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さぁ、気づきましたよ、皆さん。私、ビオネッタ・ドーマンは、どうやら、将来、悪役令嬢となってしまうお嬢様の側仕えになった模様。はたして、物語はいかに進んでいくのか。ドキドキとワクワクが止まりません。
ある日、ある時、ある場所で、一人の少女がいました。彼女は子爵の娘で、彼女の家族は程よく貴族で、程よく農民でした。拝領した土地は、程よい広さで、川と山と平地があり、暮らす農民達も、程よく耕し、程よく漁をし、程よく生産していましたから、地領からは程よく目をつけられず、それどころか「気づかず通り過ぎてしまう古ぼけた道標」と揶揄される程に、気づかれない土地でした。子爵の娘が数えで15才になった年、彼女の父は言いました。「15才になった貴族の娘は、行儀見習いに、王族に連なるお方の側仕えにいくんだよ。そこで、学校では習わない貴族の在り方を学ぶんだ。」「解りました。参ります。」
そうして彼女は、子爵家が懇意にしている帝都の商人の馬車に乗せて貰い、紹介状と小さなトランクを手に、産まれて初めて、帝都へとむかったのです。
「やれやれ。」帝都にある商人の店先で馬車を降りたそうそう、街の喧騒に辟易していた。「お嬢様、しばらくお待ち下さい。荷物を下ろしましたら、すぐにガーデン侯爵様のお屋敷に向かいますので。」商人は、品物を我が領に運び、我が領から品物を運ぶ。だから、荷物を下ろさないと商人も困る。売る品がない。「いや、すぐそこだから歩くよ。地図もあるし。」「しかし、」「親父、俺がついていくよ。配達もあるから。」商人の上の息子が付き添いをかってでてくれた。「ありがとうございます。」「いえ、こちらこそ。いつもお世話になっております。」そうして、ガーデン侯爵の屋敷に向かった。
「俺…わたくしはリクスです。父、バールの長男で、ゆくゆくは父の後を継ぐ事になりますので、お見知り置きを。」「ビオネッタ・ドーマンです。お父上は、いつも我が領に良い品を届けて下さいます。どうぞ、いつもの話し方で。気を使わずに。」「…すいません、慣れなくて。俺もまだまだだなぁ。」なんて、当たり障りのない会話をしながら歩いてゆく。「しかし、15歳にしては落ち着いていらっしゃいますね。俺の妹、今、13歳なんですが、食い物とおしゃれと恋愛の話しかしません。」「リクスさんはおいくつで?」「今年で18になります。そろそろ嫁さんを探さなきゃならんのです。」チラチラとこちらの様子を見ている。可能性はないが、女性と関わりは持っておきたい。話す練習をしておきたい。と言ったところだろう。「なるほど。」ピタリと足を止める。「?ドーマン嬢?」急に立ち止まった彼女に、リクスは疑問を持つ。「なら、あなたは“自分が女性なら”、と言う視点で行動なさると良い。」いきなり言われて、リクスは目を白黒させる。「え?え?」「まず…。」彼女は歩きながら、彼に教えを説いた。ガーデン侯爵の屋敷が見える頃には、リクスの顔は、いっぱしの紳士のように落ち着き、柔らかな笑みと誠実さを持ち合わせていた。「お嬢様、ご指導、ありがとうございます。何かお困り事がありましたら、我がバール商会にご連絡下さい。直ちに参ります。」「案内、ありがとうございます。初めての土地でそう言って頂き、心強いわ。」お父上に宜しくお伝え下さいね。そう言って、ガーデン侯爵の門に向かう彼女の背に向かい、リクスは長らく頭を垂れた。
門番に紹介状を渡し、確認が取れると中に通された。さすが帝都の侯爵のお屋敷だ。ここまで歩いてきた通りは、どうやら奥に行くほど爵位が上がるらしい。侯爵の屋敷を訪れるまで、徐々に敷地を区切る各屋敷の壁が長くなっていた。
『歴史あるガーデン侯爵邸。敷地も広い。建築様式も美術館並み。けれど…。』そこかしこに老朽化が見て取れる。
メイドに案内された客間で待っているとドアがノックされ、執事が「当家の主人、ダレン・ガーデン様です。」と、扉を開く。「やあ、ドーマン家の娘さんだね。私はダレン・ガーデン。君のお父さんから話は聞いているよ。」にこやかに話ながら、ガーデン侯爵は上座のソファに座る。爽やかなイケオジである。一応、カーテシーをしながら「ビオネッタ・ドーマンです。」と、挨拶してみる。「やぁ、なかなかに美しい挨拶だ。君が娘の側仕えになってくれて嬉しいよっ!」おや?なにやら引っ掛かる物いいだ。「…私はお嬢様の側仕えになるのですね?」「ああ、妻には既に三人の側仕えがいて、手は足りているんだ。」「かしこまりました。では、お嬢様はどちらに。」「ああ、すぐに来る“バターンッ!!”ガーデン侯爵の最後の言葉は、壮大に開かれた扉の音にかき消え、「お父様っ!わたくし、お勉強したくありませんっ!側仕えもいやっ!」絵に描いたような我が儘娘が現れた。「いけないよ、ガーネット。お客様の前で。」侯爵、それ叱れていません。「でも、側仕えにきた人でしょ?お客様じゃないわ!」おぉう。なかなかに、口が悪い。「こらっ!ガーネット!」怒ってる顔も勇ましく凛々しいイケオジ、ガーデン侯爵はため息をつき、私は心の底から…頼む、採用しないでくれ。と、願っていた。




