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第10話 風の強い日に。

モニカは今朝も寮の自分の部屋の窓を開けた。ベッドと小さなテーブルとイス、洋服掛けぐらいしかないこじんまりした部屋だが、中々気に入っている。


今日もいいお天気のようだ。

季節が変わるのだろう。随分と南風が吹いている。


昨日、ドナシアンに握りこまれて付いた青あざは、握りこまれた指の形になって少し気味が悪い。


朝練に出るのに、躊躇したことなど一度もなかったが、ドナシアンにまた絡まれるのかと思うとメンドクサイ。あいつは、学生時代から私のことを嫌っていた。だったら近づかなければいいのに。


(…でも、エリク君が朝練に来るかもな。)


シャンタルに借りたワンピースと、エリクが貸してくれたハンカチは昨日のうちに洗って干して置いた。後でシャンタルにアイロンを借りに行こう。そんなことを考えながら着替えていた。


風が強いのでカーテンが舞っている。慌てて窓を閉めようとして…3階にある部屋の窓から、街道を歩いていた男が、咥えタバコをポイっと捨てるのが見えた。


…危ないな…こんな風の強い日に…。


「あっ!」


モニカは短く叫ぶと、上着を持って駆け出した。



***


朝練の会場で、エリク君を探すが、今日は来ていないようだ。ラルフさんも来ていない。

「モニカ!」

と、声をかけてきたのは…ドナシアン。また絡まれている暇はない。踵を返す。


第三師団の詰め所に向かって走っていると、すぐ上の兄に会った。

「なんだ?モー。こんなところで。何か用か?」

「エリク君を探してるんだ。兄上、急いでいるんだ」

「エリク?」

「第3師団に…ああ、ラルフさんでもいい」

「ラルフならいつも通り王太子殿下の執務室だろう?」


モニカは走った。走りながら上着を着た。上着についている第一師団のバッジで、たいがいのところは通ることができる。が…当たり前のことだが、王太子殿下の執務室に続く廊下で、警備兵に止められた。


「ごめん。急いでいるんだ!ラルフさんを呼んでくれないか?彼の友人のアベルの妹だと言ってくれ!」


怪訝な顔をされる。二人掛かりで留められて、もう一人が、執務室に伝えに行ってくれるようだ。


廊下の奥から、ラルフさんがのんびりとこちらに向かってくるのが見える。

「ラルフさん!エリクは今日はどこにいますか?」

「え?」

抑え込んでいる警備兵越しに身を乗り出して叫ぶ。


「急いで伝えなければいけないことがあって!」


「あら。もーちゃん?なに?あいつは捕まりにくいから、僕から伝えておくけど?」

「じゃあ!急いで伝えてください!時間がないんです!風の強い日に、よっ…」

そこまで言って、ラルフさんに口元を押さえられた。

「なになに?もーちゃん、一緒にお茶でも飲もうか?」

「……」

「今日から君は、王太子付きになろうね。ねえ君、」

と、ラルフさんを呼びに行ってくれた騎士を捕まえて言づける。

「第一師団長に伝えておいてくれないかな?モニカ・オレリーは今日から王太子付きの騎士にするって。ね?」


***


ラルフさんはすぐ上の兄の友達なのでよく知っている。領にもよく遊びに来ていた。

モニカが小さかった頃、よく手合わせしてくれた、優しいお兄ちゃんだ。

(父と兄たちは…なんというか、容赦がなかったから…こんな優しい人がいるんだ、と思っていた。それでいて、強かったし。)


その人に口を塞がれたまま引きずられるように、廊下を歩き、大きなドアの前に立った近衛兵に軽く会釈して部屋に入る。というか、入れられる。


「イルマさん、このお嬢さんと僕にお茶をお願いします」

ラルフさんが相変わらずのんびりと奥に向かってそう言うと、部屋の隅で直立不動で立っていた私に椅子を勧めてきた。


大きな部屋に、会議にも使えそうな大きなテーブル。

執務用の机も大きい。それが3つ。

今、ラルフさんが腰を下ろした応対用のソファーが二組。

奥に、扉が3つ。

窓にはレースのカーテン。ベランダが広く取ってあるので、外から室内は見えそうにない。


「え?あ、いや…私、タイを忘れてきて…」

モニカは上着のポケットを探ったが、タイが見当たらない。第一師団所属のブルーのタイ。

まさか、王太子殿下の執務室に入ることになるなんて、思いもしなかったので青ざめる。

(…こんなだらしない格好って…不敬じゃないだろうか?)


「いいよ。じゃあ、これ」

ラルフさんが立ち上がって、本棚に付いた引き出しから取り出したのは、グリーンのタイ。にっこり笑って私に差し出してきた。


「今日から、このタイをしてね。」

あたふたとグリーンのタイを締める。

「うん。もーちゃんはグリーンが似合うねぇ」

などと言いながら、イルマさんと呼ばれた侍女の出してくれた紅茶を飲み始めた。

私も座って、紅茶を頂いた。正直、緊張して味なんかわからないが、のどは乾いていた。

「イルマさん、殿下は?大事なお客さんが来たって起こしてきてくれる?あと…もーちゃん、朝ご飯まだでしょ?」

「え?…ええ。」

「イルマさん。殿下の朝ご飯に追加で一人分ね。それから、フリッツも起こしてきて。」


はいはい。と言いながら、イルマさんがもう一つのドアから出ていく。

彼女が出ていくのと同時ぐらいに、飛び込むように部屋に駆け込んできた人がいた。支度が間に合わなかったようで、シャツの袖口のカフスを止めながら入ってきた。


「なに?さっき寝たところなんだけど?」

「お客様が来た。昨日の面子をあと30分で集めてきてくれ」

「えええええっ!せめて1時間!」

「この子がね…」

とラルフさんが私を見る。


「風の吹く日に、酔っ払い、のなぞなぞが解けたらしいんだ。」


「あ…じゃあこの子が?もーちゃん?もーちゃんよろしくね、僕は秘書官をしているフリッツ。へえ…なかなか可愛い子じゃないか。アダンさんの娘って言うから、どんなごっつい子かと思っていたけど。ふふん。しかも、緑のタイを締めたんだ」

「……?」


モニカは話がよく分からなくて…首をかしげて愛想笑いをする。

「フリッツ!」

ニマニマしながら私を見ていた秘書官殿がラルフさんに怒鳴り飛ばされる。

「あ、はいはい。40分後ね!」


「30分だ!」



















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