります。モニカ・オレリーと申します」


モニカがゆっくりと頭を起こすと…驚くような、戸惑うようなお顔の殿下が見えた。エメラルドの瞳、と称されている綺麗な緑色の瞳が、本当に美しく光を宿している。


「え?…ああ。よろしく頼む。で、朝っぱらからなんだ?」


***


間もなく集められた昨日と同じ面子。と、モニカ。


「エリクに報告を受けていた。怪しい二人組のなぞなぞが解けたなら聞こうかな?」


ラルフにそう言われて、こくんと頷いたモニカがみんなの前で臆することなく、「風の強い日に、酔っ払いが」何を仕掛けるのかの説明を始めた。


「火付け、だと思います。この今の季節の変わり目の時期、1週間ぐらい南風が強くなりますよね?」


会議用の黒板に、貧民街と道路、教会の場所を書き込む。そこに、方位。


「南に当たるのはこの地区あたりです。ここに火を放たれたら、バラックだらけの貧民街は、あっという間に燃えると思います。避難経路は…本来はここに大きな道があるはずなんですが、家が建てられていて通れません。」


モニカが、チョークで道路にバッテンを書く。


「ちょうど真ん中あたりに教会があります。教会の裏からの道は、ぎりぎり荷馬車が通れるぐらいの幅があります。火の勢いが強い場合、避難するなら、この方向になります。北側には公園もありますから。幸いなことに、貧民街は周りの民家からは離れていますから、類焼は免れるかと。」


矢印を書き込む。


「ただ、ここの皆さんの中には、子供も多く、お年寄りもいます。火が起こってから避難していては間に合いそうにありません。夜が狙われるでしょうから、眠っている人も多いでしょうし…。」


「そうね。あの貧民街をいっそ軍で囲んじゃったらどうかしら?」

とモニカの説明を受けて、おばあ様が言う。


「内部に内通者がいたら?軍まで危険にさらすことになりませんか?」

と、軍のアシルが困った顔で反論する。


確かに…火なんか…普通にバラックの家から出るかもしれない。外から火をつけられることばかり警戒するのも危険だ。


「それで?嬢ちゃんはどうしたらいいと思う?言ってごらん?」

マテーウス卿が孫に話しかけるように、モニカに話しかける。モニカはほんの少し考えて…話し出す。


「そうですね…教会でワインのラベル張りの仕事を王城からもらっていると聞きました」

「……」

「……」


「王太后陛下から、炊き出しの援助を頂いているのもみなさんご存じでした。出来れば…離宮でお仕事説明会を開いていただいて、みなさんを夕食に招待する、というのはいかがでしょう?」


「ふふふっ。面白い子だの。それで?」


「東部では農家をやっていた方がほとんどだと聞いています。東部に帰りたくないというのが村を離れた理由の様です。送り返すわけじゃないという説明をきちんとして、北部の開拓団に勧誘します。合わせて、軍のお仕事紹介もやって…。たまたま、軍がそのために離宮に来ていた、というのはどうでしょうか?」


「なるほど。たまたまね。」

面白そうに髭をさすりながらマテーウス卿が笑う。


「たまたまみんな就職説明会に来ていて、たまたま軍もそこに来ていて、そして…たまたまその夜火事が起こる。うむ。いいんじゃないだろうか?」

マテーウス卿の発言に、フリッツが口をはさむ。


「卿。でも、あいつらの予定している日にちは特定できませんよ?どうするんですか?毎晩、宴会をするわけにはいきませんでしょう?」

「おや。フリッツ。お前はまだまだだのう。火なんか<たまたま>その日に起きるんじゃ。奴らはお宝を取りに火の海に入っていくだろうよ?ぐふふっ」

「……」


このじいさんは…怖い。笑うマテーウス卿にエリーアスは顔を引きつらせる。


「じゃあ、そうと決まれば早い方がいいわね。今晩実行するわ。根回しは、モニカがやって頂戴。一人残さずよ?離宮の庭を解放したら軍用のテントで200人ぐらいは収容できそうね。」


…おばあ様も…十分に怖いデスネ。


「ああ、モニカのお友達のエリクって子も呼んどきなさい」


しれっとおばあ様がそう言って、僕にウィンクした。












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