答えを求めて2
「私がこのラジャンバの領主マサユキだ。わざわざお越しいただき感謝する。断られたらこちらから会いに行くつもりだったが、まあ座ってくれ」
ジェードのお爺さんは豪快で気さくな雰囲気だった事に葵は少しホッとした。
名前が日本人っぽいのはきっとジェードの曽祖父が付けた名前だからだろう。
「千堂葵です」
領主邸で応接室と思われる部屋に案内された葵は名前を名乗り、すすめられるままにソファーに座る。
フルネームを名乗ったのは多分マサユキという名前に反応しての事だと思う。
「今回の魔物の襲来騒ぎ、街に何の被害も出なかったのは君のお陰だそうじゃないか、礼を言う」
「あ、はい」
軽く頭を下げるマサユキを前に葵はどう応対するのが正解なのか分からずしどろもどろになる。
「お爺様、それだけではありません。あのドラゴンを寄付いただいているのです」
「そうじゃったな。あのドラゴンは結局王家に献上する事になった。今頃王都は大騒ぎじゃろう」
豪快に目の前で笑うマサユキに葵は何だか意味が分からずに戸惑ってしまう。
あのドラゴンはトルンバの発展の為に寄付したのに何で王家に献上なんて話になっているのか。
もっとも寄付した以上葵が口を出すべきでもないし、その使い道は自由といえば自由だがマサユキが嬉しそうに笑う意味が分からなかった。
葵がジェードにあげたつもりになっているドラゴンを、マサユキが手柄欲しさに取り上げたんじゃないかという気がして途端に面白くなくなる。
「どうしてそんな話に?」
「ドラゴンとはそれだけ貴重なものなのだ。下手に売りに出したら少なからず争いになる。そして王家も面白くないと騒ぐだろう。ならば先手を打って献上し恩を売った方がトルンバの町の為にもなる。あの地でドラゴンが討伐されたと知られればドラゴンを手に入れたいと考える者の息がかかった冒険者や功績欲しさの高ランク冒険者も集まる事となるだろう。結果町までの街道は整備され新たに山脈までの街道も開かれる事になる。それも王家や他貴族の手によってな」
目先の現金に拘りがちな葵とは違い、マサユキは経済効果を見込みちゃんとトルンバの発展を考えていたのだ。
これが領を統治する人の考えなのだと葵は素直にあっさりと納得し、そして自分の浅慮を反省した。
「ところであのドラゴンはいったいどこから来たのかはやはり分からんのか?」
言われてみると葵も首を傾げる。突然あの山に現れたとはいえあの一頭だけという訳も無く、例えば巣立ちで親元から離れた個体だったとしても、きっと親や兄弟や仲間がどこかで生息しているのは確かだ。
「森の異変を調査していて偶然見つけた個体です。その先の調査はまだしていません」
返事をしたのはジェードだった。
「では急ぎ調査隊を編成するか」
「あのドラゴン、確かにアオイが一人で倒したとはいえけして弱くはありません。その辺を軽く考えるのはいかがかと思います」
ジェードは調査隊の編成に反対なのかまるで考え直せとでも言っている風だった。
「確かにドラゴンは伝説になっていた魔物だ。しかし過去にも父が単身で討伐した記録はある。慎重になるのも分かるが女の身でも倒せる魔物なのだ。ジェードや、謙遜し過ぎるのも良くはないぞ」
マサユキの口振りから葵はすべてを理解できた気がしていた。
きっとマサユキは葵とジェードの二人でドラゴンを倒したと考えているのだろう。
そしてジェードの手柄を葵に譲っているのだと…。
(まぁ、別に良いけどね…)
「ですからそうではありません! 何度申し上げたら信じていただけるのですか。昨日もワイバーンをアオイ一人で軽く倒していたのは多くの冒険者や衛兵が見ております。そんな彼女だから倒せたのです。私レベルの冒険者が10人集まろうとあのドラゴンに太刀打ちはできません。軽く考えていると冒険者の身を危険に晒す事になるのですよ」
「分かった分かった。だが訳あり冒険者とは言え私の孫であるジェードが女に劣るとは考えられない。今まで武力に長けた訳あり冒険者も父ほどではなかったと聞くぞ」
男尊女卑の考えが強いマサユキは父ユージの生まれ変わりと言われるジェードの強さを信じているのだろう。
「どう言えば信じていただけるのですか…」
ジェードは肩を落とし溜息を吐くように呟いた。
「仕方ないわよジェード。ジェードも初めは認めたくなかったでしょう、女が男より強いなんて」
「そ、そうだが…」
「第一訳ありの冒険者だから何も言わんが女は結婚し子を生すのが務め。どうして魔物の討伐などしておる」
葵とジェードの囁きのような話にマサユキは本音をみせる。
「魔法を使ってみたかったからよ。私は私のしたい事をしているだけで誰にも迷惑をかけてないわ」
マサユキの言い方にカチンと来て葵もつい強気に言い返していた。
だいたい会いたいと無理に招いたのはマサユキの方なのになんだろう馬鹿にしたかったのか?
それともジェードの活躍を葵の口から聞きたかったとか?
「お爺様も一度彼女の使う魔法をご覧になれば納得していただけるかと思います!」
ジェードがダメ押しのつもりなのか急に声を荒げる。
「分かった、そうまで言うのなら王都の魔法院で認められてみよ。そうすれば魔法には明るくない私でもおまえの言う事も信じよう」
「そんな事簡単です。必ずや認めさせてみます」
葵の意思を聞かれる事無く勝手に進むジェードとマサユキの話に葵はただ呆れるばかりだった。




