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「貴女が男性だったとして。」「はぁ?」ガーネットは頭のてっぺんからすっとんきょうな声を出した。「例えばの話ですよ。例え。」ビオネッタは地図を片付けながら、メイドに新しい紅茶を頼む。「ガーネット様が男性ならどんな女性を望みますか?」美貌?地位?可愛らしさ?知性?女性らしさ?胸の大きさ?清純?妖艶さ?ー。自分が男性だったら望む“女性とは”?ガーネットは、その日1日、勉強中も食事中もレッスン中も、その事を考え続けていた。黙々と、食事に不満をこぼさず食べるガーネットに、侯爵、侯爵夫人、他の姉弟達も、「何事か、何か良くない事の前触れか。」と、言葉に出さずに怯えていた。



夜、鏡の前に立って、寝間着の自分の姿を見る。13歳の自分は、まだ幼さが残る桃のような頬に、母親似の緩やかなウェーブの赤みがかった金髪。瞳は父と同じヘーゼルの色で、小さな鼻とバラの蕾のような唇。「完璧な美少女じゃない。」ふんっ!とのけ反り、腕を組む。「あの側仕えめ、私を妬んで意地悪するのよ。あのブルネット、まるで死んだカラスの羽根よ。」クフフと小さく笑った。と、鏡の自分と目が合った。「!」ガーネットは、慌てて後ろに飛び下がった。「…今のは…私の顔…?」

ガーネットは、脈打つ胸を押さえる。…なんとも意地の悪い、不気味に笑う己の顔。「!」手で顔を触る。何も変わっていないはず。なのに、あの顔は…。思い出しても、身の毛がよだつ。「…!ひぃっ!」ガーネットは、ベッドに潜りこんだ。怖い!恐い!こわい!



「あら、寝不足ですか?」ビオネッタは、ガーネットの顔を除き見る。次の日の勉強の時間である。椅子に座るガーネットは日頃からは想像出来ないくらいに静かでじっと机を見つめていたからだ。ガーネットは上目遣いにビオネッタの顔を見上げた。「…。」目の下にハッキリとした隈が出来ている。「どうかなさいましたか?怖い夢でも見ましたか?」「!違うっ!」いきなり噛みつくように否定するガーネットに、ビオネッタも彼女を見据える。「…何がありましたか?」目を見て静かに優しく問う。しばらくして、ガーネットの瞳が潤んだかと思うと、みるみる内に歪み、涙が溢れ、口を大きく開き、「ぶぇぇ~ん。」と、ガーネットは泣きだした。


ビオネッタは、辛抱強く、根気よく話しを聞いた。泣きながら、途中シャックリを上げながら話す内容を解読していくと、“鏡に映った己の醜さ”に、恐怖したのだと言う事だった。

「まるで、私が私じゃないみたいに…。あんな醜い…。」言い終わる前に、またもや声を上げて泣きそうになっている。「まぁ、それは当たり前の事ですよ。泣いたって仕方ありません。」ビオネッタは、新しく運ばれた紅茶を優雅に口に運ぶ。「!!あなた!人を馬鹿にするのも大概にしてよ!私は!傷ついたのよっ!?慰めるべきでしょ?!」ガーネットは、音を立てて椅子から立ち、涙でバリバリになった顔で猛々しく叫ぶ。

「そうですねぇ。」ビオネッタは、静かにそう言うと暫く庭を眺める。「今、ガーネット様から見て、私は怒っていますか?悲しんでいますか?」庭に目を向けたまま、ガーネットに問う。「どうって…。」ガーネットは、勢いを削がれ、質問に戸惑いながらも「…穏やかに庭を見ているわ。」私の視線の先に、雫が光る、オレンジがかった赤い大輪の花が、幾つも咲きほこっている。「そう、人の感情は表情や振る舞い、言葉に現れます。」庭を眺めたまま、話しをする。「心穏やかなれば、穏やかに。心が荒れれば、大声を出し、物に当たる。」ガーネットは、先ほどの自分の言動を思い出してわずかながら恥じ入った。「人を馬鹿にして、見下した時の顔が、恐ろしく歪んでいた。と言うのであれば、その時の貴方様の心は、醜く歪んでいたのでしょう。」ビオネッタはそこで話を区切り、紅茶を飲む。「ガーネット様。どうぞ、お掛けになって。」先程、怒りに任せて椅子から立ち上がったままだ。ガーネットは、素直に聞きいれ、メイドが椅子をひく。

「この世の中には、女は五万(ごまん)といます。」ティーカップを置き、彼女の方を見る。きょとんとしながらも、静かに聞く姿勢だ。素晴らしい変化だ。「そして、男も同様に、いる。」「…そう、なのかしら?」「例えばです。しかし、身分や性格、年齢、財力、知力、整った容姿。その全てにおいて、自分の条件に合った人物は男女共に、いてるか居てないか。もし出逢えたなら、奇跡に近い。」「…なのかしら。」ガーネットは眉を寄せ、小首をかしげる。この仕草だけなら、並みの男ならイチコロだろう。「けど、お父様もお母様も、今言った条件に合わなくて?結婚しているわ?」ガーネットは怪訝な顔で聞く。「確かに、御当主様、奥様共に、人格者でしょう。しかし、それが最初から備わっていたか、と言えば違うのでは?」「…。」「ましてや、高位貴族であらせられるお二方は、本心が周囲に悟られないよう、常に平常心でいられるよう努力なさっているのですよ。」「お父様、お母様が努力っ?!」ガーネットは、心底驚いているようだ。こいつは、本当に知らないらしい。

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