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「既に4人の側仕えが辞めていったんだ。」コック見習いのバンが言った。「旦那様も奥様も手を焼いていてねぇ。」洗濯女中のアリアも、ため息混じりに話す。「ありゃ、大奥様が悪いんじゃ。」白髪の庭師ロブが、シワを更に深めて呟く。


屋敷の裏手。古びた小さなガーデンテーブルとチェアが置かれ、使用人達の休憩に使われている。「ま、俺達は、お嬢様と直接関わる事も、まま無いからさ。」「あんたも、あんまり張り切り過ぎたらダメだよ。自分を大切にせにゃ。」「せめて、大旦那様が生きていらしたらなぁ。」それぞれがそれぞれ、言うだけ言って仕事に戻っていった。「…フゥム。」私は、使用人様のティーカップを口に運び、主人達が飲んだ紅茶の出がらしで入れた紅茶をのんだ。「さすが、侯爵。二番茶でも充分に旨いな。」しばし、紅茶を楽しみながら、昨日の侯爵とのやり取りを反芻する。


「では、“お約束”して頂きたい事柄がございます。」

我が儘令嬢は、筆頭執事とメイド長に引きずられ、部屋を後にしていた。侯爵を見ると、顔はにこやかだが、首元に汗が浮いている。彼も、理解しているのだ。いくら自身の爵位が相手より高いとはいえ、この娘(私の事ね)が断る可能性は充分にあり、そうなれば誰も側仕えがおらず、このままでは醜聞だけになってしまう。それだけは避けたいのだ。

そこで、私は条件をつけた。その条件のもと、彼女の側仕えになる。と、いった話である。

「あぁ、紅茶が旨いなぁ。」ゆったりと味わった後、カップをキッチンに運び、手ずから洗う。「あれ、置いといて下さいよぅ。あたし達がしますから。」キッチンで働く中年の女性が声をかけてくれたが、「もう、洗っちゃいましたよ。」と、カップ、受け皿、ティースプーンを布巾で拭き、棚に戻した。「私は雇われですから。奥さんの仕事を増やす訳にいきませんよ。」と、彼女の手に飴を一つ。「でも、気遣ってくれてありがとうございます。」キュッと相手の手を包んで感謝を伝えると、キッチンを出る。さて、お嬢さんは、しっかりとやってるかしら。



「…。」まぁ、素直にするはずないと思ってました。しかし、「暴れましたねぇ。」彼女の部屋はグッチャグチャ。ベッドの天蓋は破れ、インクはこぼれ、花瓶は倒れ、本は破け。「私の言う事をきかないからよっ!」13歳とは、思えない「稚拙で幼稚…。」な行いだ。「あんた、なんて言ったのっ?!」真っ赤な顔でお嬢様は震えていた。「おや、声に出ていましたか。これは失敬。」「ば、馬鹿にしてっ!お父様に言い付けて!首っ!いえ、死刑よっ!」涙目でこちらに指を指して宣う彼女の、その指を“バシッ!”と叩き払う。「?!」まさかの反撃に、彼女は手を庇いながら目を白黒させている。「お嬢様、残念ながら。」一歩近づくと、彼女は一歩下がった。「(わたくし)、躾と学びの為の、暴力は肯定派なのですわ。」一歩近づく。一歩下がる。「もちろん、言って理解し、行動を改めるなら、それにこした事はございません。」一歩近づく。一歩下がる。「しかし、何度注意され、諭され、チャンスを与えられても直す事も、直す気もないのでしたら。」一歩近づく。一歩下がれない。後ろは壁だ。「拳で解らせるしか、手立てはない。そう思いませんか?ガーネット・ガーデン侯爵令嬢。」一歩近づく。「まっ!待って!(わたくし)が悪かったわ!あなたを辞めさせたりしない!なんなら、新しい側仕え先を紹介するわ!だから、」はぁ。と、わざと大きなため息を一つ。「それじゃあ、なんの解決にもならないんですよ。」一歩。もう目と鼻の先だ。「わ、(わたくし)を殴れば、父様はあんたを首にするわ!」ほうら、本音が出てきた。「ほう。首、ですか。」「そっ、そうよっ!あんたなんか、無一文で放り出してやる!アリス伯母様に頼んで、家族もろとも…」「ガーデン嬢。」それ以上言わさぬように、扇を取り出し、彼女の口を押さえつける。「んぐっ!」そして、彼女の緑の瞳と自分の黒い瞳がつくやつかないかの距離まで迫ると、

「無知は己を殺します。」

ガーデン嬢の瞳に涙が盛ってくる。

肚の底から、低く、低く、静かに、彼女に聞かす。

「知らなかったでは、すまされないのですよ。あなたの地位、立場であれば。知っていなければいけないのです。過去に、命を散らした者達の想い、無念、愚行を。」

ガーデン嬢の白く桃のような頬に、涙が幾筋(いくすじ)も痕をつける。

「学びなさい。知りなさい。考えなさい。でなければ、(わたくし)以上に、あなたの首は、容易く跳ねられるのです。」ガーデン嬢は溢れた涙のまま、コクコクと頷く。「?」何やら異臭がする。「…。メイドを呼んできます。」彼女から離れ、スカートを翻し部屋を出る。扉を閉める際に見えたのは、涙でベタベタのまま。放心して座りこむガーネットの姿だった。「…あの小娘、漏らしやがってっ。」口の中で悪態をつく。先が思いやられる。

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